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朱月のアリス  作者: 白塚
第3章 海軍と炎幕編
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【第3章】17話「サイレン」



「用ってなんだろ。ムラサメまだかな〜」


 繁華街の一角。ファミレスチェーン店にて椿は軽食をつまみつつムラサメを待っていた。席は家族連れやカップルで溢れており、ひとりなのはおそらく椿だけだろう。なんだかむず痒くて、待ち合わせ場所はカフェにすれば良かったと椿が思ったその時。


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「うっ、うおお!!何だ!?」


 突如鳴り響いたのは携帯からの警報音。椿のスマホからだけではなく、他の利用客のスマホも鳴り響き賑やかだった店内に一斉に不安と緊張が走る。しかし、その不安はさらに膨らまされることとなる。


 ウゥウウウゥゥゥウーーーー……


 一斉に人々が窓を向く。サイレンだ。不安に駆られたのか、泣き出す子供たち。椿は警報音の鳴り響くスマホを覗く。その瞬間に、ファミレスの入り口を慌ただしく開け放つようにして1人の憲兵が駆け込んできた。


「く、空襲!空襲ーッ!!全員近くのシェルターに避難してください!!」


 空襲。店がざわめく。スマホの画面にも『空襲警報』と警告色で大きく表示されている。1人の客が思わずといった様子で憲兵に詰め寄る。


「ど、どういうことだよ空襲って!戦時中でもあるまいに――」

「災害艦です!さ、災害艦の艦載機たちが、こっちに来てるんですよ!!だ、だから早く避難してください!!」


 真っ青になった憲兵はそれでも必死に避難を呼びかける。災害艦、という言葉を聞いた途端客たちが一斉に駆け出す。


「み、みなさん!おち、落ち着いて避難をうわああっ!」


 パニックになった群衆は我先にと出口へ向かう。押し寄せた人混みの波に憲兵はどうやら飲まれてしまった様子だ。他にも転倒した者を構わず上から踏みつけて逃げようとする者。まさしく地獄絵図だった。誰かが窓を割ったのか、そこからも人が出ていくが窓ガラスには血がついている。椿は割れた窓から怪我をしないようにそっと抜け出す。


「…うわあ……」


 けたたましくサイレンが鳴り響く。災害艦による空襲への備えは実際にしてあり、街のあちこちに防空シェルターはあるのだが、外は逃げ惑う群衆で溢れかえっている。憲兵や警察官がなんとか落ち着かせようと避難誘導をするも、効果は焼け石に水のようである。


「椿様…!とりあえずわたくしたちもシェルターとやらに行きましょう!」

「うん、そうする――」


「ぎゃあああああ!!!」


 絶叫。思わず振り返れば、そこにいたのは――。


「おう、おう、おう。何だあこの騒ぎは。ヘッヘッヘ、キャーキャーワーワー騒ぎやがって、耳障りだぜ…!」

「ぐあああ!よせ、やめろ…うあ゛ッ」


 悲鳴の主は憲兵。その憲兵を刀で串刺しにしたのは鬼面を被った集団。リーダー格と思しき者は仮面はつけていないが、その額には2本のツノ。戦国時代のような甲冑に牛の頭蓋骨の付いた毛皮を羽織っている男は血飛沫を上げて倒れた憲兵を見てさらにパニック状態になった群衆を嘲笑う。


「ハハハ。いいねいいねえ。もっと騒いで…うおっ!」


 突如飛びかかってきた黒い刃のようなものを刀で受け止めるツノの男。攻撃してきた者を見てにやりと笑う。


「何だ、女か」

「オメーの相手はアタシだよ」


 ハチと一体化し、左目を朱く輝かせながら男を睨む。男はケラケラと笑いながら椿を見据える。


「その勇気は買ってやろう。…俺の名前は鬼童丸。知ってるだろう?あの酒呑童子の息子よ!」

「知らね」


 は?というような表情になる鬼童丸。ハチはもちろん知っているが、椿は酒呑童子を聞いたことあるかどうかの瀬戸際だった。鬼童丸は青筋を浮かべつつ目の前の少女に向けて刀を構える。


「お前の名は」

「椿」

「椿…あの女狐が言ってたヤツか。殺せねえのが残念極まりないが…その無礼、後悔させてやる」


 刀を振りかぶり、鬼童丸が襲いかかってくる。凄まじい速度に思わず気遅れそうになるものの、優秀な動体視力で見切り、刀で受け止める。


「ぬお!女のくせにやるなあ!今のを受け止めるとは!」

「うぐう…おっも……」


 椿自身もパワーには自信があるがそれを上回る怪力。長期戦ではまず勝ち目がない。なら今すぐに、ケリをつけるしかない。


「うおりゃああ!」


 刀を振り上げ飛びかかろうとするも、受け止められ軽く吹っ飛ばされてしまう。バランスを崩しかけた椿に鬼童丸の奥に控えていた鬼面軍団が椿に飛びかかる。


「ぎゃー!てめえこの鬼野郎!汚ねえぞ!」

「戦いに綺麗も汚いもあるか。俺はお前ら武人(笑)なんぞとは違えのよ」


 長い髪と刀で鬼面軍団に揉まれつつも追い払おうとする椿らを見て鬼童丸はにやにやと笑う。足元に倒れた憲兵を足でつつきながら。


「てめえこの野郎……!」


 その行為に椿が激昂するも、人数の差に敵わずほぼ拘束されかけていた。この男たちが白の教団とグルであることは先ほどの発言からも明らか。ここで捕まってはまずい。


「どぉけ退け退け退け退けェェーーッ!!」

「!?」


 叫び声とともに一台の軍用トラックがこちらに突っ込んできた。鬼面の男たちを容赦なく撥ね、椿に群がっていた鬼面たちも慌てて飛び退く。椿の目と鼻の先に、トラックは停車する。その瞬間にトラックから数多の軍人たちが飛び出し、男たちにライフルを乱射する。運転席のドアが開き、そこから顔を出したのは。


「た、大刀洗さん!」

「椿ちゃんヤッホー⭐︎助けに来たよ⭐︎」


 俳優顔負けの整った顔立ちに口元のほくろが特徴的な男、憲兵少尉の大刀洗(たちあらい)宗太である。そのバディ、小郡(おごおり)軍曹も顔をのぞかせる。


 トラックから飛び降り、椿のもとに駆け寄ってくる大刀洗。椿は立ち上がるものの、ふらついたところを大刀洗が抱き止める。


「すいません、助かりました。…そこに、憲兵さんが……」

「大丈夫だ。救護車に預けた。とりあえず、敵はやっつけたから椿ちゃんはシェルターに」

「でもあいつ…!鬼童丸が逃げちゃった!あいつを何とかしないと…!」

「椿ちゃん。大丈夫だから。あとは俺たちに任せて――」


 怒りが収まらぬといった様子で掴み掛かる椿を宥めようとした大刀洗の言葉は爆音によってかき消された。ほとんど暗くなってしまった夜空に、巨大な何かが飛来してきたのが分かった。


「…不味い。総員ッ!総員退避ーッ!!頭を守れーーッ!!」


 大刀洗が叫び、椿を抱えて建物の隙間に倒れ込むようにして退避したその次の瞬間。


 ドォン!ドゴォン!!


 頭が割れそうなほどの爆発音。頬が焼けそうなほどの熱い爆風。椿は大刀洗の腕の中からそっと音の方向を見やる。あちこちで炎が上がり、爆発が起きている。炎の灯りに照らされて、街の上を我が物顔で飛んでいる黒い巨大な飛行機…戦闘機と爆撃機たちがその姿を現していた。よく見れば目玉や血管のようなものが確認でき、それは飛行機の形をしているだけの化け物であるのが分かった。ひゅうう、ひゅううう、と爆弾や焼夷弾が落ちていく音が聞こえる。……災害艦が、来たのだ。


 ――街は、火の海になっていた。

 

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