稀代の天才の家族の形
マリア・ドルー。女男爵である彼女は、投資の才能に長けていた。領民たちから集めた税金を通信事業などへの投資にあて、派手好きな浪費家の先代が残した多額の借金を全て返済する。それどころか、しがない貧乏男爵家をこの国一番の大金持ちにまで押し上げた。
そんな彼女には当然のように見合い話がたくさん舞い込む。しかし彼女が首を縦に振ることはなかった。
彼女は遠縁の親戚から、継ぐ爵位も領地もない父子家庭の親子に目を付けた。親子二人での平民暮らしはなかなか大変らしい。ちょうどいいだろうと話を持ち込む。
「私は身体が弱く子供が望めません。そこでお子さんを後継に指名させていただきたいのです。血を絶やすわけにはいかないですから。遠縁とはいえ親戚ですからなにも問題はないでしょう?けれど、親子を引き離すのはどうかと思います。だから、私の婿になっていただけませんか?」
「マリア様はそれでよろしいのですか?僕としては、マリアンヌの幸せを考えれば願ったり叶ったりですが」
「ええ。よろしくお願いします、イポリート様」
こうしてイポリートとマリアンヌは、ドルー男爵家の一員となった。
「お義母様!見てください、今日もこんなにお勉強が進みましたよ!」
「マリアンヌは本当に覚えが早いですね。さすがは私の愛娘です」
「えへへ。私頑張ってもっともっと色々覚えますね!それで、お義母様みたいな立派な女男爵になりますね!」
「あらまあ、本当に可愛い子ですね」
マリアはマリアンヌを我が子として可愛がる。マリアが真っ直ぐにマリアンヌへの愛を育んだ結果、マリアンヌもマリアを女男爵として尊敬し、母として愛した。そんな彼女達を見守るイポリートも、次第にマリアに惹かれていく。
「僕は前妻に裏切られ、他の男と駆け落ちされて幼いマリアンヌを抱えて必死で生きてきました。そんな中で、もう誰も愛することはないだろうと思っていましたが…僕は貴女を愛してしまいました」
「まあ」
「好きです、マリア様。マリアンヌにも誠実な貴女を、心の底から愛しています」
「私も、誠実で優しいイポリート様が好きです。愛しています」
「お父様とお義母様、ラブラブだー!」
こうして三人は、本当の家族になっていく。
一方で、イポリートとマリアンヌを捨て浮気して駆け落ちした女性は、浮気相手に捨てられたらしい。家に帰ってもすでにイポリートとマリアンヌはおらず、今更孤独に苛まれているそうだ。