86 鬼ごっこ
子供の逃亡、恐るべし…
「む、む、くる!」
おぅ、手を繋いだまま前転されて、手が離れてしまった。リンがトテチテタと逃亡していく…と思ったら、素早くソレノドンさんがキャッチ!
「ほーい、高い高い‼」
空中にリンを放り投げて、キャッチ、放り投げて、キャッチと繰り返した。
「だーっ!だーっ!ぴょーん!!」
天井付近でクルっと体勢を変えて、天井を蹴って脱出した!さすが、S級冒険者。
「だーっ!」
「全員でリンを捕まえろ‼」
「だーっ!これ、たのしい!」
ここ、医療フロアなのに鬼ごっこを始めようっていうのか!あ、アゲートさんの気配が恐ろしいことになっている…。
「とっては、ぴょーんとやってひゅーんでひらく!」
「ふざけんな!ここは安静が必要な患者がいるんですよ‼」
「がらがらいったー」
「人数が少なくても、絶対安静の患者がいるの!治療しろ‼」
「はいひーる!うえのかいいく~」
はいひーる?靴…?それとも「ハイヒール魔法」だろうか?リンの口調がいつもと違って、たどたどしい。今の流れだと、患者を治療するためにハイヒール魔法を使ったんだろう。
アゲートさんが患者の様子を確認するため、走って病室へ向かっている。
「すごい‼あんなに重傷を負っていた人が、治っています‼…捕まえて、医療スタッフにしましょう!」
ゴゴゴゴゴゴゴと音が聞こえるように鬼気迫った様子で、上の階へ駆けていった。
「何を言っているんですか‼捕まえたら、事務職にするに決まっているでしょう」
思わず私も言い返しながら、リンの後を追って走る。
「よし、それなら捕まえた人が希望する職にリンは就くってことで」
あ、ジョンさんも参戦ですか、そうですか。リンちゃん、モテモテですね。
「だーっ!」
トテテテテ…なんだか、リンの走り方が先程と比べると本気になっている。どうやら、捕まったら最後、こき使われる未来が見えているらしい。正しいけれど。
「だ!」
次の瞬間、階段の手すりにつかまり、その横にある次の階段にジャンプして着地した。
「お、良い動きじゃねえか。さすが、小さくなってもS級冒険者だな」
リンが冒険者の練習フロアにたどり着いた。
「ひといっぱい!ぎみっくいっぱい!」
ソレノドンさんがリンの動きを先読みして捕獲しようとするが、身長が低いことを活かして大人の足の間をすり抜け、壁を走って逃走していく。パルクールの動きで、S級冒険者2人、A級冒険者を相手取っている。
「「「キリがない(でありんす)…」」」
あ、大人組が正面から捕獲する作戦を変更するようだ。
「小さいお子と考えるでありんす。相手をしているから、楽しくてハイテンションでありんす」
「近所のガキも、追いかけられるのが楽しいっていう感じだしな」
「それならば、我々のやることは決まりだな」
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