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朱月のアリス  作者: 白塚
第2章 悪魔と堕天使編
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【第2章】2話「富田」



 ある平日の昼下がり。椿たち学生一行は食堂で昼食を食べていた。ある程度食べ終わり、食器を下げたところで雑談を始める。次の授業まではまだ時間はある。


「ねえねえ、知ってる?幽霊の出る廃病院の噂」


 美幸の言葉に首をかしげる椿だったが、白川は知っているようだった。


「ああ、あそこだろ。…気味が悪くて近寄ったことはないが」

「そう!そこでね……肝試し、しない?」

「はあ?」


 思いも寄らない美幸の提案に思わず椿は素っ頓狂な声を上げる。それに…


「そういう心霊スポット的なところに、遊び半分で行っちゃダメだって大刀洗さんや先生達から言われてんじゃん」


 椿の心の声に続くようにして白川は若干牽制するように言う。しかし美幸は引かない。


「大丈夫だよ!秘密裏にすればきっとバレないし…それに、私たちもう十分強いじゃん、椿もいるし」

「いやいや…」

「肝試し…少々気になりますわ」

「ゲッ!ハチあんた乗り気なのかよ…」

「わたくしがいれば大抵のことはどうにかできますわ。何といったってわたくしは椿様の守護精霊(護衛)ですもの!」


 フフン、と猫の姿で胸を張るハチ。勢いに乗って美幸がさらに宣う。


「ね!椿姫…ハチちゃんもこう言ってくれてるんだし、幽霊出てきても倒せるよ!ね!ね!」


 こうして美幸(とハチ)の勢いにのまれる形で2人は渋々了承した。


「もし怒られたら美幸が悪いって言うからね」

「ちょっと白川〜あんたの意思で行くって言ったんじゃな~い、連帯責任よ!」

「美幸が言える台詞じゃないだろ…」


 終始何やら言い合っている2人。だが、椿は実は肝試し、非常に惹かれていたのである。


(こういうの師匠からも内海からもダメって言われてるけど…アタシ達はもうそれなりに強いし…ハチも、みんなも一緒だし…1回きりならいいよね…)


 赤信号、みんなで渡れば怖くない精神の椿。肝試し決行は土曜日の24時過ぎ。あれやこれやと話していると靴音が近づいてくるのが分かった。


「やべ、先生来ちゃう。後でまた計画練ろう!」



 

 *




 そして、肝試し決行日。一同は何とか寮をこっそり抜け出し、廃病院前に集まっていた。


「う…何だかすごい、禍々しい感じ…」

「美幸、言い出しっぺなんだから逃げるなよ」

「分かってるよお」

「椿。椿姫…ハチは何か言ってる?」

「いんや。ちっさい気配は感じるけど、危険そうなのはいないって」

「なら安心だね!いこいこ〜!」


 美幸についていく形で2人はあとに続く。踏み入れた廃病院は内部も荒廃しきっており、物があちこちに散乱している。そして、何よりも不気味さを引き立てるのは匂い。カビ臭さと消毒液のようなツンとした匂い。


「くさ〜い」

「しゃあなし…ずっと放置されてんだからな」


 美幸と椿はそう言い合い、ゆっくりと足元と目先に懐中電灯を照らしながら進む。物音に一同ビクッとしたり、自らの影に驚いたりと、いちいちと反応しながらもゆっくりと歩を進めていく。そして辿り着いたのは手術室。手術室のドアは固く閉じられている。


「どうする?開ける…?」


 美幸の提案に皆は考え込む。せっかくここまで来たのだ。なら…


「……開けちまうか」


 吹っ切れた白川に皆が頷く。白川がゆっくりと重たい扉を開けようとする。そして約1cmほど開いた瞬間、白川はバッと扉の隙間から飛び退いた。


「どうした…?」


 椿の問いに白川は口に人差し指を立てた。


………中から、人の話し声が聞こえる。それも、2人以上。


 一同は一瞬にして震え上がった。幽霊?妖怪?それとも、人?


 椿はそっと開いた隙間に目を覗かせる。2人もそれに倣った。そこにいたのは黒い喪服のようなスーツに日本刀を下げている人物。後ろを向いているが、恐らく男だろう。そしてもう一人。日本刀を下げた男の前に正座させられている中年の男性。2人は何事か話している。一同は耳をそばたてる。


「…この写真お前だろ?全く、権力身にまとってやることが性暴力とはね」

「…ち、ちがう…」

「ア?何が違えのか言ってみろよ」

「……」


 日本刀の男は大きなため息をつくと下げている刀をすらりと抜いた。


「……!」

「悪いがよ、お前みたいな血税チューチュー野郎はな、要らねえのよ。ただの癌でしかない。だからこそ、裏で悪いことしてる奴らには、俺たち執行者が動くしかない」

「ま、待って…金なら…」


ザシュッ。


「ぐうあ、あああっ!」

「うるせえなあ、こんなんで騒ぐなよ。…尤も、お前に人生めちゃくちゃにされた奴らの苦しみには程遠いんだぜ?」

「たすけ…誰か助け…」

「誰も来やしねえよ」


 男は日本刀で中年男を何度も突き刺していく。そのたびに上がる悲鳴。


「富田様。そろそろ…」

「ン?ああ…」


 日本刀を下げた男…富田は影から現れた部下に応える。


「んじゃ、さよならバイバイだな、オッサン。あばよ」


 中年男が何か言うよりも早く、一閃。男の首が飛んだ。

 

 物々しい雰囲気からの光景に学生一行は完全に動けなくなっていた。目の前で起きた殺人。一体、これは…

 そして学生ズは目の前の光景に注視するばかりで周りの警戒が薄まってしまっていた。だから、後ろにそっと忍び寄る影に気が付かなかった。


 バァン!と音を立てて手術室の扉が開け放たれ、学生ズは扉に体重を預けていたせいで手術室内に思わず転げ込むような形となる。後ろに立つ、ドアを開け放った男が口を開く。


「富田様。申し訳ありません。侵入者がいた模様です」


(不味い……)


 学生ズは驚きと恐怖で固まってしまう。富田がゆっくりとこちらを振り返り、正面を向く。その眼は、海よりも深い青色。そして、不機嫌そうに口を開く。


「なんだ?お前ら。ここはガキの来るところじゃねえぜ」


 

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