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朱月のアリス  作者: 白塚
第3章 海軍と炎幕編
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【第3章】7話「焼き肉回-後編-」



 学生ズの席にて。もちろん未成年のため頼んでいる飲み物は皆ソフトドリンクである。椿らいつもの3人組と百合以外にも3人ほど。椿らの先輩にあたる高校2年生達である。ひとりは派手な緑のショートボブ少女。名は坂口ナオ。もうひとりは若干人相が悪めの坊主頭の男子。名を神田和樹。残るひとりは眼鏡に三つ編み二つ結びの少し気弱そうな女子。名は、寺田サキといった。


「今回一年大活躍だったみたいじゃん。お疲れ!」

「あざっす!」


 ナオが言いながらわしゃわしゃと椿の頭を乱暴に撫でる。ナオは椿のことをいたく可愛がっているのである。そんなナオがおや、と目を丸くする。


「あれ?椿髪染めたの?」

「メッシュ入れただけ!似合ってる?」

「可愛い可愛い!」


 椿の左側、俗に言う“触覚”と後ろ髪の部分にはネオングリーンのメッシュが一筋ずつ入っている。翼獅子の堕天使、シャルルと戦った後に椿が美容室で入れたものである。美幸と白川はすでに慣れたものだが、先輩らに見せるのは今日が初めてである。ナオがお揃いだね♡とさらに椿へのナデナデが加速する。そんな様子を眺めながらサキが呟く。


「しかし、そこそこのリーダーに統率された堕天使と聞きました。誰ひとり欠けることはなくてよかったです」

「本当にその通りだ。よく頑張ってくれたな」

「いえいえ、そんな…」


 サキの言葉に和樹が同調する。見た目の厳つさの割に優しげな声色の神田。しかし一年ズはすでに慣れたものである。どこか遠慮がちにもじもじする一年ズ(椿除く)にナオは豪快に笑う。


「まーまーそんなぺこぺこせずにさ!少佐の奢りだぜ、じゃんじゃん食おうぜ!すみませーん!串盛り合わせ、追加でー!!」


 声を張り上げ追加注文するナオ。不意にムラサメの方を見る。


「ムラサメさん、だっけ」

『…なあに』


 サラダをもそもそと食べていたムラサメが顔を上げる。ナオは突然立ち上がりムラサメを指差した。


「アンタ!椿のこと泣かせたらただじゃおかないからね!」

『…なにこの人』

「ちょ、先輩!なんか勘違いしてません!?そんなんじゃないですから!」


 ムラサメに畏れをなす様子も見せず大胆不敵に言い放ったナオ。神田がムラサメを見やり困ったような顔をする。


「すみませんムラサメさん。こいついっつもこんなんでして…」

『気にしてないからいいよ。…それに、僕にここまで言ってのける人間は珍しいね。やるじゃないか』


 代わりに謝る神田に反し、割とナオに対して好反応なムラサメ。


「やっぱりムラサメって、根っこでは人間のこと好きなんじゃない?」

『ええ、そうかなあ』


 椿の問いに腕を組んで虚空を見上げるムラサメ。学生ズの席にも和やかな空気が流れる。しかし――


『ねえ。それ僕の』


 ムラサメの低く冷たい声は、サキに対して向けられていた。マイペースに肉や焼き串を食べていたサキ。うっかり誤ってムラサメの頼んだ豚の角煮を食べてしまったのだ。しかもそれは、どれを頼もうか迷っていたムラサメに、椿がせっかくお勧めしてくれた品で――


「あ、す、す、すみま、せ…」


 だらだらと冷や汗が流れ出すサキ。椿が慌てて立ちあがろうとした時。


「学生さん方。楽しめてますか?」


 ぬっと姿を現したのは内海。内海の姿を見るなり、ムラサメはふいと目を逸らしてしまった。内海はそんなムラサメを見てにこりと笑う。


「ムラサメも。楽しめてますかね?あまり学生さんを困らせてはなりませんよ」

『……分かってるよ』


 内海と目を合わせようとしないムラサメ。そんなムラサメの様子に椿は頭の上に疑問符を浮かべたが、そんな椿を気にする者はいなかった。内海は他の者に呼ばれ、その場を後にした。サキが恐る恐ると言ったふうに口を開く。


「あ、あの…ムラサメ…さん?様?ごめんなさい…」

『いいよ、もう怒ってないし、僕も空気悪くしてごめんね。…あと、様はつけなくていいから』

「ありがとうございます、ムラサメ…」

『いや、さんは付けろよ』


 そんな2人の会話に思わず吹き出す他の面子。奇跡的に空気は元通りとなった。そんなこんなしていると、再び来客が現れた。


「よう、ガキども。食ってるか」

「富田さん!」


 深い海のような目の色をした美丈夫、富田。ムラサメは富田に対しては普段と変わり無い様子である。気になったら仕方がなくなるのが椿のサガ。一気に切り込むことにした。


「ね。ムラサメって内海のこと苦手なん?」


 口に運ぼうとしていた串をぴたりと止めたムラサメ。手を下ろし、少し考えたのちに小さめの声で頷く。


『うん…まあ……そうだね…』


 そういえば、以前内海と会った時も椿の後ろに(自分の方が大きいくせに)隠れていた。それ以外にも内海が訪れる際はいつの間にか姿を消すなど、なかなか顕著だ。理由はおそらく、ムラサメは内海に封印されていたというのもあるだろう。椿はムラサメが高鍋と対峙した際、封印されていた時のことを『暗くて、寒くて、ひとりぼっち』と言っていたことを思い出す。ムラサメ曰く、


『因縁の相手というのもあるが、なんか怖いんだよねあの人。あの人に見つめられると数多の目玉に見られているような感覚でさ…見れば見るほど深い海に、沈められていくようで……』


 よく分からないが、本当に苦手なんだなと思う椿。それにしても、海?海の悪魔といえば内海が言っていた“リヴァイアサン”ではないのか?そんな疑問を見透かしたように富田が呟く。


「あいつ、リヴァイアサン喰っちまったんだってよ」


 喰っちまった?ますます意味が分からない。結局、疑問符が頭の上に増えていくばかりの椿である。


『速報です!またも霊明(れいめい)艦隊、顕現艦たちの活躍です!日本海沖に出現した災害艦隊を戦艦大和を筆頭に、無事撃破したとのことで――』


「ん、海軍さんもやってんねえ。一年はまだ顕現艦の兄ちゃんたちとは会ってないんだよね?ちょーハンサムばっかだよ」

「えー!ほんとですかあ!」


 ナオはコーラを飲みながら、居酒屋のテレビに流れた速報画面を見る。ハンサム、というワードに沸き立つ美幸。


「顕現艦かあ…海軍の人とあんまり関わりないなあ」

「まあ、呪い師やってくなら嫌でも付き合うことになるぜ。なかなかの癖者揃いだ」


 呟く椿に富田が答える。癖者揃いなのは陸軍も同じである。ニュース画面に映し出された戦艦大和の映像を、ムラサメは何処か物悲しげな目でじっと見つめていた。


……


「んじゃあ。明日から土日休みだけど。学生ズの皆んなは寄り道せずまっすぐ帰るんだぞ」

「「「はーい」」」


 2年生とはすでに解散し、居酒屋の前で菊池が1年ズに帰りの指導をしていた。


「菊池さーん!はやく〜」

「あーはいはい…じゃ、またな」


 菊池はどうやら二次会に行くようだ。同僚に急かされ、菊池らは手を振りながら喧騒の中に消えていった。夜道を帰る学生ズ。だがムラサメと猫の姿のハチがいるおかげで安心だ。


「ムラサメはいーの?二次会行かなくて」

『うん。僕はいいや』


 東京の街は眠ることを知らない。煌々と輝き、人々の声が絶えることはない。以前のムラサメならば、破壊の対象としていたであろう。


(ま、今の僕には椿がいるしね)


 厳密には違うものの、知らないところで日本を救っていた椿。しかしそんなことを知る由もなく、寮への道を進む。


「なんか久々にこんなにはっちゃけちゃったな。こんな日々が続くと良いけどねえ」

「ねー」

「だな」


 白川の独り言にうんうんと頷く2人。脅威は無い方がいいに決まっているのだ。


 ――しかし、そんな平和な日常に、忍び寄る影があることは、彼らは知らないのであった。

 

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