小萌志睡蓮の水泳引退の理由と過去
外国人の水泳選手カンベルロレッティーネさんから声をかけられ、俺の事を物凄く詳しい様に話してくるのを側から見ていたのか、こちらを物凄い形相で見てくる男が声をかけてくる。
「おお!これはすみませんでし。しかしあなたこそカレにアコガれがあってスイエイセンシュになったのではないのですか?」
「ええ、それは勿論です。きっかけは確かにそこにいる神楽坂君であるのは間違いないでしょう。私は彼に届く為にコレまで努力を重ねてきてここまできました。しかし彼はその期待を裏切って自ら掴む事ができる栄光を手放したんです。そして、私達は彼との競い合いたいという志ざしを持っていたのが、まるで岩の雪崩の様に崩れていきそれから何をどう目指せばいいか分からずにいた。」
「………」
「まぁ結果こうして会えてようやくぶちのめせる日が来るとは思いもしなかったけどな。」
「俺は出場しない。」
「分かってるさ、けどな、お前が育てあげたあの女はどう考えてもこの試合では無理があるんじゃないのか?」
「だとしたらどうだって言うんだ?」
「口の聞き方には気をつけろよガキ。お前には水泳としての道標をした恩はあるが、ここでは既に私の方が上の立場だ。最早一時の過去となったお前の名前は一部の奴にしか分からない。それがどう言うことかわかるよな?」
「………失礼しました。確かにあなたの言う通りですね。自分はただの置物風情あなたからしたらさぞかし不本意でしょう。なのでこれ以上の口出しはしません。」
「当たり前だ。お前が睡蓮コーチと一緒にいるだけでも腹正しいのに、あまり私を怒らせるなよ。」
「それはお前が勝手に苛立ってるだけじゃないのか露光?」
「小萌志先生……2人は知り合いなんですか?」
「ああその通りだ。私はアイツの元コーチだからな知り合いなのは当たり前…だがその前にお前には言いたい事がある露光。私がコーチを辞める前にお前に言った事をもう忘れたのか?先程の通り場の時もそうだが、その癖いい加減に直せ。」
「お言葉ではありますが、私はこの癖でここまで這い上がってきました。あなたが辞めた後も必死になって直す努力もした。しかしそれをする事で水泳でのスランプに陥ってしまう事も多々あります。だからこの癖は一生直りませんよ。」
「それはただの驕りだ。お前は自身の力を過小評価しすぎている。そんなではいずれ足元を掬われるぞ。」
「あはははこれは手厳しい。確かにあなたの言う通りかもしれません。ですが、これまでのタイムでの更新で遅延した事等一度もない。寧ろ良好なんです。だから必ず1位から3位以内に入る事ができた。それで何が悪いというんでしょうか?」
「浅はかだなお前…そんなんだからいつまでも1位が取れないんじゃないのか?」
「なんですって?」
「お前今のままでも十分に納得してるんだろ?」
「はぁ〜自分なりに自己ベストを尽くしてやってきてはいますが…それが何か?」
「お前の記録拝見させてもらったが、それがお前の出せる全てなのか?なぁどうなんだカンベルロレッティーネ。」
何でそこでカンベルに尋ねるんだ?
「う〜んそうですね〜ワタシからいえば……あまりにもジコマンゾクとだけいっておきましょうか。」
「な!おいカンベルお前!」
「だろうな。自身の癖を直さず、そのおかげでタイムが良くなる。そんな風に期待していたら、誰だって注意する言葉なんて咎めず、ただただそうやっていけば何もかもができてしまうという無駄な己の結果になってしまう事を自分は気付いちゃいない。」
「だからそれが何だっていうんだ!」
カンベルはふ〜んと手を左右に振りながらまるで、やれやれと言わんばかりに呆れだし、睡蓮はまだ気付かない露光に真実をつきつける。
「お前自分がこれまでタイムの記録が落ちないとそう言ったな?ならそれで何故神楽坂に対して偉そうにできているんだ?」
「え…どう言う意味ですか?」
「わからんやつだな。」
睡蓮は露光の胸に指先を押し当てながらさらに追い討ちをかける。
「お前のそのタイム、昔の神楽坂の記録をこえてないと言ってるんだよ。」
「……そ、そんなばかな!」
「お前本当に他人の記録に関して興味を持たないんだな。自分が1番というその自惚れやはりそれも変わっていなかったな。」
「カレはいつもワタシにコウユウをモトメルようなセッシかたをしてきました。しかし、ジブンジシンのコトしかハナシテいなかったので、ワタシはこうおもいました。このひとはワタシのテキデはないと。」
「まぁそう思っても仕方ねぇよな。どちらにせよ今回の野谷山との相手にはお前とは話になれんだろ。少なくともここにいるカンベルか残りの強者の世界選手とならより良い面白い試合にはなると思うがな。」
「いえいえ、カグラザカがキタエあげたセンシュにワタシタチなんてテモアシモデマセンよ。」
「謙遜はよせ、神楽坂の記録をこした相手がまだその記録をこせていないガキンチョが勝てるわけがないだろう。少なくとも3位以内には入ると私はそう思っている。お互いいい試合に…」
「ふ、ふざけんな!!」
小萌志先生とカンベルさんが良い試合というような話しをしている最中施設内に響き渡る様な声を露光という男の人があげほとんどの人がこちらへと注目する。
「あれは?神楽坂君に先生?それにあの2人は…」
野谷山は出場する待機していた場所から神楽坂達の方へと向かい何事かと駆け足で駆け寄る。
「さっきから聞いていれば勝手な事ばかり言いやがってそもそもアンタが俺を責任もって育てなかったのが原因もあるんじゃないのか?勝手に引退して、勝手にコーチを辞めて1番身勝手なのはアンタだろ!」
露光さん口調が荒々しくなって小萌志先生に突っかかているな。これもその癖なのか?
「ああ確かにお前の言う通り私は身勝手な行いでお前の前から姿を消した。言ってしまえば神楽坂と同じ境遇な事をした。だがお前には私がいなくても成長できると思ってお前のその努力だけでこれから先も世界の水泳選手になれると信じ込んでその場から姿を消したんだ。と言ってもそれだけが理由じゃないんだがな。」
「は?それだけが理由じゃない?じゃあ何かアンタは俺の未来の成長よりも他の事に優先したって事か?それが学園の教師になるのがアンタの大事な事だったのか?は、所詮は目の前にある金か、そういえば、アンタの学園ってそれなりに名をあげた人物が教師になったらとんでもない給料が貰えるんだったよな。そりゃあそうだよな、昔のアンタは人の心なんて全く感じてなく冷徹の様な心を持った選手だったんだ。どれだけお膳立てしてもこちらには目をくれやしない出来損ないのはどっちなんだろうな!」
言ってる事が最早無茶苦茶だな。感情だけで、言いたい事だけを言っている。こんな人をこの人が何で育てていたのか俺には理解できない。いや才能と努力では寧ろ理解できないから分からないのか…俺には到底その到達点が分からないままだし何を捨てて何を得るなんて事は努力をしている奴の心を汲み取る事が最早皆無なんだ。
「ふぅ〜まぁお前にはいずれ言わないといけないと思っていたんだ。それが今日その日が来ただけの事…これが因果なのかそうじゃないのかは分からんがアイツも許してくれるだろう。」
「なんの事を言っているんだ?」
「ここからは少し昔の話しをするぞ。時間はまだあるし問題はないだろう。なぁ〜にちょっとした私の引退した理由と後の話しだ。」
小萌志先生の過去の話?引退後の話しをするって、俺達がいていい話なのか?
「私が引退した理由はある友人に頼まれてその場所から離れなければならなかったんだ。実際にはまだ現役で泳げていたし体の悲鳴も勿論あげてはいなかった。しかしとある才能を持った男の子が突然行方をくらましたという話を聞いてな、それで探して見つかった結果2度と水泳なんてしたくないとほざくめんどくさい駄々をこねたやつがいたんだ。」
「!?え?待って下さいそれって…」
「ああお前は思い出せなかったかもしれんが、この故郷を離れ引っ越した場所でひたすら頑張って水泳を続けている内に一度もだけ挫折したのを覚えているか?」
「いや忘れもしませんよ。何せあの時は親もほとんど家にいなかったし、友達もほとんどできなくて何の為に水泳をやっているんだって思い悩んでいたんですから。でもそれを支えてくれたのは…」
「ああお前の指導者である林道留美子だ。アイツはお前の事をとても大事に思っていたぞ、あんな小生意気なガキは私が自ら一から手解きしてやるって息巻いてたからな。」
「はい、実際には本当にお世話になりました。寧ろ頼もしいお姉さんとも思って甘えてた記憶があります。」
「そうだなよくアイツから可愛い弟の様だって言っていたしな私も、もう耳タコになるぐらい惚気みたいな事を言われた。」
「けど、何でそれが露光さんからコーチを離れたキッカケになったんですか?」
「………お前自身も知ってる筈だ、留美子が病を背負っていたのを…」
「!?」
「病?その留美子さんと言う人の病で睡蓮コーチは引退なさったのですか?」
「ああ、私はアイツがいて水泳を続けていたこともあって競い合うライバルでもあったんだ。何せアイツと私は同じ記録しか出せないという何かしらの因果関係で結ばれているのか、必ずどちらも同時記録タイムが変わる事はなかった。」
「それ…私も聞いた事があります。」
「野谷山お前戻ってきたのか。」
「うん。大きな声が響いたから何かあったのかってこっちに来たんだけど、ちょっと盗み聞きしてしまって、それで今の話しに心当たりがあってつい口出しをしちゃった。」
「続きを聞かせてくれないか?」
「うん。これもとても有名な話で伝説と言われてもおかしくない話しにもなったりしたんだけどある時突然その林道留美子さんが姿を消して、小萌志睡蓮先生もいなくなってその同時タイム記録という名ばかりの記された物は全て抹消されたらしいんだその日の翌日から…とても不可解な出来事だったからよく覚えているけれど、単に個人達の問題だから触れる事はやめてくれとこれ以上のこうがいはしないでくれってお偉い様の指示でこの2人の伝説とされる同時記録は永遠に表沙汰になる事はなかったって言う事を昔の記事や先輩から聞かされた事があった。」
「けれど、それっておかしな話しじゃないか?だとするなら何で小萌志先生は学園にいるんだ?それそ直ぐに記者達が気付きそうなもんじゃないのか?」
「馬鹿かお前は、お前の学園の事なのに何故それが分からない。そんな有名な人間を匿える学園だぞ。そんなの私達ですら知ってる事だ。正直闇がある学園とも思ったりはしているがな…」
確かにそんな大事になりそうな事なのにうちの学園は何一つ騒動が起きそうな場所じゃなさそうだし、何より妙な点はいくつかあった。この学園での設備や警備システム色々狂ってはいるが、何か訳ありがある感じなのか?
「話が逸れたな。ひとまず話しを戻そう、留美子が病になってそのあとどうなったかはお前達の相続に任せる。と言っても病だからな言わずもがな分かる事だと思う。その後私はアイツに頼まれたんだ、自分が側におられない間神楽坂の事を頼むと。」
「いやでも俺は小萌志先生とは面識が…」
「当たり前だろ。お前に面識がわれたら、絶対にアイツの事を気にかけてくるはずだ。それに私ではお前にどうあっても指導なんて出来やしない、私とアイツとでは根本的にやり方違うんだからな。しかし何とかしてお前の近くで見張りながら徐々に体勢を立て直し泳げる様になったのを見て私がいなくてもどうにかなると思った私はアイツの所へと戻りその報告をしようとした。しかし…」
…………9年前
「おい!留美子アイツとうとう自分でやる気を取り戻して泳げる様になったぞ。何が私がいない間頼むだ。全然そんな事……」
ピ!ピ!ピ!ピ!ピ!
「大変です!バイタル安定しません。早く手術室へ!」
「先生脈も安定が!」
「分かっている緊急手術だ。急いで準備をしろ!」
「る、留美子…嘘だろ。」
自分が彼女の病室へ着く頃既に病の悪化に陥ってしまった留美子はそのまま緊急手術へ搬送され、私は留美子の家族と一緒に6時間の間留美子の手術が終わるまで待機していた。そして6時間のほんの少し手術室から先生が出て来て私と留美子の家族は衝撃的な事を告げられる。
「余命は後1年もありません。」




