起動テスト
忙しい日々が始まった。
なにせこれまで動かせなかったのだ、稼働データが何一つ取れていない。
ただ関節を曲げることや歩かせることからはじめ、データ取りと微調整を急ピッチで行っていった。
本来のスケジュールから遅れに遅れているのでてんやわんやだ。
特にわたしはリーリオを実際に動かすには必要不可欠なのでそれはもう過密スケジュールとなった。
助かる部分もあるにはあるけれども。
リーリオの操縦系は当然ながらわたしがここに来るまで乗っていた機体とはまるで違う。
そういう意味では稼働データ取りに1から10まで参加することは慣熟訓練にもなった。
それにしても異世界に来てもまた人型機動兵器のパイロットをやることになるとは、こんなテストパイロットみたいな仕事はやったことなかったけど。
「お、お疲れ様です。 ラスト様」
「ありがとう、リンナちゃん」
今日の稼働テストを終えリーリオから降りてきたわたしをオドオドメイドさんことリンナちゃんが労ってくれる。
様づけなんてしなくてもいいと言ったのだけれど「将来姫様に嫁ぐ方ですから」と譲ってくれなかった。
その方がいいというならそうしよう、無理強い良くない。
あとお手付き厳禁の命令はちゃんと守ってます。
「おうリンナ、今日も来てたのかい」
「は、はい。 こんにちはヅガルさんっ」
「はっはっはっ、綺麗どころが二人もいると格納庫を華やぐねぇ。 我々メカニックもやる気が出るってもんだ!」
「そうそう、リンナちゃんがこうやって労ってくれるからわたしも気合入っちゃう」
「いやラスト、お前さんも含まれてんだぞ」
「えー、わたしはわたしがいても気合が入るようなナルシストじゃないしー」
わたし以外の可愛い女の子がいてこそでしょ。
「カー、べっぴんさんなのにコレだもんなぁ」
「それよりメカニックチーフさんが部下に指示も出さずこんなところで油売ってていいの? ご飯のお誘いなら娘さん同伴でって言ったハズだけど」
ヅガルのおっちゃんはメカニックチーフだけど気さくでいいおっちゃんなのでつきあいの日は浅いのにも関わらずもうこんな調子だ。
「だから娘はいねえって、ホント色々残念だぜ」
それはわたしが残念な女だって意味も含まれてるな、まあ恋愛対象が女である男からは言われ慣れていることではあるからもうあんまり気にしないけれども。
「それで、本当に女の子に声かけに来ただけなの?」
「そうだったそうだった。 おうラスト、いったいなんだありゃあ!」
一体どれのことを指してるのかわからない。
「どれ?」
「今日の稼働テストのことに決まってるだろ、全部ド真ん中命中ってどういうこった」
今日はシールド裏に取り付けてあるエネルギーガンの動作確認が主だったんだけど全弾命中の何が不満だったんだろうか。
「そりゃあこれでもパイロット養成校主席卒業見込みだったんで、その場で立ったまま動かない的に当てるくらいはやってみせないと」
これ言ってなかったっけ。
「どういうこった?」
「わたしの故郷にはこういった人型機動兵器のパイロットを養成する学校があったんですよ、そしてわたしはこっちに来るまでそこでトップの成績だったわけ」
だからこそ操縦のクセが抜けなくて困ってるっていう部分もあるんだけど。
「はーそりゃあすげえ、でもそれってあまりにも都合が良過ぎねぇか」
それはわたしも思った。
リーリオ搭載のAIにも動かせる条件を訊いてみたことがある。
そうしたら「女性が好きな女性」と返ってきた。
最初はそれじゃあ男ばかり乗せても動くわけがない程度に思っていたけれどパイロット経験やコルネリア様の容姿が刺さることまで含めたらとんでもなくピンポイントだ。
ここまで正確な一本釣りを見せられるとわたしを喚んだ声の主とやらは本当に神様かそれに準じた存在かもしれないと信じそうになってしまう。
「と、あれ。 おっちゃんは?」
思考の沼に沈みそうになっている間に姿を消していた。
「もう作業に戻られましたよ」
「んー、じゃあ戻ろっか」
「はい、お疲れ様でした」
こうしてある一日は終わりを告げた。
答えの出ない疑問を棚上げして。