ほしいもの
あたしは、伊藤カナデ、六さい。
ゆめなんて、ない。ゆめなんて、ない。
あたしは、たまに、おいしいものが食べられて。そして、そこそこ、まんぞくできるぐらいに、おもちゃがあって。家族がいるならいい。お友だちだって、一番って思えるようなお友だちはいないけど、いい。皆が、もりあがって遊ぶ時に、まぜてもらえるから、いい。
これが、あたしの、毎日。
あとは、なんにもいらない。いらない。
そしたらね、ちょっといじわるそうな、女の子の妖精がやってきて、言うの。
「今日は、クリスマスイブだからね。
神様が、人の子どもの願いを叶えてきなさいって言っていたからね。私、叶えるの。カナデ。なにか、願いは、ない?」
あたしは、それを聞いてなぜか、悲しくなった。もし、なにかを願えば、あたしは、今の日々が嫌だったということになる。ツラくて、さびしくて、かなしかったことになる。
あたしは、なにか、言いたくなるのを歯をちょっとくいしばって、手を軽くにぎって言った。
「なにも、いらない。帰って!もっと、かわいそうな子のとこ、行ってよ!!あんたなんて、用がない!!」
すると、妖精は、ムッとした顔になった。
「チッ。もっと、かわいい感じでいなさいよカナデ。そしたら、もっと、元気にしてあげるのに。この、意地っぱり」
「なによ。余計なお世話よ。帰って、早く!!」あたしは、軽くこの妖精を叩いてやろうと思って、手を上げた。
すると、妖精は、本当に、悲しそうな顔をしたのでやめた。
「いいから、早く帰って…」あたしは、うでをくんで、妖精と反対のほうを見て言った。
妖精は「似てるって思ったのに。バカ…」
〈なんですって…〉と、あたしは、バカと言われたことに怒って、また、叩こうかなと思った。だけど、〈似てるって思った?〉そこが、気になった。
「私は、どの人間の子の願いを叶えるかをきめるかで、二、三日ようすを見ていたし。カナデが、夜、眠っている時に、頭の中をのぞきもした…」
「もう、かってに…」あたしは、また怒りそうになったが、妖精が手を前にして、まって、としたので。やめた。
「それでね。私と、カナデは、似ているって思ったの。私と、似ている毎日をおくってるなって。だから、力になりたいって思ったの。いけない?」
あたしは、なやんだ。妖精の話をきいて、妖精のことが、すきになった。だきしめたい、気持ちになった。だけど…。
「でも、いらないから、帰って!」あたしは、自分が、バカだと思った。素直に、妖精の気持ちを受け入れたらいいじゃない。本当に。でも、魔法だの、なんだので、変にちゅうとはんぱに、気持ちをまんぞくさせられるのは、気持ち悪いって、思ってしまった。
「いらない。バイバイ」あたしは、ちょっとふるえながら、がんばって、笑顔をつくって、手をふった。
妖精は、おどろいていた。だけど、しばらく考えて。ニコッと笑って、こう言った。
「私は、カナデが一番すきだよ」
「えっ…」あたしは、びっくりした。それは、きっと、あたしが一番ほしかった言葉。でも、妖精は、あたしの、頭の中をのぞいたって言ってたから。だから、言ったのかもしれない。
それでも、うれしかった。
「うぅっ、ありがとう。ウソでも、うれしいよ」
「ウソじゃないよ。でも、スナオになってくれて良かった。私の名はヘネスよ」
「ヘネス、ありがとう」あたしは、泣きながらヘネスとあくしゅをした。
それから、十年がたった。今では、親友が一人できたし。楽しくすごしている。ヘネスに、一番すきだよって、言ってもらえたことが、かなり、自分の中で、強くささえになっている。
あれから、ヘネスは、会いにこない。妖精は、めったに、人前にでないって、言っていたから、そういうワケがあるのだろう。
ヘネス、人間の親友の一番は、できたけど。妖精の、一番はあけているから、また、いつでも会いにきてね。
今度は、お茶でもだして、スナオにかんげいするから!!!
スナオになるって、むずかしい時があるよね。だけど、やっぱりやさしくされると、うれしいから、笑顔でむかえたいよね!!