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朱月のアリス  作者: 白塚
第3章 海軍と炎幕編
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【第3章】21話「鵺とトンカラトン」



 椿は空を駆けながら目についた災害艦機を屠って回っていた。地上の鬼たちは流石に空までは追ってくることができず、椿の放つ妖力でできた弾幕にやられ倒れていく。爆撃機にも一泡吹かせてやりたいが、流石に高度が高すぎるため断念した。災害艦機たちの数はほとんど見なくなり、椿は上空から逃げ遅れた人がいないか飛び回っていた。


 時折、やられてしまったであろう氷漬けになってしまった軍人や一般人も見てとれた。一部は倒れて中の人間ごと割れ、臓物がまろび出ているものもあった。吐き気と怒りでどうにかなりそうな心地だったが、必死に理性を保つべく尽力していた。


 闇夜に咆哮が聞こえ、上空を見上げれば災害艦機の爆撃機たちが炎上している。


「ムラサメに、師匠……!」


 みんな戦っている。立ち止まるわけにはいかない。


「あ、あれぇ!?椿ちゃん!?」


 下から声がし、その方向を見やれば数名の軍人たち。皆顔見知りであった。タコの触手が特徴的な川西、熊の怪異の姿の野間。そして白い海軍服に身を包んでいるのは雪風。雪風は驚いたように目を丸くした。


「なんで飛んでんだ?」

「え?いやあ、なんか…ナオ先輩が、死んじゃって。ものすごく怒ったら、なんかこうなったていうか…なんか、クリリンみたいっすよね!あ、悟空か!あはは」

「椿ちゃん…。無理しないで」


 川西が心底心配そうに漏らす。雪風も野間も頷いている。椿は彼らの優しさに思わず涙腺が緩みそうになるが、今は泣いている時ではない。ぶんぶんと頭を振る。椿は軍人たちの前にすとんと着地した。


「ありがとうございます。でも、大丈夫。今はアイツら倒さなきゃ」

「いたあー!椿ちゃーん!!」


 大刀洗だ。首根っこを掴まれ、半ば振り回されるようにして連れられてきた小郡もいる。大刀洗は椿たちの前まで駆けてくると少し息切れしながらも笑って見せた。


「椿ちゃん無事だったんだな!君のことだ、シェルターには戻ってねえだろうなとは思ったんだ」


 しかし。和やかになりかけた場は数名の足音によって戦場と化した。鬼面をつけた男たち。鬼童丸ではないが鬼面をつけていないツノの生えた男もいる。


「お前ら。やるぞ」


 雪風の声に応!と応える軍人たち。椿は椿を広げて上空に舞い上がる。鬼たちは軍人たちから奪ったのだろう、ライフルを持っている。川西が触手を膨張させ、大きく振り回す。熊の姿の野間も突進し、鬼たちを触れられる前に蹴散らす。しかし、鬼たちの応援が来る。ライフルの弾を避けながら椿も長い髪を伸ばして攻撃を行う。髪なら触れられても問題がないことはこれまでの戦闘で分かっていたことだった。


「テメエら!邪魔だ!退きやがれ!!」


 雪風の大声が響き、陸軍軍人たちが一斉に飛び退く。雪風の身体からは、軍艦に付いているような巨大な機関銃と五十口径の主砲が生えていた。


「陸戦は魚雷が使えねえから好きじゃねえんだよ!!死ねドブカスどもがぁ!!」


 暴言を吐きながら機関銃と主砲を発射し、次々に鬼たちは倒れていく。無事全ての鬼が倒れ、勝利を収めたと思いきや、雪風の後ろに瀕死だが、手を伸ばしてきた鬼面の男。椿が気づいた時にはもう間に合わないと思った。のだが。


「……ん」


 雪風に手が触れる直前、鬼面の男は首から血を噴き出し倒れる。雪風が振り向けば、姿勢を低くした小郡の姿。その手には脇差が握られている。


「ゆ、雪風さん。危なかったです」

「お、おお。サンキュー」


 椿は目を丸くした。いつも怯えている印象だった小郡が、ここまで強いとは……。しかし再び鬼面の軍団が現れた。


「ひいいぃ!!もういいよぉ!!」


 小郡が悲鳴を上げる。再び雪風たちが戦闘の構えになったとき。


「どーもぉ!どーもどーも!!助太刀、しまぁす!!」


 駆けてきたのは二人。一人は赤髪を三つ編みにして結えている中性的な見た目の軍人だが、体つきからして男だろう。階級は中尉。そしてもう一人。身長は優に二メートルは超えていそうな巨躯に、顔を含め見えている肌はほとんど包帯に覆われている異様な男。階級は大尉。二人とも黒の兵科色…憲兵、胸元には藍玉が輝いている。


「お!神谷に飯塚!いいところに来たじゃねえか!」


 大刀洗が歓喜の声を上げたが、雪風は首を捻った。


「呼び捨て…?大刀洗だったな。お前少尉だろ。なんで中尉と大尉を呼び捨てにしてんだ?」

「ん?ああ、二人は俺の前世からの縁なんで!元部下なんすよ!!」

「ああ、そういう……」


 なるほどねと納得した様子の雪風。二人の憲兵は鬼面たちの前に躍り出た。


「皆さん!あとは俺らにお任せください!大刀洗殿!ちゃんと見ててくださいね」


 赤髪…神谷が大刀洗に向かってピースする。その神谷の身体が膨らんだかと思いきや、茶色の毛に包まれ獣の姿となる。顔は猿の面で隠れ、手足は虎柄。胴は茶色の毛に覆われ、尾は蛇になっている。鵺だ。


「神谷!飯塚!そいつらに触れられるなよ!凍りついちまうからな!」

「え?そうなんすか!?じゃあ、こうだ!」


 鵺は思い切り尾の蛇をスイングさせて鬼たちを薙ぎ払う。蛇を振り回している神谷を傍目に、飯塚――トンカラトンが煌く日本刀を鞘から抜き走り出す。そのまま鬼面集団に単身突っ込んでいく。その一人に刀を突きつける。


「トンカラトンと言え」

「はっ、はあっ!?…がっ」


 男が理解する間もなく飯塚は刀を振るい、鮮血が舞う。そのまま飯塚は血で濡れたままの刀を次の男に突きつける。


「とっ、トンカラトン!」


 咄嗟に叫んだといった男だが、しかしこちらも斬り殺される。トンカラトンとは自転車に乗った包帯男の姿をした怪異であり、「トン、トン、トンカラトン」と歌う姿が目撃されている。そして、「トンカラトンと言え」と言われ、その通りにしなければ日本刀で斬り殺され、包帯でぐるぐる巻き、新しいトンカラトンになってしまう…というのが定説だ。ちなみに、この男のように「トンカラトンと言え」と言われる前にトンカラトンと言ってしまうと斬り殺される、中々理不尽な怪異である。


「“トンカラトンと言え”つったって飯塚のヤツ、言ってから斬るまでが早えからほぼ無理ゲーだよなぁ」


 次々と鬼たちを斬り殺していく飯塚を眺めながら大刀洗は呟いた。元々は普通の人間であったはずの飯塚がなぜトンカラトンになったのかは分からないが、本人的にはあまり気にしていない様子である。


 斬っては捨て、を繰り返していた飯塚だが。鬼たちに触れられてしまったのか、肘あたりが凍り始めた。


「――ッ!!」


 飯塚は迷うことなく自身の二の腕を切り落とした。ごとりと落ちた腕は少しずつ凍っていっている。どうやら、鬼面の集団は氷鬼としてはあまり力が強くない方のようだ。凍るスピードから見ても明らかだろう。


 自らの腕を切り落とした飯塚だが、すぐに肩あたりからひとりでに包帯がしゅるしゅると伸び、手の形を形成する。鵺の攻撃とトンカラトンの斬撃によって鬼面集団は壊滅した。その時、頭上から轟音。


「災害艦機だ!まだ残ってたか!」

「アタシがやります!」


 翼を広げて椿が果敢に自分より遥かに大きい戦闘機に立ち向かっていく。椿は自身の妖力と防衛神の妖力が混じり合い、朱く煌めく刀身を鞘から引き抜き長い髪に巻き付かせる。長い髪を操り、刀を振るう。真っ二つ、とはいかないが大ダメージを与えたようで、斬られた箇所から黒い血のようなものを噴き出し斃れる。しかしさらに数機、飛来してきている。


「まだ来やがんのか…。椿ちゃんひとりに任せるわけにゃいかねえ」

「いかねえって…ど、どうするんですか」


 上空を睨む大刀洗に小郡は頭を抱えて聞き返す。大刀洗はまっすぐ小郡の目を見返す。


「飛べる強いヤツを呼ぶ。…悪魔召喚だ」


 大刀洗は指を噛んで血を出すと地面に召喚陣のようなものを書き出し始める。オドオドしながら小郡がそれを見守る。川西と野間も静観の構えのようだ。大刀洗は描き終わると何やらぶつぶつと唱え出す。召喚の詠唱だ。


「さあ、悪魔よ。飛べて強い悪魔よ。ここに顕現せよ!!」


 召喚陣がまばゆい光を放ち、その光の中に人影が現れる。やがて、ヒトリの悪魔が現れた。


「へえぇ。このあたいを喚んだのはあんたかい、色男」

「ああそうだ。あんた、飛べるか」

「当たり前よ。ほら」


 その悪魔は女の姿をしていた。脚やへそなどあちこちを露出している。その胸は弩級であり、立っているだけで男を誘惑するような体つきである。悪魔は大刀洗に向かってコウモリのような大きな翼を広げてみせる。大刀洗は満足そうに頷いた。


「俺は大刀洗だ。お前、名はあるか」

「あるさ。あたいの名前はベリアル。聞いたことくらいはあんだろ」

「聞いたことくらいはな。俺のオーダーはあそこ…上空で女の子が戦ってるだろ。その子の援助だ。向かってくる飛行機みたいなバケモンを倒せ」

「分かった!…報酬、楽しみにしてるぜ」


 ベリアルは妖艶に笑い、翼を広げた。そのまま空を舞っている椿に近づく。


「よう、嬢ちゃん!いい羽だな!!ちと手伝ってやるよ!あたいはベリアル!!」

「アタシは椿だ!このバケモン飛行機やっつけるぞ!」


 機銃を放ちながら戦闘機が突進してくる。弾を交わしつつ相手の射程範囲外から攻撃を狙う。ベリアルは自らの尾を大きく伸縮させると機体にぶつけ、破壊する。さらに一機向かってくるが、尾を巻き付かせ力任せに締め上げる。バラバラになった災害艦機は塵と化しながら堕ちていく。


「ベリアルさんすげぇ!妖力弾の威力アタシの比じゃねえ…!」

「へっへーん。すげえだろ。もっと褒めてくれたっていいんだぜ?」

「おい!ベリアル!!アイツらもやってくれるか!?」


 大刀洗が鬼面の残党を相手しながら上空を指差す。巨大な影……爆撃機たちだ。しかしベリアルは顔の前で手を振る。


「いや、無理無理。あんな高くまで飛べねえし」

「なんだとぉ!?使えねえな!!」

「なっ、なんだとてめぇ!!人間風情が吠えんじゃねぇよクソが!!」


 しかし大刀洗は無視して刀を振るっている。ベリアルはぐぎぎ…と歯軋りしながら地面に降り立つ。椿も戦闘機が飛んでいないのを確認し舞い降りた。地上戦も粗方終わったようだった。


「さあて…そろそろ報酬をもらおうかね」

「は?もう終わりなのかよ?」

「てってめえ本当に腹の立つヤツだな!ベリアルだぞ!名のある強い悪魔を使役すんなら、それなりの代償が必要なことくらい分かんだろ!!」

「あーはいはい。分かったから。何がお望みで?」


 ベリアルはふふ、と妖艶に笑ってみせる。露出の多い格好、しかもありとあらゆる者を誘惑するようなその身体付きに、艶のある褐色の肌。並の男ならあっという間に骨抜きになってしまうだろう。現に小郡は顔を赤らめてそっぽを向いている。そんなベリアルは大刀洗にすり寄り、豊満な胸をグッと押し付ける。


「あたい…あんたの顔すっごく好みだ。こんな色男なかなかいないねぇ…。あたいと共に地獄に来てくんない?あたいの夫として。もちろん…好きなだけ、あたいを楽しんでいいんだぜ」

「嫌だ。右腕でいい?」


 はぇ?と思わずベリアルは声が漏れる。


「地獄に行くのは嫌。俺別にそんなに女遊び好きじゃねえし、今の仕事が楽しいからよ。だから、報酬俺の右腕でいい?」

「な、なぜ。あたいの魅了が通じない!?」

「俺ね、黒髪の清楚系な子が好みなの。だから言っちゃ悪いが、アンタは……」


 ま、タイプじゃねえっこった。と笑いながら宣う大刀洗。ベリアルは、今まで誘惑に失敗したことなどなかった。だからこそ、理解ができずあんぐりと口を開けたまま口を聞くことすらできない。


「おーい。聞いてるか〜」

「……す」

「は?」

「堕とす!アンタのこと、絶対堕としてみせる!!このベリアルの名にかけて!!人間、名は」

「大刀洗。さっき名乗ったろ」

「大刀洗。あたいはお前を何としてでも堕としてみせる。タイプじゃねえだと?関係ねえ!このままゲヘナにノコノコ帰れるか…お前をあたいの虜にしてみせる!!勝負だ!!」


 大刀洗は意味が分からないといった風に頭を掻いた。周りの軍人らも同じであった。そのとき、数名の足音が聞こえた。また鬼どもか!?そう思い一行が振り返れば、黒いスーツに身を包んだ数人の男たち。その腕には呪い師であることを示す宝玉のついた腕輪。


「皆さん!!ここにいらしたのですね。あ、自分は警視庁、小野です。小野篁(おののたかむら)と申します。富田様の部下です」

「小野篁って…あの平安の!?閻魔大王の補佐の人!?」


 神谷が驚いたように叫び、そのように呼ばれております、と小野が一礼する。小野の隣にいた金髪の男が口を開いた。


「皆さんのおかげで粗方鬼たちは掃討できました。…しかし、呪い師や軍部の者、一般人含め数百人ほどが“こおりおに”の呪いによって氷漬けにされています。そこで」


 金髪はいったん言葉を区切り、一行の顔を見渡す。そのとき、雄叫びを上げながら再び鬼面の集団がこちらに走ってきていた。一同が戦闘の構えをとる。しかし、甲高い汽笛の音があたりに響き渡った。空間がぐにゃりと歪み、大きな穴が空く。暗闇に眩い光が見えたと思えば、飛び出してきたのは空を駆ける黒塗りの汽車。『明星号』と書かれている。明星号は大音量の汽笛を鳴らしながら容赦なく鬼面軍団に突っ込み、轢き殺していく。鬼たちを蹴散らし、血塗れになった汽車は、急上昇し再び空けた空間の穴に吸い込まれていった。辺りに沈黙の帳が下りる。


「い、今のなんだい?」

「あれは…内海さんのだね。海外から遠隔で召喚しているのか。何はともあれ助かった」


 唖然とするベリアルに応える小野。明星号は、普段は日本のどこかを走っている内海の妖力によって動く汽車、いわゆる“魔導列車”に分類されるものである。一般人を乗せることもあるが、明星号が主に運ぶのは死者。死者の輪廻を助け、罪人を裁くのが明星号の仕事。さながら銀河鉄道のように、空を駆けることもできるのである。金髪の男はこほん、と咳払いをして注目を集める。


「…話を続けますね。皆さんには、これからあることを行っていただきます。解呪の方法が、分かりました」

 

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