愛するということ
結論からいうと祝勝会に若い女の子なんて一人もいなかった。
「はぁ~~~~~~~~」
会場にいたのはひたすら男と男と男。
中にはわたしがコルネリア様と結婚するの知ってるくせに色目使ってくるヤツもいたしそれはもうウンザリ。
わたしを口説きたかったらまず娘か妹を連れてこい、そうしたらもう用済みでポイじゃ。
しかし祝勝会に参加してる以上はどこかでこの戦争に関わっている人達なんだろう。
わたしが露骨に嫌そうな態度をとれば支援とかを打ち切られるって言われても困る、少なくとも表向きは嫌われないようにしなければならない。
それに何よりわたしも脈の無い女の子を口説いてる時は同じようにウンザリされてるんだろうなぁというのもある。
自分のことを棚上げにしてはいけない。
そんな時だった。
「し、失礼します」
席を外していたリンナちゃんが戻ってきた。
本音を言えば今すぐリンナちゃんに癒してもらいたいところではあるものの「お手付き厳禁」令が出てるのでそうもいかない。
「ラスト様、姫様がお呼びです」
「行く!」
コルネリア様に会えると思ったら一気に元気出てきた、我ながら単純である。
呼ばれた先で待っていたのは二人きりのお茶会だった。
本当に二人きりで給仕さえいない、リンナちゃんもわたしをここへ案内して早々にどこかへ行ってしまった。
「ラスト相手ならこの方がいいと思って」
それはまあ愛しい相手と二人きりになれる時間はあった方がいいに決まっている。
「リンナからも聴いてるのよ、ラストは大体のことを自分でやってしまうから仕事が少なくて困るって」
「わたしは孤児院出でそのあとも軍施設にいたのでお世話されるっていうのに馴染みがないんですよ」
これでも最初よりはリンナちゃんにお願いすることも増えてきたハズだ、あの娘の「お仕事を取らないでください」という表情をさせるのはこっちとしても申し訳なくなってくるので。
「そんな話をするために呼んだんじゃなかったわ」とコルネリア様は軽く咳払いして。
「改めて初戦勝利おめでとう、そしてありがとう。 リーリオのパイロットがラストで良かった」
その笑顔は見る者万人を恋に堕としてしまいそうなくらいに魅力的だった、わたしはもう堕ちてるので問題ない。
「コルネリア様のその笑顔が見られたのなら最後まで諦めなかった甲斐があったというものです」
とはいえ見事相手の策にハマり逆転できたのもリーリオのパワーあってこそなのであまりカッコよくはなかったけれど。
「それで、その……」とコルネリア様を言葉を濁しつつ。
「言ったわよね、わたくしと結婚するためではなく愛を掴むためだって」
「はい」
それはわたしの誓いだ、そして一方通行の想いでは満足できないわたし自身のワガママとも言える
「あれからずっと考えていたの、愛するとはどういうことかって」
「どういうことって……」
「このままラストが勝ち続ければわたくしに姫としての役目を果たさせてくれたあなたを愛してあげることができると思う、でもそれはきっとラストが望む形ではないのよね」
「はい……」
その通りだ、少なくともわたしが求める愛はそういうものじゃない。
「でもわたくしにとってラストの言う愛はおとぎ話の中にしかなかったものなのよ、王族としては封印しなければいけないものだったから」
「わたしにとっては血筋を重視する王政国家がおとぎ話なんですけど大体その通りなんですね」
とはいえおとぎ話の中にいるお姫様は最後に愛する人と結ばれるのが当たり前だったけど。
「だからあの言葉にすぐ答えを出して応えることはできないの、わたくしにとって恋愛は未知の領域だから……」
「これで国の役に立てる」って言われた頃と比べたら物凄く前進している気がする、わたしにとってはとても嬉しい変化だ。
「ラスト、あなたは好きで髪を短くしているの?」
「いいえ、以前いたところでは髪を短くするのが規則だったので」
急に話題が変わって少し困惑する、いきなり髪の話題?
「そう、なら今日からは伸ばしなさいな」
「それはコルネリア様が髪の長い女性が好みということですか?」
だったら伸ばす、特に短い髪に拘る理由も無い。
「そ、そうではなくてラストの髪が腰に届くくらいまで伸びた頃にはわたくしなりに何かの答えを出すことができればいいと思って」
そんなことを顔を赤くしながら言ってくれた、かーわいい。
「わかりました、そういうことなら伸ばします」
「いいの? わたくしから振ったことだけれど伸びてきたら手入れも面倒よ」
「それはまあリンナちゃんのお仕事がひとつ増えるということで」
好きな人に伸ばしてほしいと言われたのだ、長髪になったわたしの姿でコルネリア様をメロメロにしてみせよう。
こんな恥ずかしい会話をするなら確かに他の人はいない方がいいなと思いながら逢瀬の時は過ぎていった。