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ラストという人

 平和な日々。

 やはりというか闘いの後、機体の修理が完了するまでパイロットとしての出番は無い。

 メカニックチーフのおっちゃんは気さくで良い人だからそうでもないんだけど他のメカニックスタッフの中にはパイロットが整備に口出しするのを嫌う人もいる。

 機体はパイロット一人の所有物ではないということなんだろう。

 わたしは元の世界でもメカニックスタッフ候補生の機嫌を損ねて試験や模擬戦で機体をわざと整備不良にさせられて点を落とした訓練生を何人も見てきた。

 アレをここでもやられたらとんでもないことになる、だからお呼びがない時は基本丸投げにしている。


 お姫様であるコルネリア様には簡単には会えないしパイロットとしての仕事もしばらく休みだし城下町へのナンパはリンナちゃんにブロックされる。

 そんなこんなで前の戦いが終わってからここ数日、実になんにもない日々を過ごしている。

 そんな中、リンナちゃんが神妙な表情で問いかけてきた。


「ラスト様にお伺いしたいことがあるのですが……」


 リンナちゃんがわたしのことを知りたいだって!?

これはチャンスか!

「いいよいいよなんでも訊いて、リンナちゃんにならスリーサイズだって教えてあげちゃう!」

「い、いえ。 それはもう存じ上げていますので……」


 そうだった、こっち来たときわたしの採寸したのリンナちゃんじゃん!

赤面してうつむくリンナちゃんはとても可愛いけど、渾身の口説き文句は見事に空ぶった。

ちくしょう、じゃない気を取り直そう。

「ええと、じゃあリンナちゃんが知りたいことって?」

「ラスト様はどうしてあんなにも堂々と女性が好きだと言えるのですか?」


 どういうこと?


「もしかしてわたしが実は男なんじゃないかって疑ってる?」

「そ、そうではなくて。 その、裸も見ていますし……」


採寸した時に見たもんね、じゃあなんだろう。

ああ、そうか。


「この国では激レアなんだっけ、わたしの故郷だと珍しくもなんともないからいつも通りにしてただけなんだけど」


 リンナちゃんが凄く驚いてる。 まさに異世界、まさに異文化。


「ウチだと結婚は勿論子供だってできるからね、そのせいでこっちだとわたしは異物みたいになっちゃってるけど」


 ユキヒコなんかはわたしの言ってることをまるで理解できてないような反応だったしお互い認識の齟齬が大きい感じはする。


「そんな中でわたしとコルネリア様の結婚が認められるのはちょっと不思議ではあるんだけど」

「ラスト様がこのまま勝ち続ければ前例が無いなんて些細なことですよ、それくらい代表パイロットには大きな権限があるんです」


 似たようなことはコルネリア様にも言われたっけ、救国の英雄なんて呼び方といいなんか大仰過ぎないだろうか……。


「もうひとつよろしいですか?」

「勿論!」


 どんどん訊いてほしい。


「先ほど実は男なんじゃないかってお話がありましたけど、私も裸を見てなかったら疑っていたかもしれません」


 お、おう?


「どうしてラスト様はそんなにも表裏のない方なのでしょうか?」


 そうきたか、やっぱり女性は基本表裏が激しいイメージを持たれやすいのだろうか。

 それとも王宮勤めってことでわたしが知らないところで色々ドロドロしてるんだろうか。

 とりあえずそんな憶測は横に置いといてどこから話そうか。


「うーんと、わたしが孤児院育ちだっていうのは前に話したよね」

「はい、伺ってます」

「孤児院なんてどこも裕福じゃないし特にわたしの居たところはもう潰れちゃってるくらいだからその中でも余計に貧乏だった」


 あの頃と比べたら今の生活は至れり尽くせりでヤバい。


「だからワガママなんて言えない、アレもコレも我慢しなきゃいけない環境だった」

「それは、そうですね……」


 孤児院っていう言葉が通じるのだから同じ機能を持った施設はこっちにもあるだろう、ならリンナちゃんにも想像できるハズだ。


「そんな中でわたしは軍に才能を見込まれてパイロット候補生になった、パイロットなんてエリートだから戦場で死ぬまでは裕福な暮らしができるんじゃないかってね」


 もうひとつ、あの人みたいに活躍したら女の子にモテるんじゃないかって考えもあったけどこれ言うとリンナちゃん怒りそうだから黙っておこう。


「でも訓練時代は男も女もない扱いだったからそこで色々擦り減らしちゃってね、いつの間にか言葉遣いまでこんなことになっちゃった」


 あの頃があったから今勝ててるのは間違いないんだけどそれはそれとして辛い時期だった。


「多分だけど、そんな感じだったからもう「女の子が好き」っていうことしか残っていないんじゃないかなって」

「残って、ない?」

「自己分析だけどね、これまでに色々あって最後に残ったのがこれだけだから。 表裏がないんじゃなくて表からでも裏からでも同じモノしか見えないんじゃないかな」


 そして、わたしに残された絶対に譲れないものでもある。


「だからわたしはコルネリア様と結婚するために全力を尽くす、それと可愛い女の子とキャッキャウフフしたい」


 リンナちゃんがその辺厳しいからそこまで許してくれるかわからないけど。


「後半は聞き捨てなりませんが、ラスト様のことがよりわかった気がします」

「我ながら単純な女だからこれ以上は何もないよー、多分」


 裸見られてなかったら実は男なんじゃないか疑惑持たれてたのはビックリだけどこれで晴れたでしょ。

 リンナちゃんと話していて、気が付いたら窓の外はもう暗くなりはじめていた。


「あー、もうこんな時間か」

「そろそろ夕飯の時間ですね、取りに行ってまります」

「リンナちゃんもたまには一緒に食べようよ」

「いいえ、私は立場上ご一緒することはできません……」


 また断られた、今日みたいな会話した後ならイケると思ったのに。

 いつか一緒にご飯を食べられるようになったらいいなぁと思いながら、部屋を出ていくリンナちゃんを見送った。

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