救国の英雄 前編
長くなるので前後編分割、前編になります
格納庫に到着する。
まだメカニックチームからの呼び出しはかかっていない、けれども気になって仕方ないことがある。
「どうしたラスト、お前さんの出番はまだ先だぞ」
「おっちゃんに訊きたいことがあってさ、今時間ある?」
急ぎじゃないから別に今日である必要はない、忙しかったらまた出直そう。
「ワシに話? すぐ終わるんだったら構わんぞ」
いいんだ、すぐ終わるかはわからないけど。
「レーゴのことなんだけど」
「レーゴだと、お前さんが催事用の陛下専用機について話ってどういうこった」
「あの機体は、催事用じゃなくて元々戦闘用だよね」
レーゴを最初に見た時からずっと感じていた違和感、それがなんなのかようやくわかった。
あの機体は元々戦闘用だったモノを改装して今の姿になっている、だから催事用と言われて違和感があったのだと。
そしておっちゃんが「その話したくない」って表情で固まってる、反応は予想外だけどこれは当たっていたと見ていいのかな。
「その話はここでするもんじゃねえ、少し出ようぜ」
そう促され格納庫を出た。
格納庫の隣にあるメカニックスタッフ用の休憩室へ移動する。
「誰もいねえな」
おっちゃんの言葉通り休憩室はわたし達以外誰もいない、多分その方が好都合なんだろう。
「で、レーゴのことだが……この国では誰もが知ってて当たり前のことをお前さんだけいつまでも知らないのはそれはそれでイカンだろうからな」
とは言いつつもすっごく言いたくなさそうだ。
「レーゴはお前さんの考え通り元は戦闘用で前回、つまり10年前の戦争でドリューナルが使った機体だ」
「それで役目を終えたから今は催事用に使ってるってこと?」
「そんな簡単なことだったらわざわざ人のいないところに移動なんてしねぇよ」
それもそうだ、この国の人間であれば皆知っているというのなら格納庫でも問題はない。
「つまり、誰もが知ってるけど話題にはしたくないようなことなの?」
「そうだ、ついでにワシ個人としてもあの時のことはできれば思い出したくない……」
あの気さくなおっちゃんがそこまで言っちゃうレベルのことなのか……。
「わかった、じゃあここから先は他の人に訊いてみる」
「すまねぇな、でも姫様に尋ねるのだけはやめてくれよ。 あの方は当時13歳だったんだ……」
当初の予想を遥かに超えて重い話な予感がしてきたぞ。
コルネリア様がアウトだというなら向かう相手は……。
というわけでやってまいりました!
「ようこそ、座りたまえ」
こうなったらもうトップに訊けばいいんんじゃないだろうかってことで国王陛下ことエルトレオ王にダイレクトアタックすることにした。
リンナちゃんにお願いして一週間、長いような気がしたけど国家元首に謁見すると考えたらむしろ短かったかもしれない。
「救国の英雄である君を一週間も待たせるのは心苦しかったのだが、遅くなって申し訳ない」
また救国の英雄か、それはそれとしてこんなに腰の低い王様でこの国大丈夫なんだろうか。
「要件はおおよそ察しがついている、余に苦情を言いに来たのだろう?」
「苦情?」
「城内でコルネリアより余との結婚が望まれている声が次第に大きくなっているだろう、それに対する苦情かと思ったのだが違ったかな?」
「違いますけど確かにその件でも文句を言いたくはありますね」
王様に何か言ってカタがつく話でもなさそうだけど。
「余には正妻がまだいない、当然世継ぎもまだいない。 君には申し訳ないがそんな声が上がるのはどうしようもないのだ」
この超美形お兄さんにお相手が一人もいないというのも不思議な話だ。
「君が断ることを承知の上で尋ねるがこの話に乗る気はあるだろうか?」
「ありません」
「考えるそぶりすら見せなかったな」
「考える必要がありませんから」
男っていう時点でノーサンキュー。
「王妃という立場に興味はないのかな?」
「例えどれだけ綺麗な顔立ちをしていようと、どれだけわたしに心を砕いてくれる人であっても、どれだけお金や権力を持っていようと、男とは恋愛しないし結婚もする気はない。 それがわたしなんです」
「だから」と続ける。
「王妃に迎えるのは、ちゃんと男性を愛せる人にしてください」
「よくわかったよ、ありがとう」
わたしとしてはとても丁寧に説明したつもりだけどそれは相手が偉い人兼お義兄さんだっていうのが理由だからな、雑に扱っていい相手ならここまで言葉を選んだりしない。
「コルネリアの相手が君で良かった」
なんだそれ、もしかして試された?
あとそれ言うの早い気がしますけど、まだわたしの片想いなので。
「話が大きく逸れてしまったかな、本題を聴こう」
そうそう忘れるところだった、危ない危ない。
「レーゴのことなんですけど」
「レーゴがどうしたのかな」
「あれって元々は戦闘用ですよねって話をしたらヅガルさん絶句しちゃって……」
流石にこの場でおっちゃんと呼ぶわけにもいかないから敬称をつける。
「そうか、ヅガルにとってはまだ……」
エルトレオ王の表情も暗い、そんなにも重い話なのか。
「コルネリアと結婚し、将来王家の一員となる君が知らないというのもおかしな話だからな」
一息置いて。
「教えよう、10年前の戦争で何があったのかを……」




