リンナちゃんの変貌
日課の基礎トレーニングからの帰還、異世界に来ようが身体がなまらないようにこれは欠かせない。
トレーニングウェアからいつものような部屋着、ではなく外行きの服に着替え普段はそこまでしない化粧もバッチリ決める。
当然のように化粧品もわたしが以前使っていたものとは完全に別物だったためコツを掴むのにちょっと苦労した。
しかし用意されたのは化粧品だろうがこの国の最上級品、違う意味でも別物だった。
「お綺麗ですよラスト様」
最近はリンナちゃんのオドオドした態度もなくなってきて馴染んできたなあと思う反面あれもあれで可愛かったので残念でもあったり。
「姫様に会いに行かれるのですか?」
「いやー今日は絶好のナンパ日和だから城下町へ行こうかなって」
なんて、つい口走ってしまった。
それがリンナちゃんの中にある恐ろしいモノを呼び起こすとも知らずに。
「ナンパ、ですか……」
その瞬間、まごうことなき殺気を感じた。
身体が反応して警戒態勢へ、まさかどこかの国がわたしを始末するために暗殺者でも送り込んできたのか。
リンナちゃんも危ない、そう考えて振り向いた先で見たのは。
今まで一度も見たことがない冷たい表情で銃をこちらに構えるリンナちゃんの姿だった。
スカートが翻っている、脚見えた!
じゃくて、スカートの中に武器隠してるメイドさんなんて本当にいたんだ。
いやそうでもなくて!
「まさか、リンナちゃんが他国から派遣された暗殺者だったなんて……」
完全に騙された。
銃VS素手、相手も構えからして素人じゃない。
勝ち目は無い、もうダメかと思った次の瞬間。
リンナちゃんが盛大にずっこけた。
「ち、ちがいます……!」
とりあえず先に落とした銃を手の届かないところへ蹴とばす、話をするにしてもこんなの向けられた状態でするもんじゃない。
「違うならなんでこんなことを」
「だって、姫様にはラスト様しかいないんですよ。 それなのになんでラスト様は私を含めてそんなに目移りしちゃうんですか……」
そんな言葉を泣きながら告げられる。
そうか、そのことがリンナちゃんの逆鱗に触れてしまったのか。
どっかの国の陰謀とかじゃなくて良かった。
いや良くないわ、リンナちゃんを泣かせるのはアウトだよ!
「ようやく、ようやく姫様を幸せにしてくれる人が見つかったって思っていたのに……」
凄い忠臣だ、雇い主にここまで誠心誠意仕えるなんて。
これもコルネリア様とエルトレオ王の人柄故だろうか。
「ごめんね、これはわたし自身にもどうしようもない性分なんだ」
気が付いたらいつの間にかこんな人間になってしまった。
「コルネリア様は間違いなくド本命だけどもしお互いの同意があればワンナイトラブみたいな関係の相手も欲しいって思っちゃう」
きっと不誠実なんだろう、自覚はある。
「それからね、今回はちゃんとした理由もあるんだ」
ナンパにどんなちゃんとした理由があるんだよと言われそうだけど。
「リーリオ、というかリーリオ機関の起動条件はもう知ってるよね?」
「はい、女性を恋愛対象にしている女性が搭乗したときだけだと伺っています」
「うん、それでリーリオ機関を搭載してる関係上現在使えないセカンドウェポンがあるんだ」
「それとどんな関係が……?」
「だからね、わたしのナンパに引っかかってくれる娘なら起動させる確率が高いんじゃないかって」
おっちゃんがリーリオ機関を搭載してないセカンドウェポンを建造中だと言ってたけどやっぱりそっちも使えた方がいいと思う。
「それ、今思いついたわけじゃないですよね?」
「違う違う、ずっと考えてたから」
嘘じゃない、ただ趣味と実益が同時に満たせる一石二鳥っていうだけで。
「……ラスト様が仰りたいことはわかりました、それでも私は例え遊びでもラスト様が姫様以外の相手を選ぶことを認めることはできません」
まって、リンナちゃんの表情が銃向けてきた時のに戻ってるんだけど。
「もしラスト様が浮気をすると言うのならラスト様を殺して私も死にます!」
普段と様子があまりに違う、怖い怖い怖い。
これは忠臣とかそういうのじゃない。
「まさか、リンナちゃんってラスコル過激派……?」
その言葉を受けたリンナちゃんはうってかわってニコニコになり。
「くれぐれも姫様のことを悲しませないでくださいね」
そんなこんなで結局この日ナンパに行くことはできなかった。
リンナちゃんと心中できるなら本望、と言える程わたしは上級者ではないので。
やっぱり生きて添い遂げてこそだよ、うん。