美森姉の足の寿命
美森姉が寿命だって?
そんな馬鹿な…走るのに対して寿命がくるだって?それじゃあ俺はなんの為にここまでやってきたんだ。
「寿命ってそれって…」
「そのままの意味よ一星。」
「美森姉。」
「先生話してくれたんですね。」
「あ、ああ。すまない。彼にはちょっとした関係性があってね。その報いというよりかは償いで彼に君の事を話してしまった。」
「別に構いませんよ。大体そのつもりで一星を連れてきたんですから。それに弟と嘘をついたというのもありますしね。」
「そもそも俺を弟扱いにしたというのが俺には理解できなかった。何の為に?と問いをかければ済むかもしれないが…大体の予想がつくから敢えて言わないでおくよ。」
「あら優しいのね。まぁそれぐらいの器量がないとここから先私がいなくなったら困るものね。」
「俺達の前から姿を消す気か?」
「ええ。私に走る事ができないというはそれはもう無価値として当然なのよ。」
「いやそれは違うはずだ。先生まだどうにかできるんですよね?」
「やろうと思えばいける。だがコレは彼女にとっては苦渋の選択にはなるだろう。」
「因みにどう言った経緯になるのですか?」
「……痛みを抑える感覚麻痺。その注射を一時的にだが投与すればどうにかして未知な病を抑え込む事ができる。」
「……それで副作用はどうなんですか?」
「黒い物質が一気に膨れあがれてしまい2度と片方の足は使えなくなる。」
「……ならその話は無しにするとしてもう一つあるんですよね?」
「……あるにはある。しかしコレをすればいいかは正直言って私にはオススメはできない。義足をつけて走ってもらう…最早コレしかオススメができないと言う風にはなるんだが…」
「オススメできないのに進めるんですか?おかしな話しですね。」
「最後まで聞きなさいよ。それで先生…その義足をつけてしまうとどうなるんですか?」
「……2度と外せなくなる。その義足は特殊な義足でね。もう2度と元の足に戻る事はできないだろう。」
「それって一時的につけられる義足なんですか?それとも今後一切私の足はその義足での惜しみがあって走れないと言う事ですか?」
「あはは、そんな楽観的な話しじゃないよ。…もっと重たい話しだ。……片方の足を切り落とす必要がある。この意味がわかるね。」
…………
そうか、だからこの人は美森姉の足の事についていつも慎重に考え物事を発していたんだろうな。
そして今回最後の試合だからこそ究極の選択…それも苦渋の選択にもなるんだ。
でもこの話しには引っ掛かる点がある。
俺は多分それに気付いてはいるんだが…それを話していいのかどうか…
「………そうしたらいつも通りに走れると言う事ですか?」
「いいや今回一度きりだ。それ以降による走りは保証されない。君の天才による副作用はあまりにも歪なんだ。私達元研究員としてでの不手際というのもあるが…それを償う為の力不足というのも理解してほしい。」
「……そうですよね。」
「まだ時間はある。ゆっくり考えてくれたまえ…もしコレからの事を考えるというのなら走らないというもう一つの選択肢があるわけだが…」
「いいえ。それだけは絶対に有り得ません。」
「だろうね。……さて神楽坂君。次は君の問題だ。正直な所私は四月一日さんだけじゃなく他にも四月一日さん同様の副作用を持ち込んでいる子の面倒もみている。悪いが私に何かをするのは後で…」
「しつこいですね。はなっからそんな気はないと言ってるでしょう。自分も目の前の問題に色々と考えているんでそれどころじゃないんですよ。」
「そ、そうか…それならばよかった。」
「あ、因みになんですかが、副作用での対応をしている子を見ているといいましたね?もしかして、日根野谷山茶花という子も見ていたりしていますか?」
「その子も知り合いなのかい!?……まぁそうだね。責任を持って見てはいる。しかしあの子の場合は記憶喪失という…脳の中の問題である為今の所改善策はないのだよ。だから自然に時が流れていくというのが普通の医者と同様の答えになる。」
「……本人の記憶なら既に戻りましたよ。ちょっとした異例ではありますが…」
「何?どう言う事だね?」
「最近診察をしたのはいつなんですか?」
「ここへさ月1で来てもらってるよ。四月一日さんの場合とは別での形で月1で対応をしている。次は5日後に来て再検査という事にはなるがね。……いやそもそもの話し記憶が戻ったというのはどう言う事なのかね?」
俺は先生に洗いざらい山茶花が記憶が元に戻ったという話とそれに紐付いて昔の山茶花の子どもだった記憶を今の今まで生活をしていた山茶花に継承されたという話をした。
そして…
「は、ははは、はは…ば、馬鹿げた話だ。そんな非論理的な事…嫌記憶喪失ならまだ有り得ると言う話か…記憶障害とは違って、また別の意味での記憶改竄…それも違うな。……本当に昔の彼女記憶で元に戻ったのではなく…そのままの彼女自身で昔の自分自身を納得させて、記憶を維持し続けられる事に成功したという認識でいいのかな?」
「そうです。但し丸々記憶をそのまま引き継がれたというわけではありません。」
「え?そうなの?私てっきり昔の事を含めて思いだしたのかと思ったんだけれど…」
「山茶花が昔の記憶を維持し続けられているのはあくまでもキッカケが原因らしい。昔の記憶で起こった些細な部分は覚えていないらしい…」
「それって、本人がインパクトのない記憶じゃない限りは思い出せていないって話なのかしら?」
「うん。だから全てがそのまま思いだしたわけじゃない…副作用に対して克服してもやっぱりデメリットがあるらしい…」
でも昔の一部分を思い出せたと言う事ならもう一捻りしたらどうにかして思い出せそうな気がするな。
まぁそれが俺の時代でどうにかできればの話しだが…
「……検査するまではその話しに関して本当かどうか見定めさせてもらうよ。半信半疑なのは私としても納得はいかないからね。」
「構いませんよ。まぁ本人がその検査で嫌がらなければという話しではありますけどね。……山茶花に無理強いな検査をするものならガチでここがどうなってもしりませんからね。」
「ふふ、肝に銘じておくよ。……さて今日の検診はここまでだ。後の患者が控えているんでね。君達は気をつけて帰りたまえよ。」
そう言って俺達を帰すようにジェスチャーで手の仰ぎをさせながら俺達はこの診察室を後にする。
「……なぁ美森姉。俺をここへ来させたのって、美森姉の事だけじゃない目的があったのを覚えてるか?」
「ええ、あなたはそれをどうやって、質問をするのかを待っていたのだけれど…何で何も質問をしなかったのかしら?」
「……正直に答えていいか?」
「ええどうぞ。」
「……美森姉の問題で最早キャパオーバーなんだよ。」
「え?私のせいって事?」
「ああ、正直美森姉の問題で頭を抱えてる部分がある。美森姉を絶対に走らせるという夢を途絶させるわけにはいかない。だから俺は先生が言っていた苦渋の選択…それが頭から離れられないんだよ。」
「そ、そう。そこまで思っててくれていたのね。」
美森は少しそっぽを向きながら一星に照れる顔を見られないように話す。
「で、でもどうしようもないわよ。私がこの先走る選択肢を取ろうとしても秋の大会で最後になる。なら私はその苦渋の選択のどちらかを選ばなければならないわ。」
「……本当にそうか?」
「え?どう言う意味かしら?」
「俺多分だけど、美森姉をちゃんとした形で走らせる方法があると思うんだ。」
「嘘よ。私はそれを先生から何度も聞いたのよ。日常生活での怠りや改善の仕方…その他もろもろを聞いてはいたけれど…何も問題はないって…あるとしたらもうこの抱えている副作用以外ないんだって…そう言っていたわ。」
「いいや何かしらあるはずだ。悪いが先に帰っててくれないか。少し調べたい事があるんだ。」
「大丈夫?帰り道ちゃんとあの廃屋から通って帰ってくるようにしてね。じゃないとあなた色々な意味で厄介な事になるんだから。」
「分かった。気をつけて帰るよ。」
そう言って、美森姉は先に帰っていく。
俺はここに残り美森姉の秋の大会に向けて調べる為に残りはしたのだが…
「先の先生を訪ねるというのはあまりにも無謀か…となれば何かしら優遇が効くやり方で話を合わせる方法があるわけだが……さてどうしたものか…」
「あら?神楽坂君じゃないのよ。どうしてここにいるのかしら?」
「……コレは驚きましたね。突然学園から出ていったと思われる人にまさかこうやって会うなんて……平川先生こそどうしてここへ?」
まさかの人と出会しただと?
コレは何かの因果か…はたまたこの人に対して俺は色々と言わないといけなくなるチャンスをくれたのだろうか…
「私はここの先生とちょっとお話があってきたのよ。」
「……お話ね〜どう見てもそんな装いしながらちょっとという感じではなさそうですけどね。」
「あちゃ〜そういえばそうね。まずは格好の時点で失敗しちゃったわ。コレじゃあ私の言い分なんて通らないわね。」
「大人の事情であれば詳しくは聞きませんよ。でも以前に親父との関係性があって俺に会いにきた。その事での色々な意味での恩返しがあるなら何かしら俺に謝罪などの誠意を示すべきだと俺は思うんですけどね。」
「まぁなんとガメツイ子なのかしらね。そんな風に育ってしまったというのを目の当たりにしたら何というのやら……まぁそこに関してはどうでもいいんだけどね。……!!そうだちょうどいいわ。あなたに見せたいものがあるのよ。それもかなりあなたにとっては重要だと思うわよ。」
何やら喜ばしくない感じはするんだが…こんな場所だ。それに対して俺はこう答えるしかない。
「是非とも拝見させていただければと思います。」




