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8話 出発の時が来て

――雨竜くんへ

 アルテミナ攻略戦の部隊が決まったから、陸軍のメンバーだけ送るね。


 ○天宙

 ・真底、伽奈、朱羽、朧、雨竜

 前回同様、連絡は全部夕凪を通じて伝えるから注意深くチェックしておいてくれ。なんかあったら返答してね。


 あの話し合いから数日後、七帝さんからこんなメールが送られてきた。地底での戦いを共にした三人の先輩が全員いないのは若干心細いが、リーダーの天宙さんは温厚そうな人だったしおそらく大丈夫だろう。


 そして当日、ログナ駅に時刻通り着いたのは俺を含めてたった三人だけだった。天宙さんともう一人、やたら背の高い強面の男の人がいる。


「あ、雨竜。君は時間守れる子だと信じてたでー」

「お前が雨竜か。」

 巨体を前にして、若干狼狽えながら答える。


「は、はじめまして。MAILISに加入しました雨竜といいます」

「俺は真底という。ったく、集合時間さえまともに守れないとは、情けない先輩たちだよなあ?」

 何と返したら良いか分からず戸惑ってしまう。


「雨竜くん困ってるやん、あんま後輩に馴れ馴れしく話しかけるのやめときいやー」

「ごめんな雨竜。俺、こういう他人に迷惑かけてヘラヘラしてる奴嫌いなんだよ」

「え、それ俺のこと?俺のこと言っとる?」


 てっきり天宙さんと真底さんは事務的な話くらいしかしないのかと思っていたが、どうやら割と仲良さそうな雰囲気だ。ひとつ質問を投げてみる。


「俺、皆さんのこと全然知らないんですけど、今遅れてる方々ってどういう人なんですか?人となりというか」

 少し考えて真底さんが答える。


「控えめに言って、割と全員アホだ!」

「まともなの俺くらいやもんなー」

「お前がアホ筆頭だろう、何をぬかす」

 天宙さんがイキイキとしている。なんだか聞いているこちらまで心地がいい。


「あ、きゃな来たで」

 天宙さんが顔を向けた方を見ると、綺麗な格好をした女性がこちらに手を振っている。天宙さんが言う


「伽奈、通称きゃな。第一期メンバーで、あのギターケースに入っとる鈍器を振り回して戦う子。」

 よく見ると、背中にギターケースを背負っている。街中を移動する時に、武器を見られて無駄な時間を取られないためにこうしているのだろうか。


 勢いよくこちらに走ってきて言う。

「えーと、10分遅刻?まあこれぐらい誤差の範囲内だよね!」

「どこがだ」


 ……今回の旅はどうやら騒がしくなりそうな予感がする。月並さん、夏音さん、火奏さんと俺の四人でいた頃と温度感が全然違う。

 伽奈さんが喋る。


「ふーん、君が雨竜くんかあ。人殺しって聞いてたから身構えてたんだけど、案外普通の少年じゃん?」

 人殺し、か。しばらく心の奥に隠していた言葉だ。この業は死ぬまで背負い続けるのだろうな。


「まあ犯罪者上がりのメンバーなんて山程いるし?なんならウチも暴力団総長の一人娘だからねっ」

 え?


 伽奈さんが言っている暴力団は、この前俺と先輩である程度壊滅させたあの暴力団なのだろうか?だとしたらなぜMAILISに加入しているのだろう。


 真底さんが伽奈さんに話す。

「伽奈ち、朱羽と合流するのはアルテミナ入ってからということで良いのか?俺の元に情報が届いてないんだが」


「そだよ。朱羽ちゃん忙しいから理由もなくこっちまで来れないの。真底と違って」

「黙ろうか」

 真底先輩はいじられキャラなのだろうか…?さっきから伽奈さんや後輩であろう天宙さんにまでイジられている。


 天宙さんが言う。

「朧くんどこに居るか知らんー?そろそろ行かんと朱羽ちゃんとの約束に間に合わんのやけど」

 真底さんが心底呆れたような声で言う。


「あいつはどうせ電車の定刻ギリギリまで家で寝てるだろ。待つだけ無駄だから先乗ったほうがいい」

 伽奈さんが伸びをしながら言う。


「朧くんいないと戦力的に厳しいものがあるからにゃあー、一本遅らせてでも待ったほうがいいんじゃない」

 よく知らないのだが、朧さんとやらはそんなに強いのだろうか。皆の口ぶりから察するに第三期のようだが。


 天宙さんが注目を集める。

「皆、朧くん待ちするで。暇やろうからどっか行っとっても良いけど、俺はここから動けんからあんま遠くまで行かんといてやー」


「本気かよ…」


 *


 同時刻、ソクラティア内の某所。

「空軍、『闇から出でし神々の遣い』集合!」

「ねえなんでそんな中二病拗らせたみたいなグループ名なの!?」


 高台の上で指揮を取っているガタイの良い男と、それを聞いている四人のMAILIS組織員たち。男のネーミングにその中にいた一人が突っ込みを入れた。


「ん?格好良くない?『闇から出でし…」

「いいから!繰り返さないで、周りの人たちみんなこっち見てるから!」

 側から見ていた縛が、リーダーと思しき高台の上の男に話しかける。


「霧灯、チーム名は『縛様と四人の奴隷』に変更だ。みんな足を引っ張るなよ」

 げんなりした顔の月並が言う。


「縛さん、ふざけてないでもう行きましょ、もう飛ばさないと予定の時刻に間に合いませんよ」

 縛が不満げな顔で言う。

「月並、俺はふざけてなどいない。チーム名は大事だぞ。主にモチベーション維持のためにな」

「いやふざけてるでしょ…」


 何も言わずに見ていた火奏がついに口を出す。

「遅れたからあたしが言う権利ないかもだけど、朱羽ちゃん怒っちゃうよ?早く行かないと」


 霧灯と呼ばれた男がハッとした顔をして言う。

「まずい、もう時間がない。チーム名は『闇から出でし四人の奴隷』に決定だ。乗り込め皆!」

「最悪なとこが組み合わさっちゃったよ…」


 やる気に満ち溢れている霧灯、縛と、それを傍目にうんざりしている火奏、月並が小型飛行機に乗り込む。けたたましいエンジン音を立てて飛行機は走り出し、やがて不安げに揺れながら地面から離れた。

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