役目と感情の狭間で
*コルネリア視点
神の声によると今日リーリオのパイロットがやってくる。
物心ついた時から聴こえてくるわたくしにだけ届く声。
お兄様曰く、過去にも同じような例はあったらしい。
しかも記録として残っている事例は全員女性だったと。
特定の人間にしか聴こえない声を送る超常の存在、というわけで本人がそう名乗ったわけではないが勝手に神と呼んでいる。
話しかけてくる内容は基本的に得にも損にもならない「今日もいい天気ですね」級に中身のないものばかりだったけれど。
もし本当に神であるのならと、一種の賭けに出た。
国の役に立ちたい、戦争での勝利に貢献したい。
そんな想いから未知の存在に対して軽率に助力を乞うてしまった。
そうしてもたらされたのがリーリオ機関。
わたくしが聴いた内容をメカニックに伝えて作成するという作業は大変だったけれど、これで神の加護を得たリーリオならばという期待で満ちていた。
しかし新たな問題が浮上した、わたくし以外には動かせなくなった。
お兄様にわたくしが戦うと進言したが、過去の悲劇から王族は乗せられないと却下された。
これでは戦争に参加することすらできない、新しい機体を1から建造するような時間はもうない。
国のためによかれと思ってやってことが裏目に出て、それはもう声の主を散々に罵倒した。
そうしたらパイロットは用意できるけどその場合相手と結婚することを条件にされた。
追い詰められていたわたくしにはもうそれを承諾するという判断しかできなかった。
せめてこの容姿を嘲笑する人ではありませんように、そう願うしかなかった。
そして……、目の前に現れたのは……。
短く切り揃えられたこの国では滅多に見ない黒い色の髪。
背は高く綺麗な顔立ちと、あれ?
決して大きくはないが胸がある、しかもあれは下着をつけていない?
もしかして女性?
いや、そこを考えるのは後だ。 下着も身に着けていない女性を沢山の武装した男が取り囲んでいるなんて状況はよろしくない。
わたくしはこの女性が本当に結婚相手なのかを確認するよりも先に女性を怖がらせないことを優先して動いた。
女性は、ラストと名乗った。
変わった人だった。
わたくしの容姿を嘲笑しないどころか年齢を知ってガッツポーズしながら喜ぶ人なんて初めだった。
内側に暖かい何かが灯った気がした。
リーリオもしっかり起動させることができた。
可愛いって、結婚したいって言ってくれた。
これまでの反動であることはわかっていたけれどこんなに嬉しくなることばかり言われたからもう相手が女性であることなんてどうでもよくなっていた。
「だって、これでやっと国の役に立てるんだもの」
その言葉を聴いたラストの表情が固まった。
どうして、そんな悲しそうな表情をするのだろう。
あなたはわたくしと結婚できてわたくしは国のために身を捧げられる、それでいいはずなのに。
そして、どうしてわたくしはラストにそんな表情をしてほしくないのだろう。
自分がなぜこんなにも動揺しているのか、わたくし自身にも全然わからなかった……。