ラスコル過激派会議
*リンナ視点
薄暗い部屋の中でロウソクの明かりだけがゆらゆらと揺れている。
そんな場所に目当ての人物が入室してきた。
「遅れて申し訳ありません、少々仕事が多かったもので」
「そ、そんな。 ウヌ様が謝罪することなんて……」
「いいえ、今ここにいるのは陛下の補佐官ではなくあなたの同志です。 お互いの立場は忘れてもいいんですよリンナ殿」
「は、はい……」
ウヌ様はそう言ってくださるもののやはり立場が違い過ぎて気後れしてしまう。
できるだけ気にしない、できるだけ気にしない。
「では早速報告を始めます」
こくり、とうなずく。
「ラスト殿が開幕二連勝を飾ったことで姫君との結婚に対する反対意見は大幅に減りました、しかし結婚するなら陛下の方がいいのではという声が出ておりこっちを沈黙させるのはまだ難しい状況です」
「やはり、決勝トーナメントまで進まなければいけないと?」
「勿論こちらでも手を打ちますが、陛下と結婚させたい派閥を黙らせるにはそれが一番いい材料ですね」
陛下にはまだ正妻がいない、そのことを考えればラスト様を妃にという声はどうしても出てきてしまう。
しかし、姫様の幸せを願う私はそれを許容できない。
私の主君は陛下ではなく姫様だ、なら私は私のエゴで陛下よりも姫様のことを優先する。
「姫君にだけ聴こえる神の声、その契約を破ればこの国にどんな災厄が起こるかわからないとは申し上げているのですが」
「具体的に何が起こるかわからない、ということですか?」
「これまでこの国で確認された声の聴こえる者達は皆内容を世間話レベルだと語っていた、そう記録に残っていますので」
「ここまで明確に干渉してきのは今回が初めてということなんですね」
過去に前例が無いから何が起こるかわからないのでは他人を納得させるのは難しい。
私達にもわからない以上方便としてしか使えない。
「それとラスト様の性格を考えれば男性と結婚などという話になれば闘いを放棄して国を去る可能性も考えられます……」
「それはいけない、やはりこちらでも何か対策を講じなければ!」
当然いちメイドごときが政治について何かできるわけでもないのでこの件に関してはウヌ様に任せるしかない。
私のすべき事はラスト様が勝つ手伝いをすることだ。
「それでは、次はリンナ殿から報告を」
「はい、最近のお二人の関係は極めて良好と言えます」
記録装置を取り出す。
「お二人のお茶会の映像です」
「おお!」
とても明確にウヌ様の声色が変わった、さっきまでとは別人のようだ。
「お二人は逢瀬の際私も含めて完全に人払いをされるので、遠くからになってしまい音声もありませんが……」
ラスト様はこちらに来る前から戦闘訓練を受けていたということで気配に敏感だ、だから気づかれないように様子を伺おうとすると記録媒体でも音声が拾えない距離になってしまう。
「姫君が、あんなに笑顔を……」
「はい、ラスト様の前では自然な笑顔を見せることが増えてきました」
ラスト様には詳しく話していないがかつての姫様は他国の婚約者候補からその幼い容姿を嘲笑され続け私の前でも全然笑わないお方になってしまった。
そんな姫様に笑顔を取り戻させたラスト様はもうそれだけで銅像を建ててしまってもいいくらいだ、勿論私が申請したって絶対予算が下りないのは承知しているけれど。
それから私も含めて他の女の子にコナをかけるのは個人的には好ましくないので治してほしい。
「こ、これは!?」
ウヌ様が目を見開く、それは先日ラスト様が勝利した際に姫様がキスをした場面の映像だった。
「素晴らしい仕事ですリンナ殿、やはりラスト殿が結ばれるべきは姫様でなければ!」
ウヌ様のテンションがおかしい、こんな姿を見たのは初めてではないけれど普段を考えればそうそう慣れるものでもない。
「失礼、少々取り乱してしまいました。 しかしこれでまた明日から国のために励めそうです」
「気に入っていただけたようで良かったです」
「次も楽しみにしていますよ、同志」
「それでは政治方面はお任せします、同志」
「フフフフフフフフフ……」
「フフフフフフフフフ……」




