決戦前日
ついに二戦目を翌日に迎えた、んだけど。
「今日は休みか……」
初戦の前日はしなければならなかったことが多かったせいかそれはもうてんやわんやだったわけだけど。
今回はある程度余裕があったのかメカニックチームも全員休みで今日リーリオを動かすのは不可能だ。
この戦争、一戦毎の間隔が結構長い。 勝とうが負けようが次の戦いも万全の状態で挑めるようにするためだと思うけど。
「暇だ……」
戦時中におけるパイロットの発言とは思えない言葉がつい口から出てしまうが本当のことなので仕方ない。
今日こそは城下町へナンパに行くかとも考えたがしっかりリンナちゃんが目を光らせている。
兵士は休める時に休むのが仕事でもあるからもう一日ゴロゴロして過ごしてしまおうか。
「ラスト様、お暇でしたら姫様に会いに行かれてはどうですか?」
「そんなに簡単に会いに行けるものなの?」
リンナちゃんの申し出はありがたいしわたしも会えるものなら会いたいけど相手は一国のお姫様、ノーアポでいきなり会えるものなのだろうか。
「それに関しましては大丈夫です、もう姫様には本日ラスト様がお会いに行くということを私がお伝えしていますので」
「まって」
知らないところで話が進んでいるを通り越して決まっている、なんで!?
「さあ、お召し替えしましょうラスト様。 そして綺麗になった姿を姫様に見てもらいましょう」
「ラスコル過激派に目覚めてからリンナちゃんキャラ変わり過ぎ、以前のオドオドしてたリンナちゃんに戻って!」
そんな主張は無視され、わたしはどこのお嬢様かといわんばかりの姿に整えられてしまうのであった。
「それでそんな姿になったと」
コルネリア様の部屋で二人きり、今回もしっかり人払いがされていて給仕の人は勿論リンナちゃんもいない。
「こういう恰好するの自分では似合っているかどうかもよくわからないんですけど……」
そりゃあ顔の良さには多少の自身はある、しかしパイロット候補生として男も女もない生活をしてきた中で色々なものを捨ててきた。
おかげでこうやって着飾ることが似合うのか似合わないのかも自分ではわからなくなってしまった、ナンパする際にキメるのは別として。
「いいと思うわ、わたくしにとっても結婚する相手が見目麗しいのは嬉しいことですもの」
「コルネリア様がそう仰るなら頑張って着飾ります!」
「速攻で意見を翻したわね、本当にそれでいいの?」
「好きな人が振り向いてくださるならいくらでもお嬢様スタイルになりますよ、戦闘時は勘弁してほしいですけど」
似合う似合わないに関係なく、好きな人が喜んでくれるならそれくらいしますとも。
「リンナからも聴いてるけどラストって女の子に好かれるための努力って結構するわよね」
この前城下町へナンパしに行こうとした時のことだろうか、確かにあの時はビシッと決めたけれども。
「手抜きして女の子のハートを射止められるなんて思ってませんからね」
好かれるための努力だって見えていれば好感度に加算される、わたしはそう思ってる。
「そう、ならわたくしもただ座っているだけの女ではいけないのね……」
「?」
その呟きは小さくて、わたしのところには意味を持った形として届かなかった。
もしくは、最初からわたしには聴いてほしくない独り言の類だったのかもしれない。
「なんでもないの、それより」
と、コルネリア様は話題を変えようとする。 気にはなるけど改めて問えそうにもないので一旦忘れることにする。
「ついに明日、なのよね」
「はい」
わたし達二人にはどうしたって付いて来る話題だ。
「勝てる見込みはどのくらい?」
「最初から負けるつもりで戦いに挑んだりはしませんけど、前回があの体たらくだったので……」
「ちゃんと勝ったじゃない」
「あまりにもギリギリ過ぎたので」
あれで「次も楽勝」と言える程わたしは楽観視できる性格ではない。
本当は嘘でそう言うべきだったのかもしれないけど。
「そう、だったら……」
ヤバい、弱気な発言しちゃったかな。 そう思っていたところに予想外の言葉をぶつけられた。
「明日も必ず勝ちなさい、これは命令です」
「…………」
これはわたしに気を使ったのか、それとも元兵士という立場を利用した照れ隠しなのかはわからない。
どちらにせよ、わたしの返す言葉は変わらない。
「明日の勝利を、必ずコルネリア様に捧げます」
少しお芝居臭かっただろうか、でも相手は正真正銘のお姫様なんだからこれくらいが丁度いいんじゃないかな。
惚れた相手にここまで言わせたんだ、明日は必ず勝つ。
そう誓ったのだった。