35 鉄拳制裁
リンちゃんは強いけれど、タイパンさんには弱いのです。
「ごめん!ちょっと待って!」
今から治療できるギルド職員を呼んできても、きっと間に合わない…。まさかダンジョンではなく、ギルド長室で人生を終えることになるなんて、考えてもみなかった。フェリス、ソヌス、ごめんね・・・と思ったら、一瞬で身体の辛さが飛んで行った。誰も治療魔法の詠唱とかしていないから、一体だれが無詠唱でハイ・ヒールをかけてくれたんだろう。
「身体が楽になりました。一体だれが無詠唱でハイ・ヒールを発動してくれたんですか?」
この場にいる人で可能性があるのは、タイパンさんとリンさんだ。でも、リンさんは私を殺そうとした人だから違うだろう。それにしても、ギルド長の前で殺人をしようとするなんて、『危険度Sランクの冒険者』という二つ名は伊達ではないということか。
「すいませんでしたーっっ!!!いつも使ってる調味料なもので、毒なんてないと思ってて…」
いや・・・そんな事ある?猛毒の部類に入る毒草を調味料って・・・嘘つくの下手すぎる・・・
「あ~リリーさん、こいつは小さいころにレベル上げをしまくって、身体がやたらと丈夫になっていて、こいつの常識は世間の非常識なんだ。ちなみに、今ハイ・ヒールをかけたのはリンだから許してやってくれ」
「非常識とは失礼な!」
「あ、ちなみにリンの二つ名『危険度Sランクの冒険者』というのは、今のように無自覚で周囲へ被害を拡大させるからだ。アブソーブもリンの機嫌を損ねる人間を認識すると、猫のふりしてすり寄って魔力を吸い取り、行動不能にさせるんだ」
「ギルド長!『アブソーブ』じゃなくて『クロ』!」
ぞわっ‼すごい殺気だ‼離脱しなきゃ…‼命の危機を感じてギルド長室から脱出を図ろうとすると、アブソーブがドアの前に陣取ってきて脱出が出来ない。やばいやばいやばい…と思っていたら、フェリスが頭の上から降りてアブソーブと鼻と鼻を突き合わせて、何かコミュニケーションをしている。
(フェリス‼どうしたの?早く逃げないと、ヤバいよ!)
(リリー、大丈夫みたいにゃん。今のはタイパンがクロの事を『アブソーブ』って種族名で呼んだから、リンが怒った拍子に殺気が駄々洩れしただけで、危険は無いよってクロが教えてくれたにゃん。ボスのリンは理不尽なことはしないから、安心してってなんだか苦労人みたいなことを言っているにゃ)
(そうなの?さっきはダンジョンでドラゴンが出てきたような殺気がしていたよ。本当に大丈夫なのかしら)
「リリーさん、戻ってこーい。大丈夫、リンには拳骨をかまして正気に戻させたから」
確かに部屋が凍り付くかと思うくらいの殺気が無くなっていた。恐る恐る振り向くと、リンさんが悶絶していた…。クロがはぁ~とため息をついて、リンさんの方へ2、3歩進んでついてこいと言う風にこちらを見た。フェリスもついていくから、私も元の場所まで戻っていった。
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