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 殿下が私に初めに許してくれと言ったのは、その私のことを嫌っている人と結婚することになったから?


 誰?


 私は社交界では人付き合いが下手だった。


 小さいころは外国で過ごす時間が多かったから、この国の令嬢といろいろと違って奇妙な子だったと思う。そしてそのあとは、おしゃべりより読書が好きであまり社交の場にも出ていない。


 そのくせ殿下の家庭教師として王族に声をかけてもらうことも多かったから。


 悪く言われていた……嫌われていたのは知っている。


 ……そうだね。例え誰が殿下と結婚したとしても……好かれていないかもしれない。


「分かりません。殿下のことを幸せにしてくださる方なのでしょう?」


「シャリナは、俺を幸せにしてくれないのか?」


「え?えーっと、殿下が結婚なさる方が、私のことをあまりよく思わないようでしたら……」


 ルゥイと二度と会えなかったとしても……。


 リンクル殿下と二度と会えなかったとしても……。


「お二人の幸せのために、どこか遠くへ去りますから……」


「なんでっ!どうして俺のこと許してくれるんじゃないのか?なんでまた遠くへ行くなんて……!行かないでくれよっ」


 また、泣きそうな顔をしている。


「結婚なんてしなくたっていい。シャリナ、そばにいて欲しい……」


「だ、だめです。殿下は結婚しなくては……!」


「シャリナ?誰と、俺を結婚させたいの?俺は……」


 いや、誰と結婚するとかは分からないけれど。


 ルゥイを幸せにしてくれる人と結婚して欲しい。


 いや、違う、ルゥイのこと全然話に出てこない。


 本当に知らないの?というか関係ないの?殿下とは……。


「ヌダリラーア」


「え?どうして突然……隠す?隠しただっけ?」


「ボラァ」


「え?」


「ヌダリラーア ボラァ」


「隠した、宝?」


 殿下の言葉にハッとする。


 ボラァは、確かに宝という意味もある。


 だけれど、子供という意味もあるのだ。子供は宝だから……。


 もし、ルゥイのことを知っていれば、隠し子……ルゥイのことだとピンと来るはずなのに。


 宝だと口にしたということは、殿下は知らない。


 ルゥイのことを。


 王族とは関係のない子かもしれない。


 だけどリンクル殿下の隠し子だったとしたら……。結婚の邪魔になる。


 だめだ。やっぱり何か事情がある子なんだ……きっと。


「あ、えっと、殿下からいただいたネックレス……持ち歩くには高価なので、隠してあるんです」


 悟られないように。


「そうなんだ!ずっと持っててくれたんだね?」


 分からない。本当は無くしてしまったのかも。売ってしまったかも。


「あの、私、まずは両親に顔を見せに行こうと……思って……」


 殿下がハッとする。


「あ、ああ、そうか。すまない。そうだよな。うん、……シャリナ……」


 殿下が私の手を取る。

 殿下にも見つかってはいけないんだ。きっと……。


 王都に、来てはいけなかった。


 ルゥイを連れて来てはいけなかった。


 殿下が知らないルゥイ。


 リンクル殿下は結婚していない。


 そしてルゥイのことを知らない。


 ルゥイが殿下の子だとしたら……御落胤だとしたら……。


 後継者問題に貴族の派閥問題……いろいろ問題が起きる可能性があるってことなのだろう。


 だから、この子はいないものとして、私に預けられた。


 預かった私は見つからないように隠れ住んでいる。


 見つかってしまえば、下手をしたら、ルゥイは闇に葬られる。


 恐ろしい想像に、すっと凍り付く。




「ああ、いたいた!」


 リンクル王子の後ろに、ルゥイを抱っこしたマーサさんの姿が見えた。


 ま、まずい!


 ルゥイを見られるわけにはいかない。


 幸い、ルゥイは眠っているのか、顔をマーサの肩に伏せて顔は見えない。見えているのは……。


 目の前に立つリンクル王子とそっくりな金色の髪だけだ。いや。坊主頭にしたから髪色もパッと見ただけでは分からないだろう。


「侍女が呼びに来たみたいだから。行くわね!」


「あ、ああ」


 にこりと笑って見せると、リンクル王子がほっぺたを少し赤らめる。


 引き留めてしまったことを恥じているのだろうか?


 殿下の横を通るときに、殿下が私の腕をつかんだ。


「え?」


 見上げれば、殿下の目があった。


 どきりと、心臓が音を立てる。


 見上げるくらいに身長も伸びた殿下。


 私を掴む腕はあの時よりも、ずっと大きくてゴツゴツとしている。


 ……。


 あの時?


 あの時って何?失った3年の間の記憶の一つ?


 心臓がバクバクと早まる。


 分からないけど、思い出してはダメなことのような気がする。


「あ、明日、会いに行くよ」


「ダメ」


 即座に否定すると殿下が悲しそうな顔をする。


 だって、私が家に戻っていないことがばれてしまう。時間を稼がないと。


 王都を離れる時間を……。


「急に予定を変更しては周りに迷惑をかけてしまうわ。分かるわよね?」


 殿下がうんと頷いた。


 まるで、教師と生徒に戻ったようなやり取りに、自然と笑みがこぼれる。


「そうだね……。シャリナに会えて……我を忘れてしまった。いつもはこんなんじゃないんだ。本当だよ?こんなに子供っぽいことはしない」


 ああ、3年前。俺も成人する。大人になると言っていた殿下の姿を思い出す。


 今では、私と歳が変わらないくらい成長している。


 ……あ、私も成長というか年を取ったんだけど、3年の記憶を失って気持ちはまだ22のままだ。殿下は今20歳……あ、うん。それでも2歳年下なんだよね。見上げるくらい大きくなっただけで同じ年ではないよ。


 実際は私は25歳だし。記憶がなくてもきっと3年間で精神的にも成長しているはずだし。


 それなのに、なぜかいろいろと頭が働いてない。


「予定の調整に10日はかかるでしょう?」


「そんなにはかからないよっ」


 首を横に振る。

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