20話 夜に駆ける
午前3時。
眠りに落ちかけていた直人は、遠くの地鳴りのような足音に目を覚ました。
「……真栗!」
声をかけるより早く、ドアが破られる音が響いた。
「警察だ! 動くな!」
小屋のドアが蹴破られ、複数の懐中電灯が2人を照らす。
直人は咄嗟に手を挙げ、真栗は何も言わずに目を閉じた。
(終わった——?)
そう思った。
でも次の瞬間、聞き慣れた声が響く。
「白川くん、薬根さん……」
佐倉凛花だった。
制服の上にカーディガンを羽織り、真夜中の現場にいるのが不自然なほど整った姿。
「ごめんなさい。ずっと……見てた。
本当は、あなたたちを止めたかったの。でも怖くて、何もできなかった」
真栗は、ゆっくりと立ち上がった。
「凛花……あんたが、密告したの?」
佐倉は頷いた。
その目に、涙のようなものが浮かんでいたが、罪悪感よりも“決意”が宿っていた。
「あなたが最初に盗んだとき、私は見逃した。何も言わなかった。
でも、白川くんを巻き込んだ瞬間……もう、黙っていられなかった」
静かだった。
あまりにも静かで、風の音さえ止んだようだった。
「凛花」
真栗は、微笑んだ。けれどその笑みには、なにかが欠けていた。
「——ありがと。もういいよ、私たち……捕まるから」
「えっ?」
その瞬間、警官が歩み寄ろうとした。
が——。
真栗が腰のあたりから、スモークボムを投げた。
「今だ、走れ直人!」
煙と叫びと混乱の中、直人は反射的に走り出した。
後ろから怒声。
真栗が先を走る。
小屋の裏手にバイクが隠されていた。
「こんなもんまで……用意してたのかよ!」
「この程度は基本でしょ! 今はとにかく逃げるよ!」
エンジン音が夜を裂く。
警官たちの叫びが遠ざかっていく。
2人は夜の県道を駆け抜けた。




