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魔「幼女」裁判  作者: ダグラス窩
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七話 お絵描き

ガノン老師が自分の匂いを変えるといい、早一週間。


あれから、ガノン老師の姿を見たものはいない。


とりあえず、仕事が溜まっているので、匂いなんてどうでもいいから早く帰ってきてほしい。

それに、ガノン老師がいなくては、アリス・キテラに審問をすることができないのだ。



前回の審問により、俺は心に深いトラウマができてしまった。

どんなに長い時間、辛い思いをして準備をしても、その努力が水泡に帰すというトラウマ。

もう、大作は作れそうにはない。



だが、審問はしなくてはならない。

審問官として働いているのだ。仕事はきっちりこなす。



とにかく、まとめると現状はこうだ。


ガノン老師がいないため審問はできない。

そもそも審問ができても、俺のメンタルが回復していない。

しかしこうしてる間にもアリス・キテラが魔女として猛威を振るっているかもしれないので、審問しなくてはならない。



ということになる。

問題は、審問ではない審問をしなければならないということ。


審問ではない、審問。


…あれをやるか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「入れ」


俺はアリス・キテラを呼び出した。


というか、最近は呼ばなくても来ている。

なんでも、遊んでくれるかららしい。


…舐められているな。


「きょうはなにするの?おそとであそぶ?それともおへやのなか?」


「今日は…、これだ」


俺は机の引き出しから紙と、ペンを取り出す。


「絵をかくんだ」


今回、俺が考えた審問。

審問ではない、審問。

それは書かせた絵から、その者の心理を読むというもの。


絵は、心を表す。

今その者が見ている世界、その者が見てきた記憶の世界、そして、心の世界。


絵を描くということは、その者の物の捉え方、記憶、精神を見るということになるのだ。



アリス・キテラは魔女である。

つまり、魔女としての視点、魔女として見てきた物、魔女としての考え方が、絵に表れるはずだ。


今回は、その絵を証拠物品として押収し、アリス・キテラの心理を暴こうと思う。



もちろん、アリス・キテラに審問の内容は話さない。


あくまで、アリス・キテラが無意識に描いたものでなければ意味がないからだ。


「おえかき!すきだよ~!」


「そうか…、それはこちらとしても好都合だ」


「こうつごう?」


「なんでもない、いいから書け」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして15分後。

俺も絵を描いている。


きっかけはアリス・キテラの一言。


「おにいちゃんはなにしてるの?」


「ん?俺か?俺はお前が描いてるのを監視してる」


「…なんか、つまんない」


つまんない…だと?


「おにいちゃんもいっしょにおえかきしよ!」


アリス・キテラはそう言うと、なにもない空間からもう一組の紙とクレヨンを出す。


うん、シンプルに魔法使ってやがるなこいつ。

なんだ、どっから出した?


だがまたしても運の悪いことにそれを見ていたのは俺しかいない。


くそ、舐められてるな。


「はい、これかしてあげるね。アリスのおきにいりなの。…あっ!あかいろはつかっちゃダメだよ!あかはおきにいりなの!」


赤色を使えないだと?


「あとピンクもダメね」


ピンクは別に使わん。


というかそもそも。


「やらん」


「じゃあアリスもやらないもん」


アリス・キテラはペンを投げると机に突っ伏した。


「おいアリス・キテラ。これは審問…じゃないか、大切なことなんだ。途中で止めることは許されない、やりなさい」


「やだ!やらないもん!」


アリス・キテラはなおも突っ伏したままだ。


「なぜ?!」


「おにいちゃんといっしょにやりたいもん!」


「なっ…?」


それだけでここまで駄々をこねるものか?

なぜこうも駄々をこねる?

…魔女だからか。

やはり魔女であるとそんな小さなことにすら駄々をこねるようになってしまうらしい。

魔女、恐ろしい生物だ。

仕方がないが、こうも駄々をこねられては乗るしかない。


「わかった、仕方がない!…俺も絵を描こう」


「ほんと?!」


アリス・キテラは、勢いよく上体を起こすと、満面の笑みでこちらを向いた。


なんて変わり身の早さだ。

きっとこうやって俺が折れることも理解してさっきまでの態度をとっていたんだろう。

ほんと、舐められてるな…。


こうして、俺も絵描きの真似事をすることになった。



だがこれがやってみると意外に没頭できる。

絵なんて描くのは、何年ぶりだ?

クレヨンを持つのだって、もしかしたら20年ぶりとかだな。


…楽しくなってきた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「できた!見て!おにいちゃん!」


「ん…、ちょっと待ちなさい」


「ねぇできたよ!」


「わかったわかった」


「…ねえおにいちゃん?」


「わかったわかった。…赤使っていい?」


「ダメ」


「わかったわかった」


「ねえ、つまんない。アリスかえる」


「わかったわかった」


「じゃあかえるね、おにいちゃん」


「わかったわかった」


ーーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ」


うむ、題を何にするかで悩んだが、『色ちがい』で決まりだな。


うむ、赤を使えない中でこれだけ出来れば良い方だろう。赤を使えないことを逆手にとり、反対色で世界を表すことの…。


…ん?


……ハァッ!!


アリス・キテラがいない!


な、なんだと、いついなくなった?!!



やってしまった…。


長所である集中力がこんな形で働くとは…。


まさか、これも策略のうち?


俺が絵を描くのに没頭すると踏んで、仕向けたのか?


…くそ!

今回は完敗だ。


俺は悔しさのあまり机を叩く。

そのとき、机の上にのった紙切れに気づいた。

俺が今まで描いていた絵とは違う紙切れだ。


俺はそれを手元に引き寄せてみる。

そこに描かれていたのは、クレヨンで歪に塗られた、三人の人型の何かだった。


人型の何かの上にはそれぞれ、おじいちゃん、おにいちゃん、アリス、と拙い文字で書かれている。


…魔女でなければ、かわいい、ただの幼女なんだがな。


俺は絵を丁寧に厚紙で挟むと、ガノン老師のために取っておこうと、デスクの引き出しにしまった。






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