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朱月のアリス  作者: 白塚
第1章 騒乱の陸軍編
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【第1章】7話「騎兵の厄介者」


「…ッハァ、ハア…待てや八木…てあれっ、もう捕まってる!」


 八木が憲兵に拘束された直後。姉妹が林から顔を出した。そこにいた銀髪の男と目が合う。


「おや、これはこれは…こんばんは。貴女方ですね?期待の新星(ニュービー)とやらは。一度会ってお話してみたかったのですよ」


 扇子を仰ぎながら銀髪の男はそう言って笑う。独特の雰囲気を放つその男に椿が問いかける。


「アンタ…誰…?」

「おお、失礼。私は近衛師団騎兵科の御船 学(みふね まなぶ)と申すものです。そしてこちらは…」

「八戸です。御船少尉殿のバディを務めさせていただいております」


 銀髪――御船の後ろに控えている八戸は無表情のまま自己紹介をする。


「アタシは…」

「ああ、すべて知っているので貴女方の自己紹介は不要ですよ。それにしても…本当に聖魔入り混じる者がいるとは…好奇心がくすぐられてしまいますねぇ…」


 そう言いながら御船は椿と百合の爪先から頭までじっと観察し始めた。まるで舐めるような、家畜を見定めるようなじっとりとした視線に、2人の肌に鳥肌が立つ。


「オイオイ、御船少尉。女の子の体ジロジロ眺めてんじゃねーよ」

「あっ…宮崎さん。それに野間さんも…」

「ハァハァ…椿ちゃんも百合ちゃんも足早すぎ…」

「おや、これは失礼…つい、癖でね」


 御船はそう言いながら再び扇子を広げる。しかし目線は姉妹を見据えたままである。


「2人とも。こいつらになんか変なことされてないか?この二人は危ない奴だからな」

「失礼な。私らは何もしちゃいませんよ」

「大丈夫っすよ、野間さん」


 御船と八戸が僅かに眉をひそめたのを見てか、椿が答える。御船は息をついた。


「それにしても!鏡獣に同化させられた者たち…興味があっただけに見ることができなかったのは残念ですねぇ…せっかく研究しようと思っていたのに」

「てめえ…それ本気で言ってンのか……?」


 怒気を孕む椿の言葉に御船はにやにやと笑う。


「ふふ…判断は貴方方に任せますよ…」

「椿ちゃん。落ち着いて。こいつの言う事一つ一つに反応してたら身が保たんぜ。スルーだ、スルー」


 椿はまだ何か言いたそうにしてはいたものの、宮崎の言葉に黙る。


「ハァ、やれやれ。菊池隊の奴らは本当に不躾な奴が多くて困る…お嬢さん方、いつか共闘できる日を楽しみにしていますよ。…八戸、行きましょう」

「ハッ」


 御船と八戸が去った後、野間が言う。


「椿ちゃんに、百合ちゃん。あいつ…御船は目的のためなら手段を選ばないような残忍な男だ。部下に容赦なく暴力を振るうし、菊池ともめちゃくちゃ仲が悪いからな…あまり関わらない方が良い」

 

「「分かりました」」


 椿と百合にとっても、禍々しい気配を放っていた御船には関わりたくないと思っていた。それに先ほどの発言もある。


「さて…俺たちも戻ろうぜ、晩飯の時間がとうに過ぎちまった」


 一同はこうして一旦営舎に戻るのだった。






 雀が鳴く声がする。自分は…確か、八木に…


 ベッドに横たわっている大刀洗はゆっくりと目を開けた。


「…!大刀洗!目が覚めたか!」


 そう歓喜の声を上げるのは、ベッドの横の椅子に座っていた大刀洗である。その声を聞きつけて神埼もベッドに駆けつける。


「大刀洗。よかった、戻ったんだな…」

「菊池…に…神埼…あの後、俺は…?」


 菊池が経緯を説明すると、大刀洗は大きく息をついた。


「そうか…八木は白ウサギ…教団幹部だったのだな……俺が気付けなかったせいであちこちに迷惑かけたみたいで…悪いな」

「何で謝る。お前は一つも悪くないだろうが…!どれだけ心配したか…!」


 力なく謝る大刀洗に珍しく目に涙を浮かべながら神埼がそう漏らす。


「椿ちゃんに…百合ちゃんは…?」

「彼女らも狙われはしたが…特に大きな怪我もなく、今日もピンピンしてたぞ…厳密に言えば、椿の方は定期テストでどえらい点取ってげっそりしてたが…」

「ハハハ、彼女らしい…勉学と呪い師の両立は大変だもんな………八木…八木は…他の鏡に取り込まれた奴ら、寺田たちはどうなった」


 しばし沈黙が流れたが、すぐに菊池が答える。


「信じられんかもしれんが宮崎に大刀洗龍之介の霊が乗り移ってな、その時に彼らの体を操っていた鏡獣をやっつけてくれたお陰で、全員生還している」

「龍之介の…霊…?」

「ああ。お前、自分はどっちなのかよく考えてただろ。龍之介がお前の前世なのは間違いないが、記憶まで受け継いでいたのは龍之介の霊がお前にちょいと干渉しすぎたが故だとよ。だから大刀洗。お前は、大刀洗宗太だよ」

「そうか…そうか…」

「それから…八木だがな、あの後現場から逃走しようとしたみたいだが、陸軍がいち早く包囲してくれていたお陰であっさり捕まったんだが…」

「だが…?」

「…八木は護送車の中で死んだらしい。突如体が爆散したんだとよ」

「……は?」


 困惑する大刀洗に菊池が続ける。


「恐らくだが…捕まったりした際は教団のことをベラベラ喋らないよう、そういう術がかけられていたぽいな。御船が言っていた。あの野郎、尋問ができなかったと残念がってやがったが…にしても相変わらずあの教団はガードが堅い…教団摘発への一歩になると思ったんだがな…ま、お前が元通りになって良かったよ」

「ああ。教団幹部が関わった事件でありながらお前が復活したお陰で死傷者ゼロだったのは不幸中の幸いだ」


 菊池と神埼はそう言うと大刀洗は笑みをこぼした。


「俺も…もっと強くならんとな…白の教団の奴らめ。今に見ていろよ…!」


 すっかり元の気性を取り戻した大刀洗を見て、3人は視線を合わせて笑い合った。


 

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