ジェジェンガー勝負
若干恥ずかしげにしながら着替えてきた姿を見せる美森姉。
その姿に俺は茫然と立ち尽くす。
「ちょ、ちょっと何か言いなさいよ。」
「あ、わ、悪い…ちょっと予想外な展開が起こったから少し戸惑ってしまった。……う、うん。その綺麗だな。」
まさかのずば抜けてくる容姿。
薄着か何かで俺を驚かせてくるかと思いきや…まさかのワンピース姿で登場し一瞬戸惑いかけて言葉が出ずにいた。
「……そ、そう。き、綺麗なのね。……でも一瞬の躊躇いがあったて事は一瞬だけれどドギマギしたって事なのかしらね。」
そう言って余裕の笑みで俺を小馬鹿にした言い方をしてくる。
確かにそう言われてしまえばそうかもしれないが…残念ながら俺はギリギリ耐え抜く事ができた。
「ふっ悪いがまだそこまでのインパクトはないな。驚きはしたけれど…それが俺の心に響かせたというのなら残念ながらそうじゃない。」
「何だか悪足掻きをする為の言い方にしか聞こえないわね。…別にいいのよ。私の事綺麗って本音が出たんだから…」
「それで正統性な判断をさせられたらこの勝負の意味がなくなるな。もしそれで美森姉がいいって言うんだったら別にいいんだが…」
「……はぁ〜分かったわよ。あなたがそこまでして認めたくないのなら次こそ素直に言ってもらうまで私が頑張るだけなんだから。」
「………」
納得するまで本人もそこは妥協しないんだな。
どうやら強制的に俺を納得させるためのドギマギの勝負だけでは意味がないらしい。
本当の本当に俺が美森姉にドギマギしたという言葉を待ってる。
……クソコレじゃあ俺がただ不利にしかならない気がする。
かと言って引き下がるのも違うしな。
何か手段があればいいんだが…
「さてさて、まず私から先手を取らせてもらったわけだけれど…一星はここからどう反撃してくるのかしら。」
反撃…反撃か……そうだ!
「美森姉俺と1つ勝負してみないか?」
「勝負?今やってるのが勝負じゃないの?」
「そうそれの別の遊びでって事……えーとだな。……おお懐かしい物があるな。」
俺はたまたま近くに置いてあった家族ゲーム。
ジェジェンガーを見つける。
「それを使ってどうする気なの?」
「コレを使ってちょっとした遊びをしようぜ。1つ抜く度にお互いのいい所を言いあうんだ。それで先にいい所を言い尽くすまで勝負する。」
「へぇ〜面白いじゃないのよ。……因みに崩れた場合はどうなるわけ?」
「……うーん。そうだなぁ……!1つ大きな行動で相手をドギマギさせるってのはどうだ?」
「いいわね!それ!乗ったわ!」
物凄い同調での返事。
前のめりしてくる美森姉にビックリはしたが、俺はジェジェンガーをテーブルの上に乗せて準備をする。
ふふ、面白い事を考えたじゃないのよ一星。
この勝負絶対に負けられないわよ。
私が勝って一星にとびっきりのドギマギをさせてやるんだから。
「さてと…どっちが先にやる?」
「じゃあ私からという事でいいかしら。レディーファストという事でお願いするわ。」
どちらでも構わないと思いつつ俺は美森姉に手を前に出してどうぞと合図をする。
「……よし!取れたわね。じゃあ私から先手を取らせてもらうわよ。」
俺のいい所を美森姉は何を言うつもりなのだろうか…正直言って目の前で褒められるというのはあまり慣れてないから少し照れる。
「ぶっきらぼうかしらね。」
「……は?」
いやいや何だ今の発言は…今のが俺のいい所だって?完全に貶された気がするんだが…
「はい次一星の番よ。」
「いやその…それはそうなんだが…今のって褒め言葉なのか?」
「え?私からしたら褒め言葉よ。」
「いや俺からしたら褒め言葉に聞こえないんだが……」
「それって個人的な感想でしょう。あなたからすればそうかもしれないけれど、私や他の子からしたらきっと同じ答えをだすと思うわよ。」
いやそうだろうか……絶対に貶された気がしないんだが…ひとまずここはスルーしておこう。
「さぁさぁ次々!」
急かすかのようにして俺の番だということを指してくる美森姉。
そうくるなら俺だって同じやり方で褒めてやる。
そのまま俺は端っこのブロックを取りに行き上にのせる。
そして俺のお題はというと…
「……美森姉は足が綺麗。」
「ちょっと!それセクハラじゃないのよ!」
「?俺はありのままを伝えただけだが?何かおかしなところがあったか?」
「いやいや女子の目の前で足が綺麗とか…普通に考えたらアウトよ。」
「何言ってんだよ。コレはお互いの特徴とする部分を褒め与えてるんだよ。つまり体だろうが罵倒での褒め言葉だろうが…それをどう受け止めるかは本人次第…じゃないのか?」
くっ!一星私がした褒め言葉に対して若干のアレンジを加えてきたわね。
そうする事でここでの良いところを言うポジションでの範囲が広まってしまった。
このゲームでの着眼点は彼のアレンジしてくる褒め言葉。
私がそれに屈指せずに勝てばいいだけ…ちょっとドキッとはしたけれど…流石にこれ以上私にドギマギさせる様な良い声掛けはないわよね。
「次は私の番ね。」
そう言って、美森姉は俺と同じ端っこの部分を抜き取り上に置く。
「ふふ、この私を辱める言葉をかけるなんて甘いのよ。第1私があなたの事をどれだけ見ていたのか分かっての事かしら。」
「今言ってる事も十分に恥ずかしい事を言ってる気がするんだけどな。」
「う、うるさいわね。……じゃあ言うわよ。あなたのいい所…それは……自分の事を卑屈だと思ってる事…」
「は?卑屈だと思ってる?…それって完全に罵声じゃないのか?」
「いいえ。私が言ってるこの言葉は褒め言葉よ。但し…あくまでも客観的な意見という話しだけれどね。」
「……成る程な。美森姉はまだ俺に対して言いたい事があるってわけなんだな。……おかしいとは思っていたんだ。あの美森姉があんななーなーで済まして、お互い彼氏彼女をやらせたりドギマギさせたら勝ちなんて変なルールを設けたりしてたから不思議だったんだよ。……案の定って事か…」
今のは俺の事をドギマギさせるというより意表をつく感じでの言葉で畳み掛けようとした。
となると美森姉は別にこの勝負に関してそこまで真剣じゃない?
「さ〜てそれはどうかしらね。あなたの見解次第になるわ。でもそう捉えてもいいし捉えなくてもいい…正直な所私は一星に自分を認めてほしいだけだもの…」
「認めてほしい?」
「そう。どれだけお互いの事を知っていても自分自身の事については何も分かっちゃいない。寧ろ分かろうとしない。そんな後回しな事をしてたらその内自分の首を絞める事になる。……でもこの勝負に関しては結構私的にはありなのよね。何せ自分をよく知ってもらう為のものでもあるんだから…一星にはちゃんと自分自身を理解してもらう絶好の機会ってわけよね。」
「……ならこっちからも言わせてもらうが何も分かっちゃいないのはそっちだと思うぞっと!」
コチラも端っこの部分のブロックを取り外して上におきそのまま美森姉に良い所をいう。
「……美森姉は……もっと周りに頼れる形で接してくれたら可愛げがあって、幼馴染も安心できる。勿論それはちゃんと相手に伝わる言葉で言えたらの話しだけどな。……」
「何それ…良いところじゃなくて、ただそうだったらいいなってだけの話しじゃない。そんな願望みたいなのじゃドギマギなんて…」
「じゃあ1つ付け加えさせてもらって……外側の美森姉よりも今の美森姉の方が魅力的で可愛い。」
「…………はい?」
「お?今のはもしかしてポイント加点かな?」
「な、何でそんな事が言えるのよ!」
「いや何か間があったからもしかしたらなと思って…」
「自惚れないでくれるかしらね。今のちょっと、あれよ。そう!次はどうやって仕返しをしてやろうかと思ってたのよ。」
動揺してたって事じゃないのかよ。
どもってんじゃないか思いっきり…
「でも今のは良いところというか、客観視点での感想かもしれないな。」
「そ、そうよ!だから今のはノーカンよ。そして次は私のターンだから。」
ふぅ危なかったわ。
ちょっと今のはビックリしたかも。
取り繕う私よりも取り繕ってない私がいいなんて…それって素のままの私の方がいいって事なのよね。
ほんとう今更こんな事で心が動かされてしまうなんて……コレじゃあ私の方が一星に物凄く意識しているみたいじゃないのよ。
そう心の中で自分に何かを言い続けながら意識しないようにして今の気持ちを堪えながら次のブロックを取ろうとした矢先に一星の追進撃が行われた。
「ああ〜今の美森姉を他の奴等に見せられないな〜こんなにも魅力的な女の子に…はぁ〜勿体ないな〜」
「ふぇ!?」
カタン!
ガラガラガラガラ!
ガシャン!
「……あ。」
美森は自分が取ろうしていたブロックに手をかけようとしたのだが、その拍子に積み重なっていたブロックが崩れ落ち美森姉の負けが確定となる。
「俺の勝ちだな。」
「ず、ずるいわよ!今の追撃はいくらなんでもないんじゃないのかしら!」
「いやだって、美森姉ノーカンって言ってたしな。それを無しのままゲームを続行するというのもおかしな話だろう。それにどのタイミングで相手の良いところを言うという話はしていなかった。つまり別にルール上それがダメという事ではないはずだ。」
「こ、この卑怯者…」
「……卑怯者ね〜まぁどっちでもいいんだけど、どちらにせよ美森姉の負けは確定しているわけだしな。」
「そうですか。ええそうですね。そういった形での勝ちが好みなら別にいいですけどね。」
「そう僻むなよ。ちゃんと勝利した理由があるんだから…」
「……聞きたくないんだけれどね。その理由は?」
「美森姉。ブロックを取ろうとした瞬間ドギマギしただろう。動揺してブロックを取る瞬間取ろうとしていた位置がズレて重なっていたブロックが崩れた。そうだろう?」




