56 クロの躾
「カッパーさんとリリーさんは、この屋敷に一度来たことがあるんだが、分かるか?」
「先ほどの執事さんは、以前紹介された執事長のモンドリアンさんだと思うのですが、正直同じ場所なのか分からないです…」
「そりゃあ、認識をちょびっと歪める魔法がかけられてるからね~。しゃーない」
「「えっ‼そうなの(ぉ)?」」
「おぅ、流石は拳骨大好き冒険者だな。防犯なんかのために、常時展開しているぞ」
「拳骨?大嫌いですよ!私はドMじゃないです!」
「心配するな、クロも拳骨をマスターしているからな」
「みゃぉ~ん♪」
スリスリ・・・魔力吸収グイグイ・・・ペチペチ。
「ガガガガガガガガガ・・・」
その後は、リンさんへ執事長などを紹介してもらい、フラーテル殿下のお屋敷を後にしたのだった。疲労困憊の私たちがギルドへ出勤したら、しれっとフラーテル殿下ならぬタイパンさんがいたから思わず笑ってしまった。
「なんだか疲れたから、私、家に帰るね‼」
「リンさんの家って、どこにあるのぉ?」
「ん?家は色々な場所にあるけど・・・ここから近いところだとデルフィナス国とオーラ国との国境にある森の中だね~」
うん、そこって魔の森とか魔物の巣窟とか言われている森だよね。その森があるから、いわば緩衝地帯になっていて、大規模な軍事作戦が行われない。その代わり、国を行き来するときには、腕の立つ者がメンバーにいることが必須。ギルドには隣国ルートの護衛依頼クエストは事欠かないし。そこに自宅の1つがあるのか・・・。
「その森って魔物が多いはずですが、困ったことはないのですか?」
「基本、静かだし来ないよ。来るのは縄張り争いをしようと勘違いしてくる奴かなぁ。この前やってきたキングミノタウロスは美味しかったなぁ。でも、たまに人間がやってくるから、そっちの方が面倒くさいんだよね」
リンさん、今まで魔力駄々洩れだったもんね。そりゃ、魔物だって命は惜しいから寄ってこないか。
「その辺りで、新規ダンジョンを発見したという冒険者からの報告があったと思います。ただ、認識阻害魔法がかかっているダンジョンらしく、まだ他の冒険者や職員が確認できていないんです。もし、リンさんが見つけたら私達に報告してもらえますか?」
「いいけど・・・ダンジョンなんて、あったかなぁ?」
すごくリンさんが不思議そうな顔をしている。リンさんが知らないくらいだから、よっぽど最近になって発生したダンジョンだろうか。
リンさんが帰ったあと、私達は通常業務をこなしていく。給与計算についても、今回は部下にやってもらって、私は確認して誤りがあれば指摘するだけだ。人材育成になって、ギルド長室勤務になって良かった面の1つだ。
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