6話 その孔雀は華麗に踊る
夜9時、校舎裏口。
真栗が用意した合鍵でドアを開け、2人は静かに中に入る。
足音を殺し、声も交わさない。
直人の鼓動がやたらとうるさく感じる。
「こっち。私が見張るから、白川くん、箱の中調べて」
演劇部の備品倉庫。照明の裏、埃をかぶったケース。
中には、舞台用のジュエリー、アンティーク風の装飾具、本物の金具など——高価そうなものがいくつもあった。
(これ……盗むのか……俺が……)
手が震える。けれど、それでも箱に手をかける。
「おそろいの手袋、つけてあげるね」
背後から真栗が手を伸ばし、彼の手に黒い手袋をはめていく。
その手の柔らかさ、甘い香り——
そんなものにすら、彼は心を支配されていく。
「よし、オーケー。じゃ、持って。早く」
真栗の声は少し浮かれていて、まるで遠足にでも出かけるかのようだった。
外に出ると、夜風が頬を冷やした。
それでも直人は、盗んだ箱を抱えていた。
何かが決定的に終わった気がした。
けれど、それ以上に、自分にしか見せない真栗の真実を見たとき——
(……全部、壊れてもいいって、思ってしまった)
ふと、真栗が手を伸ばしてきた。
「ね、せっかくだし、帰り道——手、つながない?」
その手は、あの日の正義とは真逆の温度をしていた。
でも、あたたかかった。
直人は、ためらいながらも手を握った。
——初めての盗みは、手をつないで。
静かな夜道に、2人の影が並んで伸びていた。