21 才能なし
「アゲートさん、改めてスミスさんを呼んで来てもらおうか」
心得顔でアゲートさんが部屋から出ていくと、ソレノドンさんと私にギルド長が向き合った。ソレノドンさんも私も、何故スミスさんが呼ばれないといけないのかがわからない。むしろ、固有スキルの事もありスミスさんに対して苦手意識が芽生えだしているくらいだ。
「2人ともに話しておかないといけないことがある。ただし機密事項になるので、契約魔法を掛けさせてもらうことになるんだ。機密事項を喋ろうとしても声が出なくなるという契約だから、どうか受け入れてほしい」
「「受けいれます」」
「ありがとう」
そう言うとギルド長が魔法紙を取り出して必要な契約事項を書き記し、私達に見せてくれた。内容として妥当だったため、私たちがサインをするとギルド長もサインをしてから、三人同時に魔法紙へ魔力を流した。
「スミスさん達についての機密事項となる。知っていないと今後の動きが変わってしまうからな。スミスさんは銀行部門を束ねているのは知っているな?あの部門は冒険者ギルドの諜報機関としても動いている。適性が少ない職員は、さりげなく異動したり退職させられたりしているから、銀行部門に3年以上いる奴は、ほぼ諜報員だと思っていい。リリーさんは給与事務をしているから、不思議に感じたことはないか?銀行部門にいる職員は出張が多かったり、手当が多く支給されたりしていただろう。あとは給与だけではなく、ギルド本部からも危険手当が支給されているな」
私もソレノドンさんも絶句してしまった。冒険者ギルド独自の情報網があるとは思っていたけれど、それは冒険者からの情報を取りまとめているからだと思っていた。そうではなくて、冒険者ギルドが専門の諜報員を抱えているなんて…領地こそ無いが、まるで大貴族や国のようだ。
「金の流れを追えば、ある程度のことは分かってくるっていう事か?だから銀行部門が諜報機関を担っていると」
「それも当然あるし、銀行部門は他国との情報を常にやり取りしていても不自然ではないこと、多くの国の言葉が喋れても重宝されるということも大きな理由だ」
「私・・・銀行部門を3年で異動していますが、適性が無いと思われたっていうことですか?」
「諜報部門がどう判断したかは知らされていないが、一緒に仕事をしているとリリーさんはポーカーフェイスが出来ないようだからじゃないかな。よく百面相をしている」
えぇっ!ひゃ、百面相なんてした覚えは無いのですが・・・
「あ~、冒険者の俺でも分かるわ。『百面相なんて、した覚えは無い』っていう顔している」
「・・・なんで分かるんですか。心が読めるんでしょうか」
「「分かりやすいだけ‼」」
異口同音で言わなくても良いような気がするのですが・・・諜報員の適性は皆無のようだ…。




