束の間の休息
「そういえばディヴァースタイレンタってなんで4戦目無傷だったの?」
「当たったのがネヴンケブラだったンだよ、お互い2勝1敗でな」
「そして、両者ノーダメージのまま時間切れになってしまったんです」
「だから2人揃って出撃できたんだ」
会議の時に親しそうだったのもそれが理由か。
「やっほー、ミンナお揃いじゃん☆」
「あなた達何してるの?」
「アリユさんとセルアじゃん、クレオ&ユキヒコと雑談をちょっとね」
「ラストが、男と?」
「これから背中を預けて戦うことになるわけだから、そんなつまんないことは言ってられないかな」
そんなことでコミュニケーションを怠って戦死するようじゃ本末転倒だ。
そもそもわたしは恋愛対象が女性なだけで男性が嫌いなわけじゃない。
ただし下心の無いヤツに限る。
「こんな即席の連合軍でちゃんとした連携なんて難しいからね、人数の少ないパイロット組くらいはマシにしたいじゃん。 最前線なんだし」
「じゃあ私達も加わっていいかしら」
「よろしくー☆」
「『達』ってアルセちゃんは?」
「そんなに周りを見渡したってまだ来てないわよ、ボネージュユニットの修理と調整が終わってから合流することになってるわ」
それは残念、アルセちゃん早く来ないかなぁ。
「話を戻すがな、決着はまだついてないんだ。 だからそれまでは勝手に死ぬんじゃネェぞクレオ!」
「はいはい、その話何回目ですか……」
「何回もしてるんだねー☆」
「クレオといえば眼鏡してるけど、そんな視力でパイロットってできるの?」
危険な気がするけど、こっちではOKなんだろうか。
「これ伊達です、ネヴンケブラに搭乗する時は外してますよ」
「伊達だったのね、心配して損したわ」
パイロットにとって視力って命だからね。
「それで、ラストって向こうにいた時もこんな感じで男女問わずコミュニケーションとってたのかしら?」
「そうだよ、やるべきこと怠って負けましたなんて戦場じゃ当然だけど模擬戦でだって笑えないからね」
「そうやって男を勘違いさせてきたのね、ただでさえ見た目が良いんだから……」
「こんなことで勘違いされても困るなぁ」
可愛い娘から同じことされたらわたしも勘違いしちゃうだろうけど!
「そういえばセルアちゃん、この前はありがとうね☆」
「お礼を言われるようなことをした覚えはないわよ」
「ううん、いくらでもチャンスはあったのにアタシを背中から撃たなかったデショ。 だから、信じてくれてアリガト☆」
「そういうことなら受け取っておくわ」
「だから言ったろうが、この女は騙したり嘘つくようなタマじゃネェって」
良い感じだ、この5人なら悪くないチームになれそう。
「では僕からもラストさんに質問してもいいですか?」
「いいよ、男にスリーサイズは教えないけど」
「向こうに親しい方はいますか? 人質になりそうな人とか」
スルーされた上に真面目な質問来ちゃったな。
人質か、その線は考えてなかった。
でも。
「わたし孤児だし親の名前や顔も知らないし、世話になってた孤児院も潰れて散り散りになっちゃったから。 例え今更連れてこられても人質として成立はしないかな」
「ご両親もですか?」
「今親を名乗る人が現れたってほぼ確実に偽物でしょ」
そんな都合よく本物が現れるとは思えないしどうせ本物だと証明することもできない。
それに、今更本物に会いたいとも思わない。
「向こうに居た時の彼女はどうなのよ?」
「いないよ、いないからモテたかったんじゃん」
アイツは彼女じゃないし。
そもそもアイツが人質にするなんてことできるわけがない。
そんなこんなで代表パイロットが集った雑談はもう少し続いた後解散した。
「お休みなさいませ、姫様、ラスト様」
今日の仕事を終えてリンナちゃんが部屋から出ていく。
拠点をこの前線基地に移してからはコルネリア様と同じ部屋だ。
同じ部屋だ!
この前線基地には世界各国から沢山の人が集うからドリューナルだけでアレもコレも贅沢に使うことはできない。
ついでに言えば攻略時に施設破壊してるから修復工事が始まったとはいえ使える部分が限られてるっていうのもある。
まあ事情なんてどうでもいい、一緒に寝れるなんて夢みたいだ!
「ごめんなさい、一緒に寝るのに何もできないなんて辛いでしょう?」
「はい?」
どういうこと?
「ラストはわたくしを求めたいはずなに我慢させている気がしてしまって……」
「それは正式に結婚するまではナシって言ってたじゃないですか」
「それだって、返事も待たせてしまっているのに……」
「わたしの髪はまだ伸びきっていません、返事がまだ先なことくらいわかってます」
「それだって、わざわざ待たなくても前倒ししてしまったっていいはずなのよ……」
そんなことを気にしてくれてるんだ。
やっぱり、コルネリア様のことを好きになって良かった。
「焦って無理矢理気持ちを形にしなくたっていいんですよ、わたしは待ってますから」
「でもっ」
「それに、わたしは『抱いて、ください……』って言われるようなシチュエーションが好きなんです。 だから無理をしなくたっていいんですよ」
嘘は言ってない、そういうシチュエーションは本当に好きだ。
それになにより、コルネリア様のわたしに対する姿勢そのものが嬉しい。
「今のラストに対する感情にどういった名前をつけたらいいのか、本当にわからないの……」
「いいんです、それがハッキリ言い切れるまでわたしはコルネリア様のことが好きだって伝え続けますから」
その日が来るまでは何があっても死ねないな。
わたしはいつかどこかの戦場で死ぬ、そう人生を諦めてた頃が嘘みたいだ。
本当の恋は凄いチカラを与えてくれる。
だからそんな人と一緒にいたい。
「だから焦らないでください、逆に焦って出した答えなんて嫌です」
「うん、ありがとう……」
ただ、近い内に2人の関係を揺るがす特大の爆弾が投下されることになるのだが。
当然この時のわたしには予測できるハズもなかったのである。




