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5 ゴーリャマの里


「「テン…チョー……?」」


 俺がそう呼んでくれといった呼称にノエルとフェネスが不思議な呼び方を聞いた…みたいな感じで首を傾げた。その様子は小学校低学年くらいの子を対象にした教育番組に登場するお姉さんのようだ、聞き慣れない単語を耳にして大袈裟に首を傾げるような…そんな雰囲気だ。


「…………う、うん」


 マズい、間違ったか?あまりにも聞き慣れない呼び方に二人が不信感を持ってしまっただろうか?これを日本で例えるならば小さな女の子と話していた男が明らかな偽名を名乗っているようなものか?すぐさま通報案件になりかねない事をしたんさじゃないかと俺の心中は同様する。そんな俺の様子を見ていたノエルとフェネスがやがて口を開いた。


「テンチョー…、覚えたのれす」


「改めてよろしく、テンチョー」


 どうやら俺の心配は杞憂に終わったようである、


……………。


………。


…。


「ここが…」


「ノエル達が住むゴーリャマの里なのれす」


 ノエルとフェネスの二人に連れられてやってきたのは木々に囲まれた集落であった。人の姿が常に目についていた王都と違って人はまばら、そして種族も人間ではない。獣耳と尻尾があるいわゆる獣人と呼ばれる人々だ。そんな中、ある家屋の前にたどり着いた。ここまで見てきた集落の建物の中では一番大きい、そこにフェネスを先頭にして歩いていく。


 フェネスは到着を知らせる為に扉に付いているドアノッカーに手を伸ばす。最近の日本じゃインターホンが当たり前だからああいう打ち金式の来客を知らせる道具がドアに付いてる家も少なくなってたよなと俺が思い返しているとフェネスは持ち上げる、ドアノッカーは意外と…いやかなり大きい。金属製の巨大ドーナツといった感じだ。そんな馬鹿でかいドアノッカーをフェネスは高く持ち上げ…、


「そおいっ!!」


 がんっ!!


 投げ離すようにして打ち金を落とした。すると思っていたよりもはるかに無骨で大きな音があたりに響いた。ちょっと待て、フェネスよ。来客を知らせるのにドアノッカーは使うものだが今のはちょっとやり過ぎじゃないのか…、俺がそう思っていると家屋の中でも反応があった。


 ドタドタドタッ!!


 家屋の中から人が走ってくる気配がすると勢いよく扉が開いた。


「うっせーぞ、馬鹿野郎!もっと静かに鳴らさねえかいッ!!」


 唾を飛ばしながら怒鳴り声を張り上げながら現れたのはおそらく犬か、あるいは狼の特性を持つ中年といった獣人男性だった。片頬に傷があり、なかなかに貫禄を感じる。


「お父さん、ただいま」


「ん!?お、おお、フェネスじゃねえか!おめえ、ノエルと一緒に鉱石取りに行ったと聞いてたんだが…。雨には降られなかったか?あんまりにも激しい雨だったから心配してたんだぜ!」


 お父さん…?俺は思わず首を捻った。フェネスは狐の獣人だったよな、だけど目の前にいるのは明らかに種族が違うように思える。あまり獣人には詳しくないのだが狐の獣人であるフェネスに対して目の前の男はあきらかに種族が違う。


「ん、雨には降られた」


「降られた…って、おめえ…。だけど、あんまり濡れてる様子はねえな。しかし、こりゃあいってえどういう事だい?あのあたりにゃ満足に雨風しのげるトコなんてねえはずだ」


「それはノエル達はここにいるテンチョーに助けてもらったのれす。そもそもフェネスが鉱石取るのに欲張ったから帰りが遅くなったのれす。そしたらあのクソ雨に降られるなんて事も…」


「むー、それを言ったらノエルもそう。あと一個、あと一個と袋に石を詰めまくっていたら雨になった。ノエルも同罪」


「ぐぬぬ…!だ、だけど雨宿りさせてもらって…」


「おいおい、ちょっと待て!雨宿りをさせてもらったァ?まるで話が見えねえぞ!とりあえずテンチョーってのはそちらさんかい?」


 フェネスにお父さんと呼ばれた獣人の男がこちらを向いた。ガッチリとした体格もあり中々の迫力だ。俺はひとまず問いかけに頷いておく。


「あ、ああ…」


「そうかい、そうなると改めて礼を言わせてもらうぜ。俺はそこにいるフェネスの親代わりをしているヤジューってモンだ。狩人達の取りまとめ役をさせてもらってる。ウチのフェネス、そしてノエルが世話になったようだな」


「いや、それはこちらこそだ。俺もこの里に連れてきてもらったから…」


「それでも…だぜ。フェネスにしろノエルにせよこの里の大切な子供だ。それが世話になったからにゃあ…おめえさん、大事な客人だ。…ところで」


 ひと呼吸整えてヤジューは口を開いた。


「二人が鉱石を取りに行ったのは雨を避けられるような洞穴のひとつもえあたりだ。おめえさん、そんな所でどうやって雨宿りなんか出来たんだい?」



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