停戦調印式
ついに二つの世界を跨いだ停戦調印式の日がやってきた、んだけど。
「どうしてわたしが参加することに……、タユカはいいとして」
タユカはボディガードとして最高の人材だろう、何かあっても簡単に蹴散らしてくれる。
「向こうからの指名だよ、理由は知らないがね」
「それなら王様が直接出向くのも危険ですよ、他に誰かいなかったんですか?」
「各国の首脳が全員参列しても迷惑になるだけだからね、リーリオ機関を提供するドリューナルが代表になるのはそこまでおかしい話でもあるまい」
「でも……」
タユカなおも食い下がりたいようだが言葉が見つからないみたいだ。
ようやく通常業務に戻れたエルトレオ王をまた罠かもしれない場所に引っ張り出すのは感情だと納得しづらいのはわかる。
「何かあった時のためにタユカ、君がいるのだしコルネリアやリンナも待機しているのだろう?」
「それは、そうですけど……」
そう、何かあった時のためにコルネリア様とリンナちゃんにはそれぞれのリーリオで待機してもらっている。
転送機能が世界を跨いでいても使えるのはコルネリア様が『声』に確認済みだ。
「何かあったらわたし達がリーリオを転送したらいいだけだし、それを合図として皆も援軍として駆けつける手筈になってるから」
「そういうことだ、心配し過ぎも良くはないぞ」
「はい……」
なんとかタユカをなだめることに成功したのと同時に護送車が止まる。
「ではもしもの時は頼むぞタユカよ」
「はい!」
そうして、護送車を降りたわたし達3人は調印式の会場に足を踏み入れた。
「ようこそおいでくださいました、ワタシが大統領のアルフレッグ・ダストエです」
「ドリューナル現国王、エルトレオ・ドリューナルです、この記念すべき場に立ち合えて光栄です」
「テレビで見たのと同じ人だ、本物だぁ」
「こらタユカ」
少し前までドンパチやってたとはいえ、国家元首を相手にいくらなんでも失礼だよ。
「構いませんよ、滞在中に知ったのであればそういった言葉も出でくるでしょう」
あれ、大統領はタユカのことを知らない?
タユカの秘密は国家機密だけど、トップである大統領が知らないのは逆におかしい。
何か嫌な感じがするな。
「来たな、ラストよ」
「って、先生!?」
さっきまで考えていたことが席に座ってる先生の存在で吹っ飛んでしまった。
まあわたしが1人で考えたってどうしようもないことだから別にいいか。
「もしかしてわたしを指名したのって……」
「当たり前じゃろ、お前はこの停戦の立役者なんじゃからな。 こうして呼ばなければ出席しなかっただろうから指名したまでよ」
それならコルネリア様を招待するべきだったのでは。
こんな歴史が動くかもしれない場にわたしがいるのおかしいでしょ。
「君がラストか、この戦争を早期終結されるためにあえて逆賊の汚名を被ったという」
美談になってるー!?
それわたしじゃなくてアリユさんじゃん、どうなってるの。
この大統領何も知らないじゃん、大丈夫?
先生に視線を向けると、ニヤリと笑う。
ええ、もしかして先生の仕業だったりしちゃうのか……。
タユカのことは知らない、わたしに対する認識も事実とズレてる。
色々不安になってくるな、下に騙されっぱなしなんじゃないかこの人。
でも今回みたいに最終的な決定権があるだけマシ、なんだろうなぁ。
今となっては他所の国の話なんだからできるだけ関わりたくないし、訂正しないでおこう。
「それでは皆様お掛けください」
といっても席に着くのはエルトレオ王とわたしだけだ。
護衛のタユカが座ってたら初動が遅れるし。
「こちらをご確認ください」
前フリとか他の話なんて一切無しに調印書類らしきモノが用意された。
挨拶も最低限だったしいきなり本題に入るのも違和感がある。
ついでにこの場にいる人数だってあまりに少ない。
何かが、おかしい……。
「待ってください」
タユカが書類を読もうとするエルトレオ王を止める。
「外が騒がしいです、これは銃声?」
「銃声だって!?」
その言葉は誰が発したモノだったか。
もしくは複数人か。
ドアが派手な音を立てて開く。
視界に入るのは武装した集団とドアの前で倒れている警備兵の姿。
「この場は我々が占拠した、停戦などさせはしない!」
突入してきた連中の第一声はそれだった。
あーもう、なってほしくないと思ってたのに結局こうなるのか!




