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★視点戻る★




 街並みの様子が変わってきた。


 庶民が主に生活する場所から、貴族街に近い場所に入ったんだ。


 貴族も利用する商店などが並ぶ区域だ。


 貴族が利用する区域は、一つずつの店が大きく、馬車が利用しやすいように道幅も広く、馬車を止める場所もある。


 このまま進んでいくと貴族たちが住む区域になり、さらに進めば王城にたどり着く。


 流石に貴族街まで進むと、庶民のなりをしている私は目立ちすぎるし、私の顔を知っている人も増えるから危険だろう。


 すでにここでも、庶民の数はグッと減るから結構目立ってしまっている。


「これ以上先に進むのは危険そうだなぁ……どうしよう……」


 もし本当に隠れ住んでいるのなら、絶対に見つかるわけにはいかない。


 記憶がないのだ。


 見つかったらどうなるのか……という情報もない。


 最悪私もルゥイも殺されてしまうし、かくまったという罪でマーサさんたちにも罰が下る可能性だってある。


 心臓がばくんと跳ねた。


 立ち止まって考えているのも目立つので、手近な店に入る。


 お菓子の店のようだ。


「ルゥイに何か買っていこう……マーサさんと息子さんにも……」


 商品を眺めていると、貴族向けの高級菓子だけではなくて庶民向けのお手頃価格のお菓子もあった。


 貴族街よりも庶民街に近い立地ということもあって少し余裕のある庶民もよく買いに来るのだろう。私以外にも多くの庶民たちが店にはいた。


 これならそう目立つこともないわね。


「シャリナお嬢様っ!」


 え?


 声をした方に視線を向けると、お母様付きの侍女のマールがいた。


「お嬢様、ご無事だったのですね!奥様も旦那様もそれはご心配していらっしゃって……」


 どうしよう、どうしよう。


 お父様とお母様は私のことを心配しているというのは本当?


 だとしたら、別に身を隠す必要もないの?


「あ、あの……どちら様でしょうか?」


 体が硬くなる。


 失敗するわけにはいかない。選択肢を間違えては駄目だ。


 記憶がない今はうかつなことはできない。


 ……何も分からない状況で「今の状況をひっくり返す選択」はまずい。


 マーサさんの家を出て伯爵家に戻る……とか。


「私をお忘れですか?奥様の……シャリナお嬢様のお母様の侍女のマールです」


 覚えてるよもちろん。


 3年ぶりじゃなくて、記憶を失った私にとっては、数日ぶりでしかないんだもの。忘れるわけがない。……ああ、でも、老けたね。3年で白髪がずいぶん増えている。


 数日ではなく本当に3年の月日がたったのだ……。


「ご、ごめんなさい、本当に、あの人違いじゃないかしら?奥様と旦那様というのはお貴族様なのかしら?マールさんが侍女だというのならきっとそうよね?」


「シャリナお嬢様ではないのですか?」


 まだ疑わしい目をマールは私に向けている。

「ごめんなさい。貴族の知り合いはいないので……人違いで間違いないと思います……。その、お嬢様と私はそんなに似ているのでしょうか?……その……」


 ごめんね、マール。


 記憶が戻って何もかも分かって、お父様とお母様に連絡を取っても大丈夫だと分かったら必ず手紙を送るから。


 家に戻っても大丈夫だと分かったら、戻るから。


 例え、記憶を失う前の私が、お母様とお父様と喧嘩をしていたとしても、顔を見せに行くから。


 だから、今は、全力で身を隠させて。


「街中で西から来た商人にも人違いされたので……」


 私が住んでいる、マールさんお店とは反対の方を口にする。


「え?それは本当ですか?西って、どこの街か分かりますか?」


 ごめんね、マール。


「ごめんなさい。その人も移動中で私にそっくりな人とは乗合馬車で一時一緒になって少し話をしただけみたいで……街の名前をいくつか口にはしてたと思うんですけど、覚えていなくて……西のということしか……」


 マールが頭を横に振った。


「いえ、ありがとうございます。それだけでも、旦那様がお聞きになれば喜ばれます」


「あの、旦那様って?もし、また誰かに私とそっくりな人と会ったという人がいれば伝えますけど……」


 マールから聞いた名前は、確かにお父様の名前だった。


 伯爵家は取り潰しになっていない。


 屋敷も同じ場所にある。マールという侍女を雇い続けているのだ。


 貧乏ではあっても、よりひどい状況に陥っているわけではないだろう。こうしてお菓子屋に侍女が買い物に来られるのだ。




 マールが店を出るのを見送ってホッと息を吐き出す。


 伯爵家が無事でよかった。


 マールは、お父様やお母様が好きだったオレンジの入ったクッキーを買っていた。それから、私が好きだった紅茶のクッキーも。


 私が好きだった紅茶のクッキー……。


 いつ、私が帰ってもいいようにと用意してくれているんだろうか。


 お父様……お母様……。


 心配していると言っていた。


 マールの様子では探している様子だった。


 ということは、少なくとも私は連絡を取っていなかったのだろう。


 手紙で近況を届けていたり、居場所を知らせていたりしてなかったということだ。


 心配しなくていいような理由も伝えていなかったということも分かった。


 家族にも内緒にして身を隠していたことはこれで間違いなさそうだ。


 ……本当に、一体何が……。


 ルゥイを護るためというのが一番大きそうだけど、でもお父様やお母様はとてもやさしくていい人だ。ルゥイを護るのに協力してくれそうなもんだけど……。


 見張られているのだろうか?私がルゥイと一緒にいることはバレていて、家族と連絡を取るかもしれないと伯爵家が見張られていて協力を頼めないとか?


 ……どちらにしても目的は達成した。


 長居して私を知っている人にこれ以上会うわけにはいかない。


 さっさとお菓子を選んで帰ろうとして目にはいる。


「あ、金平糖だ……」


 小さな砂糖でできた色とりどりの粒。

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