13 採用試験日決定
翌日も6時30分にギルド長室へ行くと、カッパー副ギルド長がいた。
「おはよぉ。始業時間ピッタリね。今日の予定を教えてくれる?」
「今日は技術系職員の給与計算を行う予定です。終了したら、計算ミスがないかの確認をお願いします」
「了解~。私は採用試験のための会議室予約を調整してくるわね。その後は自分の仕事を進めさせてもらうけれど、何かあれば声をかけて頂戴。遠慮は無用よ。『報告・連絡・相談』はとても大切だと思っているから、よろしくねえ」
そう言って、ギルド長室を出て行ったカッパー副ギルド長。ドワーフ族と聞くと「『物づくり・小柄・酒』というイメージが強いけれど、実際のところはどうなのか気になるなぁと思いつつ、給与計算を行っていった。技術系については、調理師グループは残業なしだったけれど、魔物解体グループ、医療グループは軒並み残業時間数が多くなっている。やはり魔獣が多くなっていることの影響が出ているなぁと思う。
「おまたせぇ、リリーさん。筆記試験の日付が決まりました~。3週間後よ!ちょっと周知期間が短くなるけれど、頑張ってね!」
給与計算を今日中に終わらせて、明日職員募集のチラシを作ってすぐに周辺のギルドと飲食店や市場の掲示板に貼り出せば間に合うはず…!頑張れ、私!
というわけで、超特急で給与計算を表計算ソフトへ入力、一通り見直しをしたら印刷!副ギルド長からは「獲物を前にした冒険者の目で、親猫をものすごい勢いでモフモフしていたわよぉ~」と言われたが。遅番で出勤してきたギルド長に給与計算に誤りがないか確認してもらう事にして、本日の仕事は終了!頭がプスプスしているような感じがするが、バルで夕ご飯タイムである。
「リリーさん、今日も早番かい?今までと勤務シフトが変わったんだね」
「そうなのよ~コクウスさん。医療スタッフから未病状態だと報告されたから、ギルド長が気を使ってくれて1か月間は早番のみになったの」
「そうかい、健康第一だからな。今日の夕ご飯はセットにするか?アラカルトにするか?今日のセットメニューはトマトリゾット・ペリュトンの唐揚げ・野菜ソテーだぞ」
「わぉ、美味しそう。セットでお願いします!」
「了解!」
クエストを完了させた冒険者が次々とギルドへ報告のために帰ってくる。バルではお酒は1人につき2杯までしか提供しない。それでも、無事にクエストをこなしてホッと一息ついたり、情報交換のために軽く飲みながら食事をしたりする冒険者は多い。彼らの話を何気なく聞いていると、書類には現れにくい臨場感や体感を感じることが出来て好きだ。それに冒険者は最新の情報を常に意識していないと、あっという間に死地に立たされてしまう。
「おい、聞いたか~。東の森がきな臭いっていう話。未確認情報だが、森に行った地元の奴が帰ってこないらしい。村の一番外れの一家で、いつからいないのか分からないらしいが、町へ行ったなら誰かが見ているから、森へ行ったんじゃないかって」
「へぇ・・・一家総出で森に行ったのかな?あのあたりは、薬草もあるから一家で森へ行ってもおかしくないしなぁ」
「あの森はそんなに強い魔物もいないはずだし、村人でもそこそこ戦える奴がいれば十分だろうさ」
耳に冒険者同士の話が飛び込んできた。東の森・・・行商人と「サソリ」が行方不明となっている場所のすぐそばだ。やはり、何かあるのかも知れない。帰る前に掲示板を見て、調査クエストを誰か受けてくれているか見てみよう。
掲示板を見ると、調査クエスト依頼票は剥がされていた。良かった、誰かが受けてくれている。受付窓口を見ると、ちょうど冒険者の列が途切れている。
「レープレさん、ちょっと聞いてもいい?」
「あ、リリーさん。今ちょうど誰も並んでないので大丈夫ですよ」
「調査クエストで、東の森に行った行商人と『サソリ』が行方不明だから調べてっていうのがあったと思うんだけれど、誰が受けてくれたか分かる?」
「え~と、ちょっと待ってくださいね。確か今日貼り出して、掲示板にもう貼っていないっていうことは受理済みだから、この束の中ですね・・・。ありました!Aランク冒険者のソレノドンさんがソロとして受けています」
「ソレノドンさんなら、実力もあるから安心ね。早く何か分かると良いんだけれど」
ソレノドンさんは優秀な斥候職で、以前組んでいたパーティが解散してからはソロだったり、誘われたパーティに臨時で参加したりしている。私もダンジョンに潜るときは、ソレノドンさんと組んでもらっていることが多い。安全マージンを十分に取って、危険性が高いと判断したら戦略的撤退をする人なので、今回の調査クエストでも何かしらの情報を手に入れてくれると思う。
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