1話 際会
職員室の前を通りすぎる時に、ふと職員室前の掲示板に貼り出された注意喚起が目にとまった。
——「連続窃盗事件発生中」
——「校内で現金・私物の盗難が複数件確認されています」
——「犯人の特定には至っていませんが、ロッカーの鍵をきちんと閉める等、各自対策をよろしくお願いします」
直人の心に、火がついた。
(許せない。こんなこと……俺が止めなきゃ)
翌日から、直人は休み時間や放課後を使って校舎を巡回した。
人気のない廊下、物陰、部室棟。目撃情報を整理し、自作のメモを地図に書き込んでいく。盗難が起こった場所や時間、その時にいた人を聞き込んで、それもまたメモしていく。
それは地道ながらも、確実に進んでいった。
そして1週間ほどが経ち——。
放課後の誰もいない教室で、物音がした。
足音を殺して近づいたその瞬間、風に揺れた髪が、月明かりに照らされた。
「……え?」
あの、見間違えるはずのない後ろ姿。
幾度も恋焦がれ、その想いに蓋をしてきた彼女が、そこにいる。
ひざをつき、誰かの鞄の中を漁っている、その人影。
「——薬根、さん……?」
その名を呼んだ声は、とても自分から発せられたとは思えないようなものだった。
振り返った真栗の表情は、いつも通りの少し目尻が下がった微笑みで、それが逆に不気味に感じた。