01.勇者失踪の報
「勇者が魔王に挑んで姿を消した。おそらく敗北したのじゃろう」
お師匠さんとしばらく一緒に生活していたある日のことです。彼女が仕える王の謁見に同伴したところ、王様は重々しく告げました。
「この世界から勇者を絶やすわけにはゆかん。代わりとなり旅をしてくれるな。セーラよ」
「……」
私ですら驚き戸惑っているというのに、お師匠は無反応で、いつもの不愛想な顔をしていました。しかし、以前のように寝ているわけではなく、彼女の心境は葛藤を抱えているようでした。
「王様、差し出がましいようですが、わたくしが代弁を」
「良い。許可する」
王様も沈黙には慣れているようで、私の発言を許可してくれました。私は王族に対する礼儀作法は家族から学んでいます。
それにしても、返事くらいしたほうがいいと思うのですが、これがいつものお師匠さんなのです。
「……」
「お師匠様はこの国を離れることに悩んでいます。それはこの国を守るという忠義に反することを意味するからです」
この国一番の武勇を誇るお師匠ですが、国を出てしまえば彼女の役割を果たすことができない。彼女から読み取った「悩んでいる」という感情からそれらしい言葉を思いつく軽薄な自分を、今日ほど誇ったことはありません。
だって、お師匠さんが国を離れるということは、私がまたひとりぼっちになるということを意味するからです。それだけは避けねばなりません。
「む。どうやらセーラの表情は違うといった様子じゃな」
「──え?」
「……旅には、カンナも連れてゆきたい……」
「儂にはわかるぞ。弟子を危険な旅に連れていくべきか否か。悩んでおるのじゃな」
「うん……」
うんって。子供か!
「言っておくが、セーラとの付き合いは儂のほうが長いぞ?考えていることくらい、能力がなくてもお見通しじゃ」
「た、確かに……」
「あとはカンナ。お主次第じゃが、どうする?」
「私は……」
「行く。行きますっ」
「ほほ。良いのぅ」
「良い百合の花じゃな。大臣よ」
「はいぃ?」