救世主
こちらに向かってきたトンデモなくデカい物体。
ソレは全容を見渡せるくらいの距離で動きを止めた。
サイズはリーリオの倍、いやそれ以上か……。
味方、なわけないよね。
「いてくれて嬉しいよ、ラスト君」
「エリオッタ、アンタがそれに乗っているの!?」
話しかけてきたのも驚きだけどついでに知ってるヤツで二重に衝撃だわ。
「その通りだよ、これこそがこの国の切り札たる『サヴァント(救世主)』だ!」
これが連中の言っていた救世主、まさか採算度外視のワンオフ機を作っていたなんて。
「つまり、元々はソイツにタユカが乗る予定だったの?」
「そのようだね、俺がそれを知ったのはつい最近の話だけどさ」
「じゃあボク用のメンテナンス施設が前線基地にあったのは……」
「ここまで来たら気づくよね、当初はタユカ君をコレに乗せて侵攻する予定だったのさ」
「じゃあエリオッタ、アンタ肉体改造したの?」
元々タユカ専用機だったのならそういうことだ。
素の人間にはロクに扱えないシロモノなんだろう。
「本当はそうしたかったんだけどね、君達と大統領の動きが迅速だったせいでそんな時間は無かったよ」
よし、なら間違いなくヤツはあの機体のスペックをフルには発揮できない。
有利な材料はいくらでもほしい、だからもうひとつ。
「見損なったよエリオッタ、まさかクーデター派につくなんてね」
精神攻撃だ、言葉攻めしてやる!
「俺はクーデター派の思想に興味なんてないよ、俺の目的はただひとつ」
あれ、効いてない?
「ラスト君、君に勝利することだ!」
「はい!?」
おかしい、確かにエリオッタは前からわたしに勝つことに固執してた。
でもそれでここまで滅茶苦茶やるヤツじゃなかったハズだ。
けれど、こうして対峙している以上そこは大した問題じゃない。
事情も理由も知らない、敵なら倒すだけだ。
「まあいいや、じゃあ負けさせてあげるからさっさと帰れ!」
これ以上付き合う必要は無い、とっとと終わらせる。
「AI、片翼輝光起動!」
「レディ」
フルーギロージュの光を纏い突撃する。
「ド真ん中に風穴空けてやる、スピラーロスパイラル!」
初手フルパワーだ、って……。
「と、届いてない!?」
見えない壁に阻まれている。
これは……。
「アンブレイカブルシールド……?」
「君達はそう呼んでいるようだね、非情に強力なバリヤーさ」
そういえばドゥークタードに搭載できないのは技術的じゃくてコスト的な問題なんだっけ。
「これで攻撃が通用しないのはわかっただろう、少し俺の話を聴いていくといい」
エリオッタの身の上話なんて微塵も興味無いけど援軍を待つ時間稼ぎにはなるか、そこはお互いではあるものの。
「先の戦闘でファーステン兄さんが戦死したことによりアンダス家を継ぐのは俺になった」
本当に話始めたよ。
それで、以前どこかで聞いた名前だと思ったらエリオッタの口からか。
それで仕留めちゃったのがユキヒコ、と。
「だが両親は言ったよ『ラスト君の不在で繰り上げ主席卒業したエリオッタが軍部の名門アンダス家の跡取りにふさわしいのか』ってね」
いや知らんがな。
「だがそれと同時に機密だったこのサヴァントのことも知った、タユカ君が不在で席が空いてることもね」
「だから立候補したっていうの?」
「そういうことだ、俺の操縦技術をもってすればマニュアル操作でも問題なく戦闘は行えるからな」
確かにエリオッタの操縦技術は高い、けどそれでもタユカの接続には及ばないハズだ。
弱点とはいかないまでも付け入る隙になってほしい。
「そしてラスト君に勝利し、手に入れると決めたのだよ!」
……なんだって?
わたしを手に入れるって言ったのかコイツ。
「ふざけるな、例えここで負けようがわたしはアンタのモノにはならん!」
「いいや、チカラづくでも攫っていくとも。 君に勝利し伴侶として連れて行けば両親も納得するだろう」
コイツ……。
「ラスト君が抜けての繰り上がり主席、兄さんが死んでの繰り上がりな家督。 そんなモノに価値は無い、俺は俺の実力で自分の存在を証明してやる!」
あー、わたしに負け続けたのと兄の死で板挟みになったせいでここまで追い詰められてしまったのか。
でも同情する気は一切無い、わたしは男の隣には立たない。
だから、ブチのめす!
2章のラスボス登場、次回から決戦になります。




