5話 全部、壊れてもいい
次の日、直人は生徒会室を訪れた。
真栗は、いつも通りだった。
書類を整理しながら、にこやかに話しかけてくる。
「白川くん、今日もお疲れ様。ねえ、昨日の話、考えてくれた?」
「……考えました」
——薬絵真栗を告発する。
それが一晩考えて到達した結論。不器用な直人は、自分の信条に逆らって生き続けることなどできなかった。
「——っ」
それを告げようとして、息が詰まる。寂しそうに笑う彼女の袖の隙間から、傷の跡が覗かせた。
「——協力、します」
世界がまた一つ、歪んだ気がした。
◇◇◇
「これ、使って」
放課後の図書室裏。
人通りもなく、薄暗いその場所で、真栗は鍵束を差し出した。
「生徒会の備品倉庫の鍵。予備が職員室に無造作に置いてあってさ。——抜いといた」
「……これで何を」
「今夜、行こう。演劇部の倉庫。
あそこ、美術用の機材とか衣装用のアクセサリーとか、けっこうな金額するものがあるんだって」
直人は無言で鍵を見つめた。
(本当に……やるのか。俺が……俺まで……)
「ねえ、怖い?」
真栗が一歩近づく。
制服の胸元から、さりげなく覗く鍵のネックレス。
それすらも彼女の支配の象徴のように思えた。
「……怖くない。やるよ、俺が決めたんだ」
その声は震えていたが、確かに彼の口から出た言葉だった。
「ふふっ。かわいい」
真栗は嬉しそうに笑い、そっと直人の手を取った。
「じゃあ、白川くん。今夜——私たち、共犯者になるんだよ」