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■リンクル殿下視点■





「殿下、部下から報告がありました」


 第三騎士団隊長の面会要請の言葉に、期待と、期待が裏切られるであろう未来を想像し複雑な気持ちになる。


 3年がたつ。


 あの日から3年……。


 シャリナはどこへ行ってしまったのだろう。


 あんなことをしでかしてしまったのだ。


 顔も見たくないと思われても仕方がない。


 だから、家庭教師が必要なくなりまとまった時間が取れるようになったから幼少期にすごした隣国を旅するという言葉も分かる。


 顔を合わせないようにと……そう思ってのことだろうと。


 それだけでも泣きそうになった。


 もう、会ってくれないかもしれないと。


 それでも、謝りたい。


 いや違うんだ。それでも……。


 シャリナに会いたい。顔が見たい。


 会いたくないと言われれば無理に会おうなどとは思わないけれど……。


 それでも、最後にちゃんと……。


 今までの感謝の気持ちは伝えたいと思っていた。


 伯爵家に戻ったら連絡を欲しいと伝えたのに。


 いつまでたっても連絡はこなかった。


 立太子から3か月。やっと伯爵家から届いた手紙には「娘と連絡が取れなくなった」という内容だった。


 元気で無事に生活しているから心配するなと。


 こちらの生活がすっかり気に入ったので、もう国には帰らないと。


 あちらこちらを転々とするから手紙でやり取りは難しくなるだろうと。


 もし自分に何かあれば連絡がいくように手配はしてあるので、連絡がなければ無事だから大丈夫。探さないでほしい……と。


 そんな内容が書かれている手紙を見せられた。


 もしかしたら、俺の顔が見たくないから……国を出た?


 この国に居れば、嫌でもどこかしらで名前を聞くだろう。


 それだけじゃない……。


 俺の気持ちが重荷になってしまうことだって。


 誰かに知られてしまえば、貴族社会では心無い言葉に傷つくだろう。


 隣国に移住して生活する、その決断は確かに、この先ずっと何かにつけて嫌な思いをしながら生活するよりはシャリナにとって幸せだろう。


 だからって、家族との連絡を絶つなどと……。


 生活の支援くらい俺にさせてくれても。シャリナにはその権利がある。


 いや、そんな関わりさえ持ちたくないのかもしれない。


 そこまで、俺は嫌われてしまったのだろうか?


 許しを請うことさえ許されない……。


 気持ちを伝えることすら、許されないのか……?


 ならせめて……。


 感謝の気持ちを……贈らせてほしいと。


 シャリナならば、謝罪の言葉を受け取れないと言っても、感謝の言葉は受け取ってくれるだろう。


 俺の我儘を……。初対面の時の失礼な態度も、それから先のどう伝えればいいのか分からなくてしてしまった意地悪も、すべて受け入れ許してくれた優しいシャリナ。


 最後の我儘だ。


 謝罪はいらないと言われたら、感謝は伝えたいからと……。贈り物を受け取ってもらおう。


 ……カードを添えて。


 それくらいの我儘は許してもらおう。


 手紙は受け取ってもらえなくても、カードくらいは……。


「俺は……シャリナと……」


 ファールメリ……。

「殿下?」


 はっと意識を戻す。


 今は、シャリナの消息がつかめないのだ。話は見つかってから……。


 もう、陛下と……父上と約束した期限となってしまったのだ。


 3年……成人してから3年は待つと。


 それを過ぎたら、婚約者を決めると。


 その3年が過ぎてしまった。


 この1年の間に婚約者を決めなければならない。


 見つかってからどうするかの段階は過ぎているのだ。


 もう、あきらめて前に進まないとダメなんだ……。


 分かっている。


 分かっているんだ。


 だから、これが……最後だ。


 隣国からも多くの者が集まるこの祭りで何の情報も得ることができなければ……。


 シャリナにカードを贈ることも思いを告げることも、何もかも諦める。


 シャリナのことだから、語学力や豊富な知識を生かして、隣国では貴族の家庭教師の職を得て生活するだろうと思った。すぐに調べさせたけれど、見つからなかった。


 豪商にまで調査を広げたがやはり見つからず。


 家庭教師として働いているわけではないのかと、通訳として文官で働いているのか?商隊にいるのか?


 いろいろな可能性を考えて探させた。


 ……。


 ふと、シャリナとのやり取りを思い出す。





「殿下、分かり合えないと思っていた人と、言葉を交わすことで分かり合えるのって素敵なことだと思いませんか?」


 西の国からの使節団が来ていた時だ。


 俺が11歳、シャリナが16歳。


 いつもと違う髪型。いつもと違う化粧。いつもと違うドレス。


 いつもよりも綺麗な姿で現れたシャリナ。


 西の国の使節団を歓迎するための舞踏会が催された。


 きらびやかなドレスに身を包んだ美しい女性は他にもたくさんいた。


 むしろ、シャリナはその中でも地味な方だし、誰の目も引くような美しさがあるわけではなかった。


 だけれど、俺の目は釘付けになった。


 目が離せなかった。


 通訳として俺の横に立つシャリナ。


 誰よりも輝いて見える。


「外国語を学べば、言っていることは分かるが誰とでお分かり合えるっていうのは難しいだろ。例えば、あのしかめっ面したやつ」


 訳も分からずドキドキするのを悟られたくなくて、ぶっきらぼうにシャリナに答える。


「そうですね。確かに誰とでも分かり合えるわけではありません。でも、分かり合える人か分かり合えない人か判断することはできますよ」


 シャリナがにこりと笑うと、俺の心臓がどきりと音をたてた。


 そのままシャリナはしかめっ面をしている西の使節団の一人に近づいて行った。


 シャリナが話かけると、20代半ばの男は驚いたような顔をしたが、すぐにシャリナとにこやかに話し始めた。


「なんだ、あの男……」あんなにつまらなそうな顔をしていたのにっ」


 シャリナに話しかけられたとたんに嬉しそうな顔をしやがって。そう言えば、西の国の男は女に手が早いと言う話だったんじゃないか?


 シャリナが楽しそうに笑っている。


 くそっ。


「シャリナ、甘い言葉に騙されるなよっ!」


 思わず二人に近づきシャリナの袖を引いた。


「ああ、殿下。甘い言葉?よくサフィアールさんが言っている言葉が聞き取れましたね」


 嬉しそうに笑うシャリナ。

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