またもや疑惑関係
ミーティング室で取り残されたアイドル2人と現場監督をそのままにし一星と菟は外に出て先程菟が話した内容について一星は菟に問い詰める。
「おい!今の話しどう言う事だ!」
「いやどうって言われても〜その〜……えへへ。」
「えへへで誤魔化すな。そんな風に場凌ぎしても無駄だからな。」
「う〜やっぱり駄目か……」
菟は若干焦り顔になりつつ少し涙目になりながら分かりました分かりましたと諦める。
「えーとその、監督さんやマネージャーさんには粗方伝えはいるんだけどね。まだ他の子達には説明していないの、だから神楽坂君といる時にちょうどいいかなって思って、それでさっき神楽坂君に彼氏なんだよって伝えたんだよ。」
「いやそれ理由になっていないし説明にもなってない。ただの感想じゃないか、俺が聞きたいのはどうして、あんな嘘を言ったって事を聞きたいんだ。さっきの社内見学とか体験見学で良かったじゃないか。」
「それもここに入る理由ではあるんだけど、でもねああいう事を言った事で周りからの反応も確かめる必要があったの。」
「確かめるっていったい何を?」
「それは…」
「何しているんだ兎川。」
「マネージャー。」
「マネージャー?」
何だか見た目からしてプロのマネージャーっぽく見えるな。この人が兎川のマネージャー……普通に兎川のストーカーの件何とかしてくれそうに思うんだけどな。
「………その子は?」
「はいこの人が今日連絡した神楽坂一星君です。今日は社内見学然り彼の事を紹介する為に呼んだんです。」
「…………」
「うっ……」
物凄い見られてる。やっぱり怪しいのも当然だよな。話は通してもらってると言っても同学年のしかも男子と一緒なんだ。有名アイドルの近くにいるというだけでも一番兎川の近くで見守ってるマネージャー側からしたら警戒するってもんだ。
テクテクテクテク…
そんな風に思ったのも束の間マネージャーがこちら側へ近づき崩れかけた眼鏡をくいっと指先で整えさせ俺のことを下から上まで観察し手がゆっくりと肩の方まで伸びていき、そして…
「…………いや〜君も苦労が絶えないね〜大変だろうこんなわがまま女の相手をされるのは。」
「へ?」
まさかの思っていた想像とは裏腹にマネージャーさんは何だかこちらの事を共感する様な言い方をしながら涙を流しうんうんと頷いてくる。
「彼女の無理矢理な要求に対しよくそこまで応えくれたものだよ。本当に君は彼女にとっての同級生としての鑑だ!偉い!偉い!是非マネージャーを代わって欲しいくらいに君に彼女を任してあげたいね!」
「え〜〜〜」
まさかのマネージャー放棄発言。この人が兎川のマネージャーって……いや多分色々と苦労したんだろうな。
「何よその周りに迷惑かけてるんだなコイツというような視線は…」
「自覚があるなら改めろ。」
本人曰くどうやら天然で物事を言ってるらしく、他意いはないと思うのだが…いかんせんその辺を配慮すれればマネージャーの苦労が1つや2つ減るという話しではなく…
「私こう見えても周りに気を遣えるアイドルだって評判されてるのよ。だとしたらこれぐらい日常茶飯事…」
「君はこれと友達になってしまったという事を改めた方がいいかもしれないよ。このトラブルメーカーは本当に達が悪いからね。」
「見た感じ苦労が絶えないみたいで大変そうですね。」
側からみても、マネージャーの方は気疲れが絶え間ないような顔をしながら、こちらも共感してしまう様に意図が伝わる。
「もう!私の事はもういいよ。とにかくマネージャー話はもう把握しているなら、彼に自己紹介してあげて。」
「ああそうだったな。」
そういつつ兎川のマネージャーはポケットから名刺を取出しこちらへと渡してくる。
「………アイドル声優マネージャー兼プロデューサー…矢橋健斗さんですか。………うん?アイドル声優?」
あれ?兎川って普通のアイドルなんだよな?テレビとかでチラホラCMとかで見たりしているから人気上昇中のアイドルじゃないのか?
「…………もしかして兎川から何のアイドルかって言うのは聞いていないのかい?」
「ああ、はい…CMとかで出てるぐらいのをたまたま見た事があるのと、学園からかなりの人気アイドルだって言う事はもう耳にタコができるぐらい聞いてはいたんですけど、アイドル声優というのは今初めて聞きました。」
「そうか……はぁ〜〜」
マネージャーの人は深い溜息を漏らしながら兎川の方へ呆れたという顔で冷たい視線を送る。
「だからなんなの!私何かおかしな事した!」
「それよりえーと、神楽坂君だったかな?君には色々と苦労かけるかもしれないが、兎川の彼女になってもし困った事があったらいくらでも相談にのるからね。」
「は、はぁ…」
なんて言うか優しくて良い人なんだけど、かなり忖度が激しくてあまり恵まれない人なんだなとそう思ってしまう自分がいる。
コンコン
「ごめんなさい。そろそろミーティング始めてもいいかしら。」
「あ、すみません。全員揃っていますかね?」
「ええ、3人ちゃんと揃ってるわよ。菟ちゃんに雫ちゃん…そして萌ちゃんの3人よ。」
「ありがとうございます。すまないが神楽坂君、君はここで待っていてくれないか。ミーティングが終わってからになるが、一旦それで残り2人についても話そうと思う。」
「はぁ…」
「ああ大丈夫よマネージャー2人にも彼が私の彼氏だって事を紹介したからってあた!」
兎川が俺の事を勝手に彼氏だというのを公開した事を話すとマネージャーさんは軽く兎川の頭を殴り何やってんだという意思表示を示す。
「いたーい!!何するの〜!?」
「馬鹿かお前は!状況を掻き乱すのがお前の仕事か!てかお前が相談してきた事に、勝手な行動でこっちに負荷がかかると言う事がわからんのか!」
「でもでも最初に言ったらマネージャーさんも話さずに気が落ち着けるかなってそう思ったのよ。」
「それなら順序というものがあるだろうが、それで向こうの反応はどんな反応なんだ?」
「えーと……どう言う反応っていえばいいのかな?」
兎川は俺に顔を向けるが自分もどう答えたらいいかと思い試行錯誤するなか、マネージャーの人は現場監督に目配りをして反応を伺う。しかし現場監督の人は首を横に振りながら、とてもいい結果ではないと悟りまたもやため息を漏らす。
「もういい、兎川からの相談事なのに既にそっち側でしっちゃかめっちゃかされてたらこちら側での迂闊な行動はできん。あの2人にはひとまずミーティングが終わった後に神楽坂君の事を話そう。でないと、あの2人が神楽坂君の事を警戒されてしまうしね。」
?どう言う事だ。警戒される?兎川の彼氏だから警戒されるというのはどうにも良く分からん…いや逆に兎川の彼氏だから警戒されるのか?少なくとも彼女達に良い印象を植え付けつつ彼女達がストーカーかどうかも聞かないといけない……だけど、それがあの2人だけがストーカーなんて保証はどこにもない、もしかしたら別の場所でそいつが兎川のストーカーだっていう事もありうるのか?
「正直その2人が俺に対して警戒をされるのは寧ろない気がするんですが…」
「妙な反応の仕方をするね。そこは少し嬉しがる所のトーンなんだが、落ち込んでの嬉しがるトーンだと、こちら側もどう突っ込んだらいいのか困るな。」
そんな所で困られても困るんだが…問題はその2人の関係をどうにか気付けるのが最融点だ。
「ひとまず時間をくれたまえ、話しが終わり次第またはなすよ。」
「じゃあ神楽坂君また後でね。大丈夫皆んなには私が神楽坂君との相性がいいって言う事を話すから。」
バコン!
「いたーい!!!」
「ほらさっさっと行くぞ。」
頭を思いっきり叩かれた兎川は物凄く痛そうに頭をおさえながらズルズルとミーティング室の中へと入っていき現場監督の人も続いてこちらへ手を振りながら中へ入る。なんともまぁシュールな形となってしまったが…
「前途多難だな。」
ミーティングが終わるまで俺は待合室の場所で缶コーヒーを嗜みつつスマホを弄りながら待つ事にした。
…………ガチャ
ミーティング室から開けられる扉の音…その音に俺はその場所に視線を向けると…
ギロ!
ニコ!
何やら俺の事を睨む目つきと朗らかな目つきでこちらを見るアイドル2人組にどう反応すればいいかわからず萎縮する。
「何だ?中で俺は睨まれてるんだ?」
「………フン!」
こちらを睨んでいた子はそのままそっぽを向きながら何処かへと移動する。
「……何か何も分からないままあちらは俺を毛嫌いしてしまったらしい…てか絶対兎川のせいだよなきっと。」
「ここ座ってもいいですか?」
「え?ああどうぞ。」
今度は逆にこちらへ朗らかな笑顔を向けてきた子が俺に挨拶をし相席を求めそのまま座るのだが…
「よいしょ…」
「え?」
「あれ?何かおかしいですか?」
「いやその……何で隣に座るんですか?」
「え?もしかして嫌でした?」
何でそこで情を抱く様な反応を示してくるんだ。よく分からんぞこの子も…
「嫌とか嫌じゃないとかそうじゃなくて根本的に隣座るのはちょっと常識がズレているような気がするんだよな。」
「あはははそれよく言われます。私実は良くも悪くも純粋だって言われるんですよ。」
「いや俺が言ったのそう言うポジティブな発想な言い方じゃなくてだな。」
ああいや違うな今の発言からするにどうやら他の現場でもこの子に対して手間を焼いているような言い方だと言うのは今し方察してしまった様な気がする。多分だが…
「ところで〜さっきあなたが菟ちゃんとの関係の話しを聞いたんですけど〜」
「あ、ああ…」
「少し詳しく聞いてもいいですか?」
何だ?急に声のトーンにブレみたいなのを感じた気が…てか顔は笑ってるのに奥底には笑ってない裏の顔を匂わせているのは気の所為だろうか?まさかこの子が兎川が言っていたストーカーなのでは?




