クーデター
あーもう、やってくれたな。
結局罠だったのか。
武装集団に部屋を占拠され身動きがとれない。
でもすぐさま発砲してこないところ見ると、問答無用で殺害する気はなさそうだ。
タユカに反撃に打って出る合図を出すタイミングを伺わないと。
と、リーダーっぽい男が大統領の方へ行ったな。
「お前達は軍の者か、どういうつもりだ!」
「どうもこうも、先程言った通り停戦などされては困るのですよ」
「なんだと!?」
「我々はまだ戦えるというのに勝手なことをされては困ると言っているのです」
んん、なんか様子がおかしいな。
大統領とリーダーっぽいヤツのやり取り、それからさっき見えたドアの外で倒れていた警備兵。
これってもしかして……。
「クーデターか……」
わたしが言う前にエルトレオ王がポツリとつぶやく。
意見が一致した。
大統領は本気で停戦するつもりだったのに軍が戦争を続けるために強硬手段に出たっていうの。
「我々にはもう戦争を継続させるような余力は無い、それは後方にいるワタシよりも現場にいるお前達の方がよくわかっているハズだろう」
「やれやれ、一体どこの誰がそんな入れ知恵をしたのやら」
そうだ、シャーレットさんだってもう限界だと言っていたのに。
「問題ありませんよ大統領、他の戦力を失っても『救世主』さえあれば負けはしないのですから」
「なんだそれは、聞いたこともないぞ」
「勿論です、あなたはお人好しが過ぎるので知られたら即座に凍結されてしまう」
出た、タユカも言ってたワードだ。
まあタユカを使う時点で人道的なシロモノのワケがない。
しかしタユカが不在になった今、もう使えないのかと思ってたけどそうじゃないのか。
「そんなモノが有ろうと無かろうと関係ない、こんなやり方にワタシは屈しないぞ!」
「頑固ですねぇ、とはいえ戦争を続ける印を押してもらうためにもアナタを殺すワケにはいきませんし」
「もうたくさんなんだ、先代から引き継いで何も考えず印を押し続けるのは……」
「そうやって必要悪だった我々をただの悪として断罪するんですか、下らない正義感で」
なんていうか、わたし達は完全に蚊帳の外じゃん。
これは意外と早くチャンスが来るかも。
「断罪されるのはワタシも一緒だ、許可し続けた身なのだからな」
「ならこれからもそのままで良いでしょうに」
「断る、どうしても続けるというのならワタシを殺してからにしろ」
「それをできないことが分かってて言ってますね、ここまで迅速に調印式まで持ってこられたせいですげ替える頭を用意する時間など我々にはなかった。 この場を割り出すのにもどれだけ苦労したことか」
なんとなく見えてきたぞ。
大統領は事前にクーデター派の動きをある程度掴んでたからこんな小規模、かつ少人数で調印式を迅速に実行しようとした。
でもクーデター派も今日この場を割り出した。
そんな攻防があった感じかな。
「ならば諦めろ、もう一度言うがワタシはこんなやり方には屈しない!」
「全く、どうしてこんなことを言うようになったのやら」
そこで先生の方に振り向く。
「ロートルはロートルらしく大人しくしていればいいものを、余計なことを吹き込んでくれたものだ」
「フン、大統領に黙って好き勝手やっていた連中に言われたくないわい」
「それが遺言でいいんですね」
リーダー格の男が自分の銃を抜く。
ここだ、この場の全員があの2人に注目してる。
「大統領にはこれからも侵攻を続ける罪を被ってもらうために生かしておかないといけませんが、他の者は別に構わないので」
タユカに視線を送る。
「さようなら、もし来世なんてモノがあるならそこではもう少し利口に生きブハァ!?」
うわすっごい。
タユカが一番近くにいたクーデター兵を殴り飛ばした結果、吹っ飛んだソイツがリーダー格の男に激突したよ。
「い、一体なにゴフゥ!?」
また1人吹っ飛んだ兵士が激突した、いやあ凄い凄い。
そこでようやく我に返った残りのクーデター兵もタユカに銃口を向ける。
さて、足手まといになるわけにもいかないな。
「こっちへ!」
皆の意識がタユカへ向かっている間にエルトレオ王の手を引き移動する。
今この場で一番安全な所へ。
その間にもタユカがクーデター兵を蹴散らしていく。
「な、なんで全部避けられるんだ!?」
困惑した声が聴こえてくるが、少なくとも小銃タイプの弾速じゃあタユカに当たるわけがない。
身をひそめてしばらく後、人の声も銃声も途絶え静かになった。
「終わりましたよ先輩、どこに隠れたんですか?」
「ここだよ」
ひょっこりと顔を出す。
「な、なんで大統領の背後に!?」
「アイツらが殺さないって言ってたからここが一番安全かなって」
「相変わらず滅茶苦茶な思考回路してますね先輩って、それはそれで処されそうなんですけど」
「なに、国賓の身を守れたのならワタシは構わんさ」
懐の広い人だった、セーフ!
「くくく、この場にいる者だけを倒しても無駄だ。 既に計画は動き出している、『救世主』さえ起動してしまえば我々の勝ちだ」
先生が拘束したヤツが何か言い出した、負け惜しみじゃないよね多分。
「他の戦力もここへ集結しつつある、貴様らは逃げられんぞ!」
「うるさい」
「ゲフゥ!?」
カンにさわったのかイラついたタユカが男を黙らせる。
もうちょっと情報を引き出してからの方が良かった気もするけど。
クーデター軍がここに集まってくるのか。
「わたしとタユカは打って出るのでお二人をお願いします」
「あいわかった、地下へ避難しておるからな」
エルトレオ王と大統領を先生に任せ、わたしとタユカは建物の外へ。
だけど……。
「倒れてる警備兵以外誰もいない……?」
ここに来たクーデター軍はタユカにボコられたアイツらで全員?
いくらなんでも少な過ぎやしないだろうか。
「賛同者があまり集まらなかったとか?」
まさか本当に『救世主』とやら一点頼りなんてことないよね。
それだけヤバい兵器なのか。
いや、今それはいい。
大事なのはここの防衛だ。
「じゃあいくよ」
「はい」
「「リーリオ!」」
リーリオを転送、さあ戦闘開始だ。




