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7話 終わるはずだった

 その後俺らはログナ行きの始発電車に乗って帰り、七帝さんたちに活動の報告をした。

「逆鉈…聞いたことのない名前だ。左神知ってる?」


「あー、そういえばこの前データ解析してる時、そんな名前があったような無かったような」

 この人が左神さんか。俺よりも小柄で、立ったら引きずってしまいそうな大きさの白衣を身に纏っている。


「や、雨竜。君は覚えていないだろうけど、俺は以前君に会ったことがあるんだよ」

「え……」

「覚えてなくて当然だ。君はその時死の淵を彷徨っていたんだから。


 数日前君は火事でその命を失った。病院に運び込まれた時には既に息がなく、死体のサンプルを集めていた俺のところに君の身体が送られてきた。


 しかしよく調べてみると、どうやら脳はまだ正常に機能しているらしい。俺は長年研究し続けてきた渾身の一作、人造人間の試作品に君の脳を移植し、生き返らせることができるのではないかと考え、緊急手術に入った。」


 この人は何を言っているのか。言葉の意味は理解できるが、その衝撃の事実を脳が受け入れられない。


「結果的に君は無事その身体に適合し、今も動けているという訳だ。手術が終わって暫くの間は危険な状態だったが、2、3日経って容態が安定したため、唯一のアテである七帝のビルへと送り込んだ。


 その後君がどうなったのかは知らない。だけど君の様子を見る限り、大きな不具合は起こっていないようだね。」

 声が出ない。


「あ、それと言い忘れていたが、君の筋肉を常人の5倍に強化している。他の部位を魔改造することもできるし、逆に元に戻すことも可能だ。何か用があったら一声かけてくれ。以上」


 何か言わなければならないと思い、必死で言葉を探す。

「あ、あの……ありがとうございます」

 左神さんがうつむきながら返答する。


「礼を言われる筋合いはない…というより、こちらが礼を言わなければならない。あのままでは助からなかったとはいえ、勝手に命をかけた実験をした訳だからな。ありがとう、雨竜」


 何ともいえない感情に浸っていると、左神さんはすぐに部屋を出て行ってしまった。七帝さんに話しかけられる。


「雨竜くん、左神が勝手なことをして申し訳なかった。奴は紛れもない天才なんだが、倫理観に欠けたところがある。何かあいつがやらかしたら、俺か信用できそうな奴に相談してくれ。」

「は、はい…」


 *


 激闘から数日後、ソクラティアの警察から一通のメールが届いた。

 ――七帝、厄介なことになった。


 ここ数日、隣国アルテミナの挙動がおかしい。巡回船がソクラティア沿岸まで迫るようになり、スパイと思しき者が何人も入国している。


 アルテミナ側は恐らく、この国の治安維持を担っているのが警察でないことを認識していないだろう。故に、アルテミナがこの国を侵略しようとして、警察が機能停止状態になっていることを知った場合、最悪国家存続の危機に陥りかねない。


 有事になった時、私たち警察にまともに動ける人間は殆どいない。そこで、何か起こる前にアルテミナを強く叩きたい。今週末まとまった人数を警察へ送ってくれないだろうか。私も同行する。――朱羽


 七帝さんが渋い顔をしてメールを読んだ後、集合の合図をかけた。

「皆、久々に大規模な仕事の依頼だ」


 知らない人たちが続々と七帝さんの周りに集まってくる。見知った顔は殆どない。

「隣国、アルテミナを完全破壊する。恐らくは向こうの警察との全面戦争になるだろう。人数は多ければ多いほどいい」


 春も終わる頃にも関わらず、分厚いコートを着た男が関西弁で質問する。

「左神さんとか六錠くんも出動するん?」

 七帝さんが答える。


「いや、彼らはここで拠点防衛にあたってもらうつもりだ。天宙(あまそら)、お前には行ってもらうけど」

 天宙さんが気怠そうな顔をして言う。


「えぇー、縛さんとか朧君とかいはりますやん、わざわざ俺が行かんでもええでしょ」

「いや、あいつらの手綱を取れる奴が足りない。暴れ馬みたいなもんだからな、お前なら飼い慣らせるだろ」


「そりゃそうですけど」

 七帝さんが続ける。

「天宙と霧灯で2部隊構成して、空陸両方から攻めてくれ。戦力のバランスは任せる」


「んな面倒な……」

 七帝さんがこちらを向く。

「雨竜くんは留守番でも良いよ。次の作戦、危険と隣り合わせだから荷が重いかも」


「あの、足手纏いにならないならついて行ってもいいですか?元々終わるはずだった命ですし、いざとなったら囮として時間稼ぎくらいはできます」


 七帝さんが驚いたような顔でこちらを見る。

「雨竜くん、あまり自分を軽んじるな。自死の選択肢がすぐに手の届くところにあるのは、時として自身の視野を狭めかねない。元々終わるはずの命だったから何だ?それは君が命を軽視する理由にはならない


 ただ……それ程までに強い思いがあるのなら、その超強化された身体で先輩たちの手助けをしてやってくれないか。

 

 MAILISにはある種超人や天才しか集わないが、その分人数が集められない。いかに強い能力を持っていたとしても、多勢に無勢で退かざるを得なくなるときも往々にしてある。君の存在はきっと何かしらの役に立つだろう。」


 説教と同行の許可が同時になされ、頭が混乱している。

「早速で悪いが、空軍と陸軍どちらに配属されたいか希望はある?どっちも同じくらい危険なんだけど」


「じゃあ、酔いやすいので陸軍で」

 七帝さんがニコっと笑う。

「了解。天宙、雨竜くんを頼んだよ」

「使えんかったら置いてくからなー」

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