他称神
話の続きは場所を変えようとエルトレオ王に促されたどり着いたのはやたらと豪華な部屋だった。
歓迎するという言葉はもうそのままの意味なのかすっごい良い香りがするお茶とかお菓子だと思われるものまで出てきた。
朝起きたら知らないところにいて、見たことないタイプの機動兵器に乗せられたと思ったらとんでもない歓待を受けている。
わけがわからなかった。
つい美少女との結婚に釣られてここまで言いなりになってしまったがこれでよかったのだろうか?
「さて、そろそろ君も何も知らないでいるのは限界だろうから色々説明することにしよう」
「なぜラストが遠い地であるここにいるのか、リーリオに乗ってもらうのかもちゃんとね」
まず、あのリーリオはこれまで誰にも起動させることすらできなかったという。
「わたくしを除いて、ではあるけれども」
「これまで多くの者に動かせないかを試してもらったが全て空振りだった」
「そして王族が直接戦いに出るわけにはいかないということでわたくしが乗るという案は棄却されたわ」
「原因はリーリオに搭載されている主動力のリーリオ機関だ」
「どういうわけかわたくしが乗った時以外は一切反応しないのよ」
どうしてローテーショントークしてるんだろう、この二人。
これは君の国で馴染みがあるかはわからないが、とエルトレオ王は前置きして。
「実は、コルネリアには神の声が聴こえる」
危ない、お茶飲んでなくてよかった。飲んでたら確実に噴き出していた。
「その反応を見る限り君の地元でも馴染みがないようだね」
「でも事実なのよ、実際には他の人には聴こえない声を勝手に神なんて呼んでいるだけなのだけれど」
「この国では時々現れるのだ、全員ではないだろうがこれまでにもそういう人物がいたという記録も残っている」
「これまでこの声が聴こえたことがあるのは全員女性らしいわ、王族としてはわたくしが初めてのようだけれど」
まだローテーショントークするんだこの二人。
「だが声の主が本当に神であるならば、この戦争に勝つための助力を得られるかもしれない。 我々はそう考えた」
「実際助力自体は簡単に得られたわ、リーリオ機関の作り方を教えて貰えた」
「リーリオ機関を搭載したリーリオの性能は格段に上昇したはずだった、だが……」
「話は戻るけどわたくしが乗った時以外動かなくなってしまったというわけ」
ローテーショントークはこの国の大事な文化なんだな、多分。
「それでコルネリアが声の主に苦情を入れたらしくてな」
「当然でしょう、けどそうしたらパイロットはこっちで用意するからわたくしにソイツと結婚しろとか言い出したのよ」
「そうして現れたのが君だった」
どうしよう、あまりにもぶっ飛んでる話なのに二人とも大真面目だ。
嘘は言っていないのだろう、表情がマジ過ぎる。
だが全部本当なのだとしたらわたしはコルネリア様だけに聴こえる声の主、暫定神とやらの不思議パワーでここにやってきたことになる。
そして実質競技形式の戦いで覇を争いあまつさえそれを戦争と呼ぶ文化圏なんて聞いたこともない。
わたしの祖国だって隣国とドンパチやっていて向こうの国の情報なんてまるで入ってこないけれど何か関わりあるとは思えない。
他称神なんていうのもが存在しているのなら異世界なんていう可能性もあるかもしれないのか……。
リーリオの中で聴こえた声は、わたしの名を知っていた。
コルネリア様の言う声の主と関係あるのは間違いない。
「さて、引き受けてもらえるだろうか?」
思考の沼から引き戻したのはエルトレオ王のそんな言葉だった。
拒否権あったんだ、と口に出しそうになるのを抑えつつ。
「コルネリア様と結婚できるなら、喜んで!」
もしかしたら断れば元の世界に帰れたかもしれない、とか。
何か裏があるんじゃないか、とか。
そういった考えを吹き飛ばすくらい魅力的な提案に、わたしは抗えなかった。