22 ジョンさん
「お待たせぇ。スミスさんを呼んできたわよぉ」
「久しぶりに『国際金融に極秘情報あり』を聞いたなぁ~」
スミスさん、いつも敬語を使っていたのに、部屋に入ってくるなり砕けた話し方になっている。それに対して穏やかな雰囲気はなりを潜めていて、目つきは鋭さを増しているような気がする。これが本当のスミスさんの姿で、いつもの穏やかで人畜無害な雰囲気はフェイクなんだろうか。
「ふぅ~ん、リリーさんとソレノドンさんがこの場にいるんだな。で、どこまで聞かせているのさ」
「お前と銀行部門で3年以上勤めている奴は諜報部員。リリーさんはポーカーフェイスが出来ないから銀行部門を異動させられたと推測したというところで、お前が来たんだ」
「了解~。まぁ、いつもの銀行部門の『スミス』とは別人だと考えておいてよ。その方が頭が混乱しないでしょ。なんなら、今の俺は『ジョン』とでも名乗っておこうか?」
うゎぁ、つまり『スミス』って偽名っていうことだよね。もしかしたら家族だと思っている人たちも家族ではなくて仕事仲間の可能性もあるのかしら。でも、子供もいるし・・・さすがにそこまでは無いかな。
「変な憶測とかしない方が良いよ。知らない方が幸せっていう言葉もあるくらいだしね~。で、何があったのさ」
どうやら『ジョン』さんも読心術が使えるみたいだ・・・そんなに私は分かりやすいのだろうか。気を取り直して、今までの出来事や調査の結果を『スミス』さん改め『ジョン』さんに報告をしたのだった。
「へぇ・・・随分と面白いことになってきているじゃん。まずは、その貴族の洗い出しをして絡んでいる他国の特定、薬かどうかも怪しすぎる『粉薬』を特定して影響を調査、奴隷商に囚われている人達の救出、過去にも同様に売られている人たちがいるだろうから追跡調査と可能ならば救出か。やることが満載だな、これは冒険者ギルドのデルフィナス支部だけでは手に余るよねぇ」
これからの対応を挙げていくジョンさんが頼もしく見える。確かにデルフィナス支部だけでは人員も限られるし、他国への調査などが難しい。それに誰が『アンボイナ』に繫がっているか分からない中では、調査を行える人も限定されてしまうだろう。
「まずは王城・・・いや、王家に報告を行う。王家に報告の上で、どこまで情報を秘匿あるいは共有するかを調整する必要があるからな。『粉薬』などの調査については大々的に行ってしまうと国民の不安も煽るし、『アンボイナ』達の活動も更に分かりにくくなってしまうから一網打尽に捕らえるのも出来なくなってしまうからな。ソヌスの能力も王家には報告する事になるから、リリーさんは腹を括ってくれ」
報告を行う上での情報源は大事なので、私も覚悟を決めなくては!
「スミスやリリーさんには申し訳ないが、通常業務を滞らせるわけにはいかない。なるべく急ぎで通常の仕事を進めておいてくれ。例えて言うならば通常3日かかるのところを1日で終了させてほしい。余裕が出た2日間を極秘クエストの準備に充てるが、周囲には通常通りの事務を3日で終わらせた・・・というようにしたいんだ。出張命令も出すから、事務引継も進めておいてくれ」
「分かりました。ただ、そこまでの事務の短縮が難しいので、帰宅した後に自宅で仕事を進める方法などを認めてほしいのですが・・・」
そう私が言うと、タイパンさんも仕方が無いかと頷いてくれた。
「『アンボイナ』に関しては、銀行部門へ資金移動の申請があったよ。今は申請を受け付けて手続き中。資金の流れを追跡調査できるようにはしておく。ただ、明確な違反行為を確認しているわけじゃないから、手続きを停止にはできないからな。資金移動先は、隣国『オーラ』だ。『アンボイナ』もデルフィナス国に来た時に『オーラ』から来たと申請を出しているから自然だな。冒険者ギルドのオーラ支部が信用できるのであれば、調査を依頼するという手もあるが、まずはウチの奴を1人向かわせて様子見かな」
その後も話し合いは続き、タイパンさんとカッパーさんはギルド長・副ギルド長として各方面へ調整を行い、私は通常業務を超特急でやりつつ、事務引継を行う。そして『アンボイナ』にソヌスを近づけて情報を得ることが決まった。『ジョン』さんは『アンボイナ』の資金の流れの調査や他にも怪しい商取引が行われている可能性大と商業ギルドに警告をすることになった。ソレノドンさんは調査クエストを継続してもらう形で、奴隷商などの情報を探してもらうことに決まった。




