12話 影
「間違いない。“誰か”が、この鍵が使われてることに気づいて、正規の鍵と入れ替えたの。
つまり——私たちの犯行がバレ始めてる」
真栗の顔から笑みが消えた。
「白川くん、もう“誰か”は私たちを見てる。
次、私たちが動いた瞬間に——捕まる可能性、ある」
「……江口か?」
「たぶん違う。江口は慎重すぎる。動かずに、証拠を集めてる最中のはず。
今、動いてるのはもっと軽率な誰か……たぶん、教師か、生徒の誰か」
直人の頭の中に、ある教師の顔が浮かんだ。
生活指導担当の佐和田先生。校内の細かい変化によく気づく、いわゆる“空気読み型”の男。
(あの人……前にさりげなく俺の手元を見てた。あの時の、あの視線……!)
「どうする? もう逃げる?」
直人が問うと、真栗は首を横に振った。
「いいえ、まだ終わってない。
“本番”までは、あとちょうど5日。逃げるのは、それが終わってから」
「でも……このままだと、どっちにしても……」
真栗は直人の手を、そっと取った。
その手は冷たく震えていたが、しっかりと握り返す力があった。
「白川くん、今さら戻れないのは、もうわかってるでしょ。
だったら、私たちの手で終わらせよう。——全てを盗んで、全てを捨てて。
それが、この物語の結末だよ」
直人は、答えなかった。
けれど、その手を振りほどくこともしなかった。
静かな廊下に、気配が一つ、微かに残っていたことに、2人は気づかなかった。
——遠く、ドアの影に一瞬だけ現れた、第三者の影を。




