2 出現!!ドラッグストア!!
ゴロゴロゴロ…。
雷が鳴っている。
「俺の行く手には晴れやかな空が待っている…はずだったのになあ…」
ダクタエックス王国から国境を越えてオウーエツに入ってしばらく歩いていたら急に雷の音が聞こえてきた。絵の具で色付けたようにあれほど真っ青で明るかった空、それが今では薄暗くなってきている。特にこの先…、オウーエツ連合の方には黒い雲が湧いてきている。おまけに冷たい風が吹き込み始めた、ぴゅうぴゅうと音を立て次第に強くなってきた、
「濃い色の雲だ、まさに雷雲…。それにこの風、雷を伴う激しい雨が来そうだ…」
俺が見上げた空は日本だと時折見られるゲリラ豪雨時にちらほら見られるような濃い灰色の雲、中には黒に近い色の部分もある。まずいな、どう考えてもこのあたりにも降ってきそうだ。雨宿り出来そうな場所…、そんな建物はない。見回してみるがあるのは曲がりくねった登ったり下ったりする土の道と生えている木々くらいなもの、少なくとも屋根になりそうではない。
「洞穴みたいなもんでもあれば良いんだけど…、そう都合良くはいかないか…。いや、むしろ猛獣の巣だったりしたらアウトだ。どうするか…」
だが、そう都合よく適した場所は見つかりそうにない。日本にいた頃の知識があるにはあるがこういう時に言われていた事といえば頑丈な建物に入れ、川や海などの水辺には近づくなといったぐらいのものだ。だけどそんなのは都市化が進んだ日本だから言える事、こんな山の中ではとても役に立ちそうにない。
「俺にはなんか無いのか…、ドゥサードは薬師になり前世の俺のドラッグストアで働いた時の知識を活かして様々な物を作った。それこそ薬とは限らない、体臭対策ボディソープみたいなドラッグストアで売ってる物まで開発してた…。まあ…あんなラフレシアみたいなヤツに作ってやる義理はないし、そもそも俺は薬剤師でも薬師でもないから作れないけどな。まあ、混ぜりゃ良いだけなのかも知れないが…」
誰もいないから話す事に飢えていたのかも知れない、周りには誰もいないのにひとりで呟いてしまっていた。もちろんそんな事をしたからといって状況が好転する訳じゃない、こうしている間にも黒い雲はどんどん近づいてくる。
「ドゥサードはこの世界でひとかどの薬師…、だけど俺は普通に卒業した後に就職した雇われ店長だ。日本での社会人経験はあるがこの異世界じゃ何の足しになるってんだよ。くそ…、ドゥサードはこの経験を活かしてたってのに薬師でもない俺はこのドラッグストア勤務の経験しかないのに…グッ!!?」
ドクンッ!!
胸の内が激しく高鳴る、体の内側から金槌か何かで殴られたような衝撃。病気か…と思ったのだがそれは違う、胸が高鳴ったのは事実だが痛くも苦しくもない。ただ自分の中で何かが起きてる、そんな感覚…。そんな不可思議な感覚に襲われているのにも関わらず俺には死にはしないという不思議な自信があった、同時にこれから何かが始まるような…それでいてこれまでずっとしてきた事のような…未知の事であり既知の事でもあるその感覚に身を委ねる。
ゆらり…。
冷たい風が吹き込んでくる山道に陽炎のようなゆらめきが見えた。あたりに茂る山の木々が見えにくくなったかと思ったら緑色の屋根に白い壁面の建物が現れた、前面はガラス張りで自動ドアには『シダムス薬局』の文字…。
「こ、これ…、俺が勤めてた…」
ポツッ…!
頭に冷たい雫がひとつ落ちてきた、決して小さくはない。見ればあたりにもポツッ…、ポツポツッと雨が降り始めている。頭の上はすっかり黒い雲が覆っている。これはもう五分もしないうちに激しい雨になるだろう。
「くっ!?あれこれ考えるのは後だ、後ッ!!」
そう言って俺は目の前に現れたドラッグストアに飛び込んだのだった。