8 行方不明者
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こん、コン、コン・・・
「誰だ?」
「(キツネです・・・と言いたいけれど・・・)リリーです」
「入れ」
ドアを開けると、ギルド長が食事中だった。
「食事中でしたか・・・すみません」
「いや、もう食べ終わるから問題ない。6時30分か、ちょうどカウンター業務グループが忙しくなるころだな。この時間帯、リリーさんは何をしている?」
「この時間帯は、カウンター業務グループのサポートに入ります。具体的には、新規クエストについて依頼できる冒険者ランクを確認し、クエスト依頼票を作成します。貼り出しについては、カウンター業務の人員が少ないときのみ行っています」
カウンター業務の重要な仕事は、クエストの難易度を正確に把握して、依頼できる冒険者のランクを決定することだ。難易度設定を誤ると冒険者の命を危険にさらしてしまう。その難易度についての見極めに必要なものは、討伐対象の魔物だけではない。魔物が出没している地域の地形や天候など地理的な情報、宿屋の有無、治療院の有無など総合的な知識が求められる。当然、判断はベテラン職員が行うことになるのだ。
2か月前まで難易度決定をしていたベテラン職員は、家庭の事情で隣国へ引っ越してしまった。しかも運の悪いことに、後継として育っていた中堅職員も同じ時期に退職してしまったため判断できる職員として私に白羽の矢が立ったのだ。
「ふむ、妥当だな。よし、本日の新規クエストは私も含めて確認しよう」
そう言うとギルド長は、魔法で伝言鳩にメッセージを伝えて飛ばした。伝言鳩は声を録音して相手に伝えることができるので、急いでいるときは非常に便利である。
すぐにギルド長室の中にある書類決裁箱に、新規クエスト一覧が転送されてきた。業務グループでクエストの内容と対応予定の冒険者ランクが一覧になっている。まず私がざっと見て内容を確認し、問題が無ければクエスト票作成可と業務グループへ伝える。疑問がある案件は保留にしておく。保留にした案件については、資料を見ながら慎重に行う必要がある。
「ギルド長、今回の保留案件は1件だと思います。内容は、ギルドから徒歩2日ほど東にある村に行った人が帰ってこないから様子を見に行ってほしいという内容です。業務グループはDランク相当としていますが、私はCランク以上相当だと思います」
冒険者ランクは高い順にSS、S、A、B、C、D、E、Fランクとなっている。Fランクは冒険者登録をしたばかりの人や子どもが多い。中堅どころがDランク以上で、ベテラン冒険者と呼ばれるのはCランク以上だ。
「そう考えた根拠は?」
「この村の位置ですが近くに魔物が出る森があります。さほど強くないですが、魔獣が出る森ですので気になります。次に、村に行った人ですが行商人と護衛として雇われた3人組の冒険者パーティー「サソリ」です。パーティとしてのランクはCランク、個人ではCランク1人とDランク2人という内訳です。この行商人とはよく組んでいて、気心も知れています。突然の事態に遭遇しても、依頼人である行商人を逃がすことに全力を注ぐはずです。それができないほどの事態が発生したと考えました」
「十分な根拠だな。よし、Cランク以上が妥当だろう。状況からみて、原因が不明だ。人・病気・魔獣などあらゆる可能性が考えられる。クエストの種類は調査クエスト、ただし状況次第では救出クエストになる可能性があることを明記するようにしよう」
一体何が起きているのだろうか。「サソリ」はこのトリティクムの町を拠点にしている。気の良いメンバーだけに心配だ。