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朱月のアリス  作者: 白塚
第1章 騒乱の陸軍編
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【第1章】16話「百舌鳥」



「柏木…柏木中尉殿が…例の森にて…遺体で見つかりました…」


 その知らせを聞いた途端、菊池は教室を飛び出した。柏木とは3人とも幾度となく訓練を積んでいる。菊池を追うように3人も教室を飛び出す。


 やがて一行が辿り着いたのは、営舎からはそう遠くない雑木林。そして、そこにあったのは…大きい木の枝に胸を串刺しにされたまま事切れている柏木。何よりも異様なのはその下半身だった。それは人のものとは大きくかけ離れている…蛇の下半身だった。半人半蛇。


「菊池先生…こ、これは…」


 白川が震える声で問う。


「…見たことなかったか。私が獣の姿に変身できるように、彼は蛇に変身できる。恐らく戦闘態勢になる途中でやられたか…」


 目を見開いたままの柏木をじっと見つめながら菊池は答える。


百舌鳥(モズ)、でしょうね」


 そう言いながら現れたのは、これまた異形の者。その姿はどこかクトゥルフ神話を彷彿とさせる、頭に蛸の足が髪の代わりについている。蛸の足によって目元は見えないが口元には柔和な笑みを浮かべている。


「川西か。いたんだ」

「はい。僕も、柏木さんの報を受けて今駆けつけたところです」

「あの、モズってのは…?」


 椿がそう問うと、笑みを浮かべながら川西が答えた。


「モズはね、見た目は小さい小鳥なんだけど、肉食でね。それに仕留めた獲物を木の枝やらに突き刺しておく習性があるんだ。はやにえ、ていうんだけど」

「じゃあ…柏木さんはモズにやられたってことですか」

「そうなるね。モズの怪だろうよ」


 一行はゆっくりと地に降ろされる柏木の亡骸を神妙な面持ちで眺める。その時。


「誰だ!この俺の!大事な食料を奪う奴らは!」


 その大声とともに羽音が聞こえ、大きな影が一行に迫る。全員が回避した先に、それは現れた。見た目は大きな鳥のような姿をした怪物。


「全然小鳥じゃない」

「怪異だから…しょうがない…」


 椿のぼやきに川西が苦笑いしながら返す。怪物は続ける。


「最近よお、せっかくつくっておいたはやにえがなくなると思ったらよお…やっぱりテメェら呪い師共の仕業だったか」


 怪物は翼を大きく広げる。そして、柏木を運ぼうとしている菊池らに襲いかかる。


「子供があ!餌を待ってる!途中でしょうがあ!」

「子供がまだ食べてる途中でしょうが、みたいに言うな」


 菊池が突っ込みつつ、亡骸を抱えたまま回避する。柏木の下半身が蛇なせいでなかなか大変そうである。


「やい化け物!お前の相手はこっちだ!」


 美幸が叫びながら百舌鳥の怪物を指さす。


「ぽんちゃん!やっちゃって!」

「はいよ、お嬢」


 美幸の影から人影が飛び出す。美幸と契約している吸血鬼(ヴァンパイア)である。ぽんちゃんと呼ばれたボーイッシュな見た目の吸血鬼は百舌鳥の怪物に向かって飛翔する。それに続くように白川も何処から取り出したのか大剣を構え走る。椿は後方支援をするためハチと一体となり髪を揺らめかせる。吸血鬼が数多の吸血コウモリとなり、怪物に群がり、噛みつく。


「あああ!痛い!このぉ…」


 怪物が叫ぶや否や、怪物の体に無数の口が現れコウモリ達を捕食し始める。白川の大剣も口に受け止められる。


「グッ!?」

「やばいぽんちゃん戻って!」


 吸血鬼は美幸の命令に従い影に戻ってゆく。怪物が菊池らの方を向くも、そこに菊池達の姿はもうなかった。


「くそ…せっかく大物をゲットしたのに…テメェらのせいで!全員喰い殺してやらあ!」

「皆!下がって!」


 襲いかかろうとする百舌鳥の怪物に川西が迎え撃つ。己の蛸足を大きく膨張させ、伸縮させた蛸足を思い切り打ち付けた。


「ぐわあ!」


 後方に大きく吹っ飛ぶ怪物。不利と判断したのか怪物は慌てて飛び立とうとするも、蛸足が伸び、拘束される。じたばたと暴れる怪物。


「よし、今のうちにとどめを…」


 川西が言いかけたとき、怪物に向かって何かが襲いかかる。蛇だ。それも…


「え、あ、あれ!?柏木さん!?」


 暴れ回る百舌鳥の怪物に絡みつく大きな蛇。そして怪物に蛇が大きく口を開けて噛み付いた。


「グワアアアッ!」


 さらに激しくのたうち回る怪物だが、どんどん動きが弱々しくなってゆく。蛇の毒だ。そうして殆ど動かなくなった百舌鳥。川西と柏木の拘束を解除して尚、怪物はもう動こうとしなかった。


「これでよしと…皆〜!心配かけてごめんよ〜!」


 蛇の姿から人の姿に戻った柏木が駆け寄ってくる。


「柏木さん!生きてたんですか!?」

「いんや、死んでたよ」

「な、ならどうして…?」


 困惑する椿ら3人。その問いに答えたのは川西。


「菊池大尉殿が祟り神なのは皆知ってるね?僕らは大尉殿が人から祟り神になったとき、僕らも人の身から人ならざる者になったんだ。つまり僕らは大尉殿の眷属なのさ」


 うんうんと頷きながら川西の言葉の続きを柏木が紡ぐ。


「大尉殿はね、自らの眷属の生死を操れるんだ。だから仮に死んでも、大尉殿が生き返らせてくれればこうやって生き返ることができるんだよ」

「なんじゃそりゃ…チートじゃん…」


 のほほんとした軍人2人に白川が思わず漏らす。椿も美幸も同意見であった。そこに菊池が現れる。


「私の助力は要らなかったみたいだね」

「……菊池大尉殿。これ、わざとですよね?」


 川西の問いにン?と首を傾げる菊池。


「百舌鳥の怪の被害は数週間前から確認されています。…おびき寄せるためだったんでしょう?柏木中尉殿が囮となって」


 川西の問いに菊池は笑った。


「流石だな…その通りだよ。こうしておびき寄せて駆除するためにね。生徒たちのちょうどいい訓練相手になるかと思ったがちょっと相手は早かったかも」

「あ、ほぼ僕がやっちゃいました、あはは」

「そうだったんですね…めちゃ焦りましたよ」


 菊池と川西、宮崎、そしてピンピンしている柏木を見て椿ら学生も安心した面持ちになった。しかし、突如バサバサという音が会話をかき消す。


「百舌鳥野郎め!まだくたばってなかったか!」

「行くぞ!ここで必ず仕留めなければまた被害が出ちまう!」


 一行はすぐさま百舌鳥の怪物を逃がすまいと行動するのだった。


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