2話 おっきくちっちゃく
「えー、それでは、審問を開始します。…アリス・キテラ!」
「はい!」
「お返事できて偉いねぇ~」
にこにことアリス・キテラに笑顔を向けるガノン老師。
少しして、ガノン老師の顔がゆっくりとこちらを向く。
額には青筋が走り、にこやかな笑顔の裏にとてつもない圧を感じる。
わかっている。
どうせまた小言、いや叱責を受けることは。
アリス・キテラを審問しようとした前回、年齢的理由から審問は無くなった。俺自身、ガノン老師に諭されてそれは理解した。
だが、問題はそのあとに起こった。
彼女は箒で飛んだのだ。
これは魔女であるたしかな証拠である。
アリス・キテラと別れた後、俺は急いで事務室にて書類を作成。
魔女疑い濃厚として、すぐに書状を作成し、憲兵たちに指示を出したのだ。
そして、ついに審問日となったのだが、正直こうなることは分かっていた。
なにって?
ねじ切られるんじゃないかというくらい強く肩を揉まれている今の現状をだよ。
「痛いです」
「痛くしてるからね」
「…おっしゃりたいことは分かります。幼い彼女が魔女であると審問して裁く行為は非道であると言いたい、そうでしょう?」
「分かってるじゃないか。…え、なに、その上で裁こうとしてるの?…フランク君、もしかして人の道を外れたのかい」
「いえ!違います!…実は俺、見てしまったのです」
「なにを」
「彼女が箒で飛ぶところを」
ガノン老師が天井を仰ぎみる。
そして少し息を吐くと、俺に向け疑問を問いかけた。
「疲れてる???」
「いえ」
「本気???」
「ええ。…しかしガノン老師は信じないのでしょう?」
「あったり前でしょ」
「ええ、そういうと思いました。ですが今回は俺の考えた審問で、彼女が魔女であるという証拠をお見せします。ですから、とにかく一旦は審問を続けていただきたいのです」
「うーん、君は真面目だから信じたいんだけど、さすがにあの幼女に審問はさ…。ちなみに、どんな審問する予定なの」
「箒を持たせた状態で、崖から突き落とします」
「ストォォォップ!!なに考えてるの君?それ死ぬよね?魔女じゃないなら絶対死ぬよね?!」
「いえ、彼女は魔女なので大丈夫です」
「おいおい、フランク君…?そんなんやらせるわけにいかんぜ…?やっぱ疲れてんだよ、君」
困った。
この審問であれば確実にアリス・キテラが魔女であるという証拠を見せられるというのに。
…仕方ない。
「では、折衷案にしましょう」
「は?」
俺は考えを続ける。
「気になる所はガノン老師が変えてください。私の考えてきた審問を安全ではないと感じれば、それに手を加えていただき、その上で審問をするのです。そうすれば安全かつ確実に、ガノン老師に証拠をお見せすることができます」
「…そこまでしてでも、どうしてもやりたいと?」
「はい」
「…はぁ、わかった。ただし、今回だけだぞ?」
「ありがとうございます!」
よし!これでアリス・キテラが魔女だと証明できるぞ!
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箒に跨がるアリス・キテラ。
心なしか楽しそうだ。
彼女は今、台の上にいる。
「よし…、では飛べ」
俺の号令に、アリス・キテラが台からピョンと飛び出す
そして、10㎝下の地面へと着地した。
「…ガノン老師」
「はぁぁぁぁ尊いぃぃぃ!!」
いや、待て。
折衷案とは言ったが、これはおかしい。
「もういっかい!」
アリス・キテラがまた台へと登る。
そしてピョンと飛び出す。
「おっきくなったみたいなとこから、ちっちゃくなるの楽しい!」
意味不明な説明だな。
「そうだねぇ、楽しいねぇ」
「あの、ガノン老師…」
「今いいとこなんだから後にしなさい!」
「いや、あのですね…。これ、なんですか?」
「君は、崖から飛ばしたい。私は安全面を守りたい。これが折衷案じゃないか」
「これは魔女でなくても出来ます」
「まじょー?」
俺の言葉にアリス・キテラが反応する。
「これがまじょなの?」
「いや、違う」
「じゃあこのあそぶのはなんていうの?」
「…知らん」
「じゃあアリスがなまえつけるね!…これはねー、おっきくちっちゃく!おっきくちっちゃくなるから、おっきくちっちゃく!」
「尊い」
ガノン老師の目から涙がこぼれ落ちる。
「…では審問を始める」
涙を拭いて、ガノン老師が真面目な顔で宣言する。
「…尊いので魔女ではない!以上!」
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「たのしかった~」
俺と手をつなぐアリス・キテラは、先程の真似をするかのように、段差を見つけると上にあがってはピョンと飛び出す。
「止めなさい、危ないぞ」
まるで保護者だな…。
アリス・キテラの審問は、証拠不十分として終わった。
…あの審問では証拠など出せるわけないが。
「じゃあね~、ばいばーい」
そして、またこうやって箒で飛んでいくアリス・キテラを見送る。
…次こそは、絶対証明してみせるぞ!!
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