新婚旅行 後編
「お待たせしました、先輩」
次はタユカね、バランスとれたスタイルの良さだから期待大!
って……。
「なにそれ、フィットネス型!?」
なんてことだ、わたしの知ってるタユカの色気を微塵も活かせていない!
「今回ボク護衛の仕事で来てるので、いざという時のためにちゃんと動ける水着をって指示されたんです」
「そう言われると返す言葉が無いね、ちくしょう!」
だがまだだ、まだリンナちゃんがいる。
あのすんごいのを強調するような水着が、きっと!
「さあリンナちゃん早く来て!」
「お呼びになりましたか、ラスト様」
「呼んだらすぐ来てくれた、ってあれぇ!?」
リンナちゃんはいつものメイド服である。
この場でその恰好は暑いでしょ、真夏じゃないとはいえとかそんな全うな問いかけは一瞬で頭から締め出される。
つまりこの状況でする発言はひとつだけ。
「なんで水着じゃないの、すんごく楽しみにしてたのに!」
いつもはガードの固いリンナちゃんでも今日くらいは開放的になってくれると信じていたのに!
だったらあの時手を振りほどくなよって話なんだけど、あれは下心だけで身を任せちゃいけない場面だったじゃん。
「ラスト様、私の仕事はなんですか?」
「わたしとコルネリアの身の回りの世話なんじゃないの」
「いいえ、一番大事な仕事です」
他のナニカをしてるところなんて見たことないけど何かあるんだろうか。
「私は、最後の砦です」
「なにそれ?」
「本当にいざという時、我が身を盾にしてでも姫様とラスト様をお守りする。 それが私の最重要任務です」
「そうは言ってもこの場は二か国合同で警備されてるしタユカだって戦闘力が落ちない恰好でいるんだよ、リンナちゃんがそこまでしなくたって」
「ラスト様」
ピシャリと低い声色で遮られ、それ以上何も言えなくなる。
ヤバい、眼がガチだ。
「メイドの身でありながら城内やこの場で武器の携帯を許可される、これはドリューナルに仕える者としてとても名誉なことなんです。 それともラスト様は私からこの誇りを奪うのですか?」
その誇りで一度わたしに銃口向けたけどね!
いやそうじゃない、リンナちゃんが凄くカッコイイこと言った。
これはトキメく。
最初のオドオドしてた頃から凄く変わったなぁ。
あの時はあの時で可愛かったけど!
「わたしの負けだよリンナちゃん、水着はまたの機会にするね」
「諦めてはくれないんですね……」
だって、見たいじゃん。
「これで全員揃ったかな」
「いいえ、今日はもう1人いるわ」
え、誰?
「お待たせしました~」
お、おお!?
「来たわね、イレーヌ」
「セルアさん、私も招待されちゃってよかったんでしょうか~?」
「いいのよ、貴女だって古代戦争の勝利に貢献した1人なんだから」
そう、前線基地でオペレーターやってたイレーヌちゃん。
あの頃はキリッとしてたイメージだったけどオフだと緩い人なのかな。
あれ、こっちに駆け寄って来る。
そして手を力強く握られた。
こ、これはまさか!?
「ドリューナル王妹殿下、私……」
まさか、わたしにモテ期到来!?
「私、彼女にちゃんと好きだって告白できました!」
「……はい?」
「ラストにわかりやすく説明するとね、イレーヌには元々好きな女性がいたんだけど」
「あー、うん」
「でも中々告白できなかったのね、だけどあの決戦で2人の告白から逆転劇を見せたら勇気が出たって」
まって、何かがおかしい。
「今見せたらって言った? あの場にいなかったイレーヌちゃんにどうやって……」
「私達が一部始終録画したわ」
「あの時ジャミングで通信できなかったでしょ、だから全部外部スピーカーで駄々洩れだったよー」
と、いうことは……。
「あの情けないわたしの姿がペルヴァンシア中に!?」
なんてことだ、頭をかかえる。
そしてその後、この時ショックの強さでイレーヌちゃんの水着をじっくりねっとり拝むことすら完全に抜け落ちていた。
なんてこったい。
「良かったねイレーヌちゃん、彼女さんとお幸せにね」
もう、それだけ絞り出すのが精いっぱいだった……。
そして夜。
「いやー、昼は遊んだ遊んだ」
「そうね……」
夜になってセルアに案内されたよくわからないけど凄い豪華な宿泊所。
その一室のやたら大きいベッドの上で、コルネリアと2人横になる。
「わたくしは機動兵器を乗り回す貴女達と違って体力がないのよ、疲れたわ」
「海で遊ぶとか初めてだったので、つい」
しかも高級リゾート貸し切り、ついハシャいでしまった。
「海はともかくとして、あんな遊び方をしたのはわたくしも初めてね」
「どうだった?」
「良かったわよ、普段とは違うラストが見られて」
「そっち!?」
ボリューム不足のわたしがビキニなんて着ちゃったからね、新鮮といえば新鮮だよね。
「好きよ、ラスト」
「急にどうしたの?」
「言いたい気分なの、わたくしの前で裸になるのは平気なのに水着を恥じらう貴女は可愛かったわ」
「ああいうのがツボなんだ」
好きって言って貰えるのは嬉しいけど、ちょっと方向性が……。
まあいいか。
「わたしも、コルネリアのこと好き」
「ラストは、ずっとそう言い続けてくれたのよね」
「これからも言い続けるよ」
「これからは、わたくしも」
好きな女性に「好き」と言ってもらえる幸せを噛み締める。
新婚旅行は今日だけじゃないし、2人で一緒に進んでいく人生だってまだまだある。
今はそれだけで十分だ。
眼を閉じる。
遊び疲れからか、意識はあっさりと眠りへと沈んでいった。
アフターストーリーはひとまずこれでお終いです。
何か思いついたら追加するかもしれませんが。
今後の動きについては近い内に活動報告へ書き込みます。
それでは皆様また次回作でお会いしましょう。




