6 一番最初に売れた物は?
今回のお話で初めて商品が売れます。
本編をお読みになる前にその商品とはいったい何か予想していただくと嬉しいです。その予想が当たったか外れたか、お知らせいただくと嬉しいです。
それでは本編をお楽しみ下さい。
「二人が鉱石を取りに行ったのは雨を避けられるような洞穴のひとつも無えあたりだ。おめえさん、そんな所でどうやって雨宿りなんか出来たんだい?」
ゴーリャマの狩人達のまとめ役ヤジューからの問いかけ、一瞬秘密にしようかとも考えたがノエルにせよフェネスにせよ実際に目にしている訳だから隠し通せる訳でもない。そこで俺は正直に話す事にした。いざとなれば逃げるなりなんなりすれば良いし。そう考えた俺はヤジューの家の裏庭に場所を移しさっそく店舗を呼び出した。
「こ、こりゃあ…いったいなんだ…。いきなり変な建物が現れたじゃねえか」
現れたドラッグストア『シダムス薬局』の外観を見てヤジューが呟く、一方で俺は入り口へとそんなヤジューを入り口に案内した。
ブウゥゥゥゥン…。
「うおっ!?」
低い機会音を立てて自動ドアが開く、ヤジューはそれに驚き毛や尻尾を逆立てた。一方、一度それを体験しているノエルとフェネスは慣れたものだ。それはそういうものだと落ち着きはらっている。そして店の中に入るとヤジューは天井を見上げた。
「な、なるほど…。この中にいたって訳かい…、そりゃあ雨宿りも出来るわなあ…。それにしても妙な所だぜ…。なぁ、テンチョーさんよ。ここはいったいなんなんだい?」
ヤジューが問いかけてくる。
「ここは…、そうだな。一言で言ってしまえば店だよ」
「店ェ?そうなのか?ずいぶんとガランとしちまっているが…」
店の奥の方、ペットコーナー以外は棚も何もなく床しかない店舗を見回してヤジューが感想を述べた。
「ああ、こりゃ最初の…いや始めたばかりで…。だからあれだけなんだ」
まあ、嘘は言ってない。就職して最初に担当したのがペットコーナーだったからな。それにこの異世界に転生したのを自覚して店を呼び出せるようになったのは今日が初めてだし、うん…嘘ではない。
「見ても良いかい?」
「それは構わないが…」
店内を歩いてペットコーナーに向かう。だけどなあ…あそこに置いてるのはドッグフードやキャットフード、猫砂とか首輪とか…まあそういう品々だ。売れそうな物なんて…、俺がそう思っているとペットコーナーにやってきたヤジューは鼻をひとつ動かすと足早に商品棚に近づいた。そしてひとつの商品を指差した。
「こ、こりゃ、なんだい?」
それは8キロ入りのドッグフードの大袋だった。パッケージの表面には片目をウインクさせ舌をペロリと出している犬のイラストが描かれている。
「これはドッグフードだよ」
「ドッグフード?聞いた事のねえ名前だな。だが、こりゃ悪くねえ匂いだ。これ、食いもんなんだろ、なあなあ?どんなモンなんだい、教えてくれよ」
「く、食い物…?」
俺は一瞬言葉に詰まる。ドッグフードだぞ、これ…。でも、日本のペットフードはメーカーにもよるが最後は人間が食べて品質を確かめると言うし…、食べても大丈夫…かな。そう考えた俺は説明を始めた。
「そ、それは獣の肉を細かくすり潰して小さな塊にした物を干した感じだな」
「おお!干し肉か!?でも、それだったら一枚の肉をそのまま使った方が良くねえか?」
「ああ、それは…」
ヤジューから当然とも言うべき返答が返ってきた、そこで俺はペットフードの知識とかドゥサードが知っていたこの世界の干し肉の事を思い出しながら口を開く。
「一枚の肉にしても厚さとか部位が違うからね、同じように干したって乾き方はそれぞれだし味も違う。それに肉を塊のままだと塩をたくさん染み込ませなきゃいけなくなる」
塩分は体に確かに必要、だけど摂りすぎは内臓に良くない。だから各種ペットフードは塩分量には気を使っている。それにペットフードは当然ながら食堂とか台所で作ってる訳じゃない、工場で作られているものだ。均一の品質、それが大事。そうでなけりゃ違う地域で買ったら品質が違うなんて事になってしまう。
「そっか。まあ、そうだわな。妙に塩っからい干し肉もありゃ乾ききってねえのもありやがる。出来が良い悪いって話になっちまうけどよ。なあ、これをちっと食わせてくれねえか?」
「エッ!?これを?」
「そうだ。どうかしたか?」
ど、どうするか…?ペットフードだぞ、これ。それにもし気に入らないなんて事になればそれはそのまま大損だ、それだけは避けたい。どうしたものかと視線をさまよわせると同商品のお試し用50グラムの小袋(試供品)があった。俺はそれを素早く手に取りヤジューに話しかける。
「いきなり大袋を開けてもし気に入らないってなったら困る。だからこの小袋ので試してよ。同じ物が入ってるから」
そう言ってヤジューに試供品のパッケージを軽く開けてやりながら手渡した。サイズ的にはコンビニとかで気軽に手に入る百数十円くらいのピーナッツ揚げくらいの大きさの袋だ。
「良いのかよ、干し肉だろ?そんなに安いモンでもねえだろうに」
「気にしないでくれ。そちらも中身がどんなモンか分からなきゃ買うってのも不安はあるだろうし」
「そうかい、そういう事なら…」
そう言ってヤジューは小袋を軽く振って中身を何粒か反対の手で受け止めた。小さな骨やハンバーグと思われる形状の粒々の物だ、ヤジューはクンクンと匂いを嗅ぐ。
「ああ、確かにこの匂いだ。だが、ずいぶんと小ちゃいモンなんだな。豆くらいの大きさか…、どれ…」
ヤジューはドッグフードを口に運んだ。見守っている俺達の耳にヤジューが歯で噛み砕くカリコリという音が響く。
「…うっ!!ぐふっ、がほっ!!み、水ッ!?」
ヤジューが突然咳こみだした。慌ててフェネスが腰に付けていた水筒を手渡すとヤジューはそれをグビグビと飲む。
「だ、大丈夫か!?」
やはり人が食うには無理があったか…、そう思った俺は慌てて駆け寄った。だが、ヤジューはそれを片手を上げて制した。
「ふうっ…!悪い、悪い。ちいとばかしむせちまったぜ…。乾いたモンなんだから口の中がパサつくのは当たり前だわな。ガッハッハ!!」
どうやら気に入らなかった訳ではないようである、俺はひとまず胸を撫で下ろした。
「いやー、ビックリしたぜ。変わった食感だがこりゃあ確かに干し肉だ、水をたくさん飲みながら…って事にはなるだろうが腹も膨れるし丁度良いか。ああ、テンチョーさんだったな!すまねえがコイツを売ってくんねえか、値段次第だが出来るだけ多く買いてえ」
笑顔を浮かべながらヤジューが提案してきた。とりあえず値段をどうするか…、俺は頭の中で算盤を弾き始める。それにしても…、異世界で一番最初に売れたのがドッグフードとは…。俺はよくある異世界モノのラノベのようにはいかないなと思ったのだった。
初めて売れた商品はドッグフードでした。
みなさん、予想は当たりましたか?
次回は中世ファンタジーでは古くからおなじみの種族との本格的な交流が始まります。売れる商品は当然ながらアレです。
次回もお楽しみに。




