兄と妹
*コルネリア視点
「お兄様、ここにいたのですね」
ラストとの逢瀬を終えた後、お兄様を探して城中を歩き回ってしまった。
すれ違った者達に訊いてもだれも知らないと言うし肝心のウヌはもう仕事から上がったらしくもういなかった。
そしてあり得ないだろうと後回しにしていた格納庫でようやく見つけられた。
まさかこんなところにいるとは……。
「探させてしまったかな?」
「ええ、それはもう」
戦争前日はメカニック班も基本的には全員お休みだ、お兄様はたった一人でここにいたことになる。
そんなの、わたくしだって後回しにして当たり前だ。
「要件はなにかな、従者も付けずに一人で余を探していたということはなにか大事な話があるのだろう?」
流石は23年の付き合いだ、話が早い。
こっちも単刀直入にいこう。
「お兄様、いえ国王陛下。 片翼輝光の使用許可をください」
頭を下げる、こればかりは兄ではなく国王を相手として話しをしなければならない。
「その返事をする前に問おう、乗れる者が見つかったのか?」
「いいえ」
「では誰が乗るのだ?」
「わたくしです」
これに関してはもう直球勝負するしかない、嘘や誤魔化しなんてしたって明日即事実が晒されるのだから。
「そうか……」
お兄様はそう小さくつぶやき。
「ラストに10年前のことを話したよ」
「……そうですか」
本音をいえば知られたくなかったけれどこの国にいる以上はいつかは知ることになる、お兄様の口からという形だったのは以外だが。
「あの時以降余はお前を戦いの場から遠ざけたかった、だが今自身の意思で向かおうとしている。 血は争えないな」
「そう、だったのですか……」
思い返せばあの事故以来操縦どころか身体を動かす訓練すらさせてもらえなかった気がする、お兄様は続けていたというのに。
「そうか、コルネリアは乗り越えたのだな」
「少なくとも、逃げるのは辞めました」
「コルネリアもヅガルも10年前のことから逃げずにここにいる、ならば余も負けてはいられないな」
「ヅガルも?」
どういうことだろう、お兄様の言っていることには何か違和感がある。
「片翼輝光の使用を許可する、お前が乗ることもな」
「ありがとうございます」
これでラストの助けになれる、一緒に戦える!
「それともう一つ問いたい、返答次第で許可を取り消すということはないから安心してほしい」
「はい」
「ラストのことをどう想っているのかな?」
「それは……」
どうなんだろう?
このまま結婚することになったって決して文句は言わないだろう、ラストが勝って機嫌の良い時は「ハニー」とも呼んだし唇以外にはキスだってした。
けれども……。
今のわたくしの好きはラストと同じものだろうか?
結論を出すのはラストの髪がもっと伸びてから、もしかしたらまだ時間があると甘えて考えることを中途半端なところで止めていたのかもしれない。
「今は、はっきりとは言えません……」
本当に、自分の気持ちがわからない。
「それでも命がけでラストの助けになり、共に戦いたいのだな?」
「はい、それは間違いありません」
「ならば、自覚がないだけかもな」
「?」
「構わないさ、きっといつかわかる時が来るだろう」
わたくし自身もわからないことが、お兄様にはわかるのだろうか。
「それから闘いはもう明日だ、時間がないから本番一発勝負になる。 成功率がどれくらいかもわからない」
「機械が算出した成功率なんて単なる目安です、そんなものわたくしとラストで100%にしてしまえばいい」
「そうだな、その意気だ」
まって、身長差あるからって頭撫でないで。
そういうのは両想いの相手以外にしてはけいないというのに、まあお兄様の立場なら逆にコロっといってしまうかもしれないけれど。
「ラストと仲良くな」
「は、はい」
「余にはまだ正妻もいないからもしかしたらコルネリアとラストの子が世継ぎになるかもしれないな」
どうやって?
いやラストの世界では同性間でも子供ができるという話を前にリンナがしていたような、そう考えるとあり得ないこともないかもしれない。
「あえて言っておくぞ、死ぬなよ」
「勿論です、わたくしとラストなら成功率は100%なのですから」
この時のわたくしは気が付いていなかった、なぜ世継ぎの話を急にしたのか。
そしてそもそもなぜ格納庫にいたのかを。
それを後に、激しく後悔することになる。




